このパンがすごい!

世にもうつくしいパンに宿る秘密/リフィート

カンパーニュラスク クルミレーズン

カンパーニュラスク クルミレーズン

■リフィート(埼玉)

 リフィートのカンパーニュラスクは世にもうつくしい。ひじょうに繊細に薄く切られたカンパーニュがまるごと一枚ラスクにされている。ラスクは、ただの生気が失われたパンではない。店主の鈴木伸一さんの手によって、見事に生命が吹き込まれ、カンパーニュの魂が永久保存されるかのようだ。

 噛(か)み砕けば、ぱりっと音高く。幼き日、水たまりに張った氷を壊してまわったような小気味よい崩壊音が頭蓋骨(ずがいこつ)に響く。表面に塗られたはちみつとバターがまるでキャラメルのよう。小麦の風味も香ばしく濃縮されている。ときどき、焼き込まれたレーズンが甘酸っぱさとスパイシーさで揺さぶる。

 うつくしさには理由がある。

 「スライサーで切るとき、設定は4.5ミリに決めてるんですが、微妙なところで。ちょっとでも厚いと硬くなるし、薄いともろくなる。同じ4.5ミリでも力加減で変わってきます」

 1/10ミリ単位の手技が味を決めているとは。鈴木伸一さんは心を研ぎ澄ませてパンを作っているのだ。

 「小麦粉、くるみ、レーズン、酵母……、パンの材料にはぜんぶ命があります。命をいただくことで自分たちが生かされている。そこにすごく感謝の気持ちがあって。命ひとつひとつを大切にしたい。ひとつひとつの行程を大切に、大切に」

カンパーニュ

カンパーニュ

 鈴木さんの気持ちが通じているのだろうか。ラスクの元となるカンパーニュは生命力にあふれて感じられる。焼き込んだ皮の力強い香り、ルヴァン種(自家培養される発酵種)のワインのような香り。2つが争うようにぐいぐい飛び出してきてハイレベルで拮抗(きっこう)している。味わいもまた両者の交点に現れる。自信に満ちた酸味。豊かな熟成香は、酸味を恐れないことの分け前である。さらには旨味(うまみ)やレーズン由来の種の香りも。さまざまな風味や香りが豊富にあるのに、どれも悪目立ちせず共存している。

 きっとルヴァン種がうまくコントロールされているせいなのだと思い、そう水を向けると、鈴木さんからはこんな言葉が返ってきた。

ルヴァン種。自家培養される、いわゆる天然酵母

ルヴァン種。自家培養される、いわゆる天然酵母

 「自分がコントロールしているようなイメージはなくて。あくまでルヴァンという自然がその味になっている。酵母も命。『ありがとうございます』という気持ちで作っています」

 大きく焼いて量り売りするこのカンパーニュは店のセールスポイントになっている。

 「大きく焼くことによって、深みが出る気がしていて。クラム(中身)の深み、しっとり感、クラストのざっくりとした歯ごたえ」

 丸ではなく縦長の形。だから、どこを切っても同じ形にスライスされ、うつくしい。だから、あのラスクの形になる。

紅茶オレンジ

紅茶オレンジ

 混ぜ込み系のパンからは、紅茶オレンジを推したい。じんじんと有機オレンジピールの香りがすさまじい。ゆっくり押し寄せる、アールグレイの香りが柑橘(かんきつ)的なもの同士のマリアージュを引き起こす。それだけではなく、北海道産小麦のもつミルキーさがもたらす、ミルクティーのようなニュアンス。さらには、ルヴァンの酸味が顔を出し、柑橘の鋭い酸味と取り結んでレモンティを思わせる。

店内風景

店内風景

 菓子パンのラインも秀逸。こちらはシンプルで食べやすく、なつかしい。そのひとつ、メロンパン。クッキー生地から巻き起こる、バターと卵によるやさしい甘さの渦。ふさふさして軽い口当たりのパンは、それに飲み込まれないための浮き輪である。

 はちみつクリーム。内部に塗られたクリームの甘さはゆっくりしているけれど、決して物足りなくない。アカシアのはちみつが風味で魔法をかけるからだ。じゅんじゅんと潤いの波が押し寄せ、パンを凌駕(りょうが)していく。

 鈴木さんの命を大事にする感覚。それは店のうつくしさに表現されている。漆喰(しっくい)の白壁がクリーンな店内に、パンを盛った木の大皿がリズミカルに並べられている。厨房(ちゅうぼう)も粉ひとつ落ちていない。うつくしさにはやはり理由があった。それはひと粒の粉さえおろそかにしない鈴木さんのやさしさからくるのだ。

外観

外観

■リフィート
埼玉県さいたま市北区土呂町2-10-8
048-665-8060
10:30~19:00
日・月曜休

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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