このパンがすごい!

今こそ北海道小麦を味わう時、めくるめく新麦体験/LAND【新麦シリーズ(1)】

ベーグル ソルト+レモンクリームチーズ

ベーグル ソルト+レモンクリームチーズ

■LAND(京都)

 とれたて挽(ひ)きたての国産小麦を味わう「新麦」。10月20日に北海道新麦が解禁された。解禁直後の今回は、北海道産新麦のおいしさを味わえる一軒を紹介する。

 素材そのものの味をパン作りの中心に据える、骨太な若手が京都に登場した。鴨川のほど近くに開店して2年のLAND。店頭に置かれたエスプレッソマシン、ずらりと並んだ肉厚なベーグルを見て思い出したのはNY。オーナーシェフの吉川潤さんはNYで見たベーグルショップの空気感を京都に持ちこんだ。

 世界に誇る北米産小麦のおいしさを味わうためのパンがNYベーグル。北海道産キタノカオリで作られるLANDのベーグルは、それに対抗しうるものだ。中身はあまりにしっとりなため、舌に密着し、吸い付く。まるでキタノカオリのキス。たくさんの水を抱え込めるこの小麦の特徴を生かしている。噛(か)めば、ぶわんと反発する元気な弾力。このもちもち感もキタノカオリならではのものだ。そして、甘くミルキーな小麦の味わいが豊かにとろけだす。

ベーグル

ベーグル

 吉川さんは仕込みから自ら手がける。低い温度で熟成させ、発酵もゆっくりと。小麦そのもののもつ風味をいたずらに酵母に食いつぶさせず、ポテンシャルは十二分に引き出す作り方だ。

 「NYのベーグルはベーグルとして完成しているけど、パンとはして完成していないと思ってます。ぎゅっと詰まってもちっとしたベーグルを、ちゃんと発酵・熟成させて作りたい」

 小麦の持ち味を引き出そうとする考え方のバックボーンは、自家焙煎(ばいせん)のコーヒーショップに勤めた経験にある。

 「畑や集荷場によって豆の個性はぜんぜんちがう。シングルオリジン(生産地限定の豆をブレンドせずコーヒーにすること)がスペシャルティコーヒーの流れ。自分の表現より、キタノカオリをどう伝えていくか(を重視している)」

 フランスパンでは、小麦はキタノカオリからホクシンに変わる。フランス産小麦の向こうを張れる一癖ある香りが特徴の小麦。生地もより風味にダメージを与えにくい手ごねで作られる。パヴェは、バゲットより中身が大きくとれる形。エアリーでぱふぱふ。皮には炭焼きしたかのようなさわやかな焦げ感と旨味(うまみ)がある。中身だけ食べてみよう。静かに、しかし燃えさかる小麦のフレーバーに驚くはずだ。

ジャンボンブール

ジャンボンブール

 LANDに並ぶのは、ベーグル、ペストリー(シナモンロールやマラサダなどアメリカっぽい菓子パン)、バゲットやカンパーニュなど食事用のパン。日本的な総菜パンは作らないのが、吉川さんの流儀。代わって、注文してから作るできたてのサンドイッチがある。

 ジャンボンブールはハムとバターだけをバゲットにはさむ、フランスの定番サンドイッチ。LANDではハムから手作り、あたためたパンに冷たいバターをはさむ。ハムのぼよよん感に卒倒。生々しい肉の風味は低温調理ならでは。そこに黒こしょうがぴりぴりと色気を奏でる。切りたてのバターが舌でとろり、ホクシンの甘さと重なり合い、混ざり合う、めくるめく時だった。

 バゲットを使ったミルクフランスも骨太なる逸品。ぼむっという弾力とともに噛みしめる。北海道産小麦ならではのミルキーな甘さが滲(にじ)みだすや、内側からむにゅーとミルククリームがあふれだし、小麦の甘さを追い抜き、そして合一する官能的体験。

 卵サラダサンドに使用される食パンのクッションぽわんぽわん、このやわらかなはずみよう。ふにゃーんと舌の上でとろけ、形をなくしていく切なさ。北海道産小麦の甘さは、熟成をきかせるとこんなふうにキャラメルのニュアンスを奏でる。そんな食パンに包まれたこれまた甘い玉子。甘さの洪水の中、息をつかせてくれるのはディジョンマスタードの酸味。

外観

外観

 極上のベーグルとコーヒーを持ってテイクアウトすれば、気分はニューヨーカー。私がチョイスしたのは、ゴマやポピーシードなどがトッピングされたベーグル「エブリシング」+九条ネギクリームチーズ。九条ネギをチャイブに見立てれば、確かにNYでも成立する組み合わせだ。向かった先は、ほど近い鴨川の河原。遥(はる)かなるNYに思いをはせつつ、食べるベーグルは国産小麦。鴨川の流れを見ながらの、さながら二都物語だった。

■LAND
京都市上京区荒神口通河原町東入ル亀屋町128
075-231-7738
8:30~17:00(売り切れ次第終了)
水・木曜休

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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