東京ではたらく

水族館「アクアパーク品川」飼育スタッフ:稲垣ひとみさん(24歳)

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職業:水族館飼育スタッフ
勤務地:アクアパーク品川
勤続:3年目
勤務時間:8時半~17時半(早番)、9時~18時(中番)、12時~21時(遅番)
休日:週2日
この仕事の面白いところ:毎日生き物と関わり、その行動から日々新たな発見があるところ。
この仕事の大変なところ:言葉の通じない動物を相手にすること。毎日が体力勝負なところ。

    ◇

 品川駅から歩いてすぐの場所にある水族館・アクアパーク品川で飼育スタッフとして勤務しています。以前は同じ会社が運営する横浜の八景島シーパラダイスに勤務していて、こちらに異動してきて4カ月ほどです。

 飼育スタッフは主に魚類を担当するチームと、イルカやアシカ、ペンギンなどの海獣類を担当するチームに分かれていますが、私は海獣の担当で、飼育に加えて毎日行われているドルフィンパフォーマンスなどの企画や進行も担当しています。

 水族館の飼育スタッフと聞くと、毎日かわいい動物たちと触れ合えていいなあ、と思われるかもしれませんが(実際それは楽しみのひとつです)、実際の仕事はなかなかハードです。

 朝はまず動物たちに与える餌の準備から。冷凍庫でカチコチに凍った魚を解凍して、魚の種類や大きさによって選別。与える動物によっては魚を切ったり下準備をして、それぞれ決まった分量を量って分配します。

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目玉イベントであるドルフィンパフォーマンス。イルカたちと一緒に水中に入ってパフォーマンスするのも飼育スタッフの仕事で、1~3年ほど水泳や潜水の訓練を行った人だけが担当できる

 イルカの場合は1日複数回に分けて給餌(きゅうじ)があるので、餌の準備、餌やり、餌用のバケツの清掃、また餌の準備、餌やり…と、この繰り返し。帰る頃には体や髪に魚の臭いがしみついています(笑)

 うちの水族館ではドルフィンパフォーマンスが1日に7~8回、そのほかにアシカ、オットセイ、ペンギンのパフォーマンスもあるため、スタッフは持ち回りでパフォーマンスの演出やMC、インストラクターも担当します。

 その他、空いた時間は飼育場の清掃なども行うので、とにかく時間との勝負。相手は命ある生き物ですから、どの仕事も決して手を抜くことが許されない、緊張感のある職場です。

 とはいえ、そこはやっぱり動物が心底好きで集まってきたスタッフたち。私もそうですが、できるだけ効率よく仕事をして、空いた時間には動物たちの顔を見に行ったり、ときには一緒に遊んだり。そんな瞬間があると、仕事の大変さなんて吹き飛んでしまいます。

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現在、イルカと一緒に泳いで演技をするパフォーマンスのトレーニング中の稲垣さんはMCを担当。「人前に出るのがそこまで得意じゃないので、初めのころはひとり海辺で大きな声を出す練習をしたりしていました(笑)。今では慣れて、会場のみなさんと一緒に盛り上がれるのが楽しいです」

 水族館で働きたいというのは、幼稚園くらいのころからの夢だったのですが、小さい頃からとくに好きだったのがイルカでした。

 いつ、どんなタイミングでそこまで心酔してしまったのかはっきりした記憶はないのですが、物心ついたときからイルカのぬいぐるみを大切にしていて、外出するときもいつも小わきに抱えていたそうです(笑)。

 昔からこうと決めたら一直線という性格だったこともあり、小中高校と、とにかく夢は「絶対にイルカと関わる仕事に就く」ということ。じゃあ、そのためにはどうしたらいいのか? 子供なりにいろいろ考えて、水族館の方に手紙を書いたり、直接スタッフの方に聞いたり。そんな中で、「イルカの研究ができる大学があるよ」と教えてもらい、三重の大学に進学することにしました。

 大学の専門過程では飼育下のイルカの行動や、飼育環境による生理現象の違いなどを研究するため、全国の水族館を回って調査しました。と同時に、夏休みは名古屋の水族館で研修に参加。

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海獣たちの餌はスタッフで手分けして準備。状態の悪い魚をより分けたり、大きさや量を調整したりするのも大切な作業

 一部の水族館や動物園では研修という形で学生を受け入れてくれているんです。それを知って、「どうしてもやりたいんです!」と電話をして。「じゃあ夏休みに研修においで」と言ってくださったのが、名古屋にある水族館でした。

 高校生のときも動物園で研修をさせてもらった経験があったのですが、それは夏休みの2、3日だけ。でも大学時代は1カ月ほど研修させてもらえる機会があって、餌の準備や餌やりを体験させてもらったり、少しですがイルカに触らせてもらえる機会もありました。

 大学でイルカの研究をしていたこともあって、将来はイルカの研究者という道も考えていたのですが、水族館の研修を重ねるうちに強くなってきたのが、「できるだけ多くの人にイルカの魅力を伝えたい」という思い。

 「イルカに関わり、守っていく」という気持ちは同じですが、私は「伝える」という方法で、イルカやそれを取り巻く環境をよりよくしていこう。そんな気持ちで、水族館の飼育スタッフの道へ進むことを決めました。

「イルカってすごい!」。その気持ちが、未来につながってほしい。

ドルフィンパフォーマンスの前のウォーミングアップをする稲垣さん。「遊び好きなイルカにとって、パフォーマンスは仕事ではなく遊びの延長。ストレス発散にもなっているんです」

ドルフィンパフォーマンスの前のウォーミングアップをする稲垣さん。「遊び好きなイルカにとって、パフォーマンスは仕事ではなく遊びの延長。ストレス発散にもなっているんです」

 いざ水族館で働くぞと決めたものの、こと人気のある職種ということで、自分が働きたいと思う園館の求人が定期的にあるわけではありません。就職活動時期は、「今年がダメならまた来年」くらいの気持ちで考えていました。

 ただでさえ狭き門である水族館への就職なのですが、そんな中でもイルカを飼育している水族館に新卒で採用していただけたのは、幸運としか言いようがありません。

 同じ職種にエントリーしている学生のなかには、大学で魚類や海獣の研究を熱心にやってきた人もいて、水族館での研修もほとんどが経験済み。自分と同じように一直線にこの夢に向かってきた人ばかりで、上には上がいるな~と思ったことを覚えています。

 採用されたポイントですか? う~ん、わからないですけど(笑)、体力面は大きかったかもしれません。餌の運搬や掃除など、とにかく力がいる仕事なので。

イルカたちの餌はアジ、サバ、イカなど。バケツごとについているタグにはそれぞれ名前が書かれていて、個体の大きさや体調に合わせて餌の量を変えている

イルカたちの餌はアジ、サバ、イカなど。バケツごとについているタグにはそれぞれ名前が書かれていて、個体の大きさや体調に合わせて餌の量を変えている

 私は小学校時代はバレーボール、中高はハンドボールをしていて、体力には少し自信があったのですが、「水族館の面接では体力テストがあることも」という話を聞いて、大学時代は週2くらいのペースでジムに通っていました。

 入社してはじめに配属されたのは“うみファーム”という魚を扱うエリアで、1年目は魚類を担当しました。でも、入社時からずっとイルカを担当したいと熱烈なアピールをしていたこともあってか、2年目からはずっと夢見てきたイルカやクジラを担当できることに。

 念願かなってうれしい気持ちはあったのですが、最初はやっぱり大変でしたね。イルカは頭のいい動物なので、私が顔を見せにいっても「ああ、新人か」みたいな感じで全然取り合ってくれないんです。先輩たちにはものすごく寄っていくんですけど(笑)。

魚と氷を満載したバケツをいくつも持って餌やりへ。「毎日やっていると腕がずいぶん太くなっちゃって。帰りの電車の中で、ほっぺたにうろこがついてる!と気づくこともたまにあります(笑)」

魚と氷を満載したバケツをいくつも持って餌やりへ。「毎日やっていると腕がずいぶん太くなっちゃって。帰りの電車の中で、ほっぺたにうろこがついてる!と気づくこともたまにあります(笑)」

 とにかくまずは餌やりからということで、餌の準備の仕方や餌のやり方を先輩方に教えてもらう日々。餌の魚もただポイポイ投げればいいだけではなくて、イルカたちが飲み込みやすいように与えなくちゃいけないんですね。

 だから最初は魚の代わりに氷をいっぱいバケツに入れて、餌やりのシミュレーション。それから実際の給餌をさせてもらえるようになって、そこから徐々にイルカに指示を出すサインを勉強していくという感じです。

 サインも微妙に出すタイミングが合わなかったりするとイルカたちがうまく反応してくれないので、これも練習の積み重ね。鏡を見ながらサインを出してチェックしたり、動物相手というより、まずは自分自身の訓練です。

 初めてサインがうまく出せて、イルカと息があったパフォーマンスができたのは、練習を始めて半年後くらいだったでしょうか。そのときはうれしかったですねぇ。慣れてくると少しずつイルカたちの表情がわかるようになってきて、徐々に手応えみたいなものを感じられるようになりました。

パフォーマンスの前にイルカたちの状態をチェックする先輩トレーナー。稲垣さんら後輩は先輩の姿を見て、イルカとの接し方や、細かい変化を察知する方法などを学んでいく

パフォーマンスの前にイルカたちの状態をチェックする先輩トレーナー。稲垣さんら後輩は先輩の姿を見て、イルカとの接し方や、細かい変化を察知する方法などを学んでいく

 本格的にドルフィンパフォーマンスを担当するようになったのは、今の館に移ってからですが、先輩方がイルカたちの日々の小さな行動の違いを敏感に感じ取っていることに気づいて驚きました。たとえば同じショーの同じ演技でも、イルカたちの体調や気分によって微妙な変化があるんです。

 目下の目標は、そういった小さな点にも目を配れるトレーナーになること。そして、これは今まさに訓練中なのですが、イルカたちと一緒に水中に入って、潜ったり、背中に乗ったり、一緒に演技ができるようになることです。

 いちばんやりがいを感じるときですか? 大好きな動物と触れ合って、日々気づきを与えてもらえるというのはもちろんですが、一番はお客様、とくに子供たちがイルカやほかの生き物を見て目を輝かせる姿を見るときですね。

 私も子供の頃、水族館で同じ体験をして今に至っているので、子供たちにもイルカを間近で見ることで、生き物ってすごいな、好きだなと思ってもらえたらと思っています。

◎仕事の必需品<br>水とは切り離せない仕事なので、時計は完全防水のものを。塩水につかってもへっちゃらです。イルカのトレーニングに使うホイッスルはいつも首に

◎仕事の必需品
水とは切り離せない仕事なので、時計は完全防水のものを。塩水につかってもへっちゃらです。イルカのトレーニングに使うホイッスルはいつも首に

 とくに今日は幼稚園の遠足が多くて、ショーのMCをしながら子供たちの歓声がたくさん聞こえてきました。こんなにうれしいことはないですね。

 アクアパーク品川は、新幹線もとまる大きな駅から歩いて2分という東京の中心地にある水族館なので、小さなお子さんを連れたご家族でも気軽に足を運べます。東京に暮らしている方々に、こうして間近に、生き生きしたイルカたちの姿を見ていただけるのは、とても意義のあることだと思っています。

 最初は「かわいい!」「すごい!」というシンプルな感動でいいんです。その先に、イルカが暮らす海や、それを取り巻く環境について興味を持ったり、考えたりするきっかけがきっとある。あってほしいなと願っています。

 そして、その機会をひとりでも多くの方に提供するのが私の仕事。今の職場は海のいきものの魅力を発信する最先端のエンターテインメント施設ですし、今後は東京オリンピックも控えています。

 世界の人々に向けて様々な発信をするとともに、イルカたちの未来を守りたいという自分の思いも伝えていける存在になれるよう、さらに勉強していきたいと思っています。

■アクアパーク品川
http://www.aqua-park.jp

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

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