東京の外国ごはん

魅惑のカレーは、”おいしい!たのしい!スパイシー” ~サファリ(アフリカ料理)

魅惑のカレーは、”おいしい!たのしい!スパイシー” ~サファリ(アフリカ料理)

アフリカ料理屋さんに“魅惑のエチオピアカレー”があるらしい……。そう聞いて、さっそく向かったのが「SAFARI AFRICAN RESTAURANT BAR」、通称“サファリ”。赤坂の中心街、飲食店が連なる雑居ビルの2階にある。暗い階段をあがると、青い扉に“おいしい!たのしい!スパイシー”の文字があった。これだ!

迎えてくれたのは、エチオピア出身のオーナーシェフ、ワンダサン(Wandwesen)さん。店内は大きな音でアフリカンミュージックがかかり、アフリカの民芸品などが所狭しと飾られていた。カウンターとテーブル席、あわせて24席ほどのアットホームな空間だ。

アフリカ料理といっても、これまでアフリカに縁のなかった私はさっぱり想像がつかない。カレーというからには辛いのだろうが、エチオピア料理全般が辛いのか、地方によって違うのか。はたまたどんな食材を使っているのか……?

本場の味、エチオピアカレー「ドロワット」を食べてみた

さっそく注文したのは、噂(うわさ)のカレー「ドロワット(Doro Wat)」(1300円)。赤茶色いソースの中に鶏肉が見える。表に見える具はそれだけ。そこに卵のスライスがのったシンプルなカレーだ。現地ではこれを“インジェラ”という酸味のあるクレープのようなものに包んで食べることが多いそうだが、今回は黄色いターメリックライスにかけて食べることに。「かなり辛い」と聞いていたので、おそるおそる、小さくスプーンにすくって口に運んだ。

パクッ……。口に入れた瞬間、正直「それほど辛いかな?」と思った。が、5秒ほどたってわかった。やっぱり辛い! これまで食べてきたものと辛さの種類が全然違う。だから一瞬わからなかったのだ。食べた瞬間すぐに感じる辛さではなく、じんわりくる辛さ。口の手前で感じるというより、奥で感じる辛さ。そのわりには直球、ストレートに脳天にくる。3口目くらいで額に汗がじわっと吹き出してきた。

「辛いでしょ。でも、食べているうちにだんだん慣れてくるんだよ」。横に立っていたワンダサンさんは涼しい顔で言う。

聞けば、具材はシンプルだ。大量のタマネギと、鶏肉、ゆで卵、そして“バルバレ”というエチオピアの伝統的な香辛料で赤唐辛子などを使ったスパイスミックス。日本では売っていないので、エチオピアにいる家族から送ってもらっているそうだ。

「水は一切使っていません。全部タマネギの水分です。だから50人分くらいで30〜40キロは使うんです。手間がかかる料理なので、エチオピアではお正月やお祭りのときなど、特別なときしか作りません」

なるほど、このストレートにくる濃縮されたような辛さは、水を使っていないからなのかもしれない。

「日本人はよくシメでラーメンを食べるでしょ。その感覚で、うちの常連さんは飲んだ後にこのカレーを食べにくるんです。汗をいっぱいかくから、体の中にあるアルコールやいらないものが出ていくんです。これを食べてから家に帰るっていう人も多いですよ」

ワンダサンさんはそう話す。

カレーと一緒に注文したのは、もう一つの人気メニュー「ビーンズサラダ」(750円)だ。レンズ豆と細かく切ったピーマンとトマトを混ぜ合わせたもので、味付けはシンプルに塩こしょうと酢、オリーブオイル。カレーと一緒に食べると、辛さがやわらぎちょうどいい。一口食べると口の中がさっぱりし、カレーのあの辛さをついつい欲してしまう。これぞ無限ループ。

それにしても、エチオピア料理はどれもこんなに辛いのだろうか。ワンダサンさんに聞くと、「そういうわけではない」という。

「一口にエチオピアといっても多民族国家なので、民族によって料理は少しずつ違います。辛いものも甘いものもあるので、辛さが苦手な人は辛くないものを食べるし、体調によっても変えます。一般的な特徴といえば、インジェラというクレープのようなものを食べること、野菜、豆、肉、魚、フルーツなど何でも食べることですかね……」

意外にエチオピアは野菜が豊富なのだ。アフリカと聞くと、どうしてもサバンナのような暑くて乾燥した気候を想像してしまうが、エチオピアは国土の大部分がエチオピア高原を中心とする高地。冷涼な気候で雨も多く、農耕が盛んなのだという。海も近いので、魚介類も手に入るし、魚介類もとれるし、肉にいたっては牛、鶏、ヤギ、羊、ラクダ、ワニも食べる。唯一食べないのは、宗教上の理由で豚くらいだ。そういえば、壁には「アニマル定食」という貼り紙がある。ダチョウのタタキ、ワニのから揚げ、カンガルーのから揚げ……。見たこともないメニューに好奇心がそそられる。

新宿『ローズ・ド・サハラ』で働くために日本へ

流暢(りゅうちょう)に日本語を操るワンダサンさんは、エチオピアの首都、アディスアベバ出身。もともとは、留学生として3年間上海の大学で国際関係を学んでいたという。そのときに東京へ遊びにきたのが最初の来日だった。

「たまたま新宿にあったアフリカ料理のレストラン、『ローズ・ド・サハラ』に行ったんですが、そこのマネジャーと仲良くなって。学校が終わったらうちで働きなよ、と声をかけてもらったのが日本に来るきっかけになりました」

とはいえ、その頃はまだ大学生。卒業したら韓国で英語教師などをして働くことになっていたため、ワンダサンさんは予定通り韓国へ行った。そしてその2年後、1997年に再来日。『ローズ・ド・サハラ』で働くためにやって来た。20代半ばのことだった。

ワンダサンさんの持ち場は最初からキッチンだ。特に料理が好きなわけではなかったが、幼い頃から母親に仕込まれていたので得意だったのだ。エチオピアでは普通男性は料理をしないそうだが、ワンダサンさんの家族はそんなことは気にしなかった。しかも、家を出てからは海外での一人暮らしの中で自炊する機会が増え、料理は“暮らしの一部”になっていた。

キッチンで他の国のアフリカ出身者と一緒になると、その国の料理を教えてもらったり、友達を家に呼んでパーティーをするうち、次第にアフリカの他国の料理も覚えていったりしたという。

そして2007年、同店が閉店してしまうと、翌年ワンダサンさんは自分の店、「SAFARI AFRICAN RESTAURANT BAR」をオープン。『ローズ・ド・サハラ』からは、インテリアの装飾品だけでなく、いくつかのレシピも引き継いだ。

「自分のお店を開くことは、いろいろあった夢の一つでした。他にもやりたいビジネスはあったんですが、アフリカに行く前後にレストランに来てくれる日本人のお客さんがたくさんいて。そういうお客さんが来られる場所を残したかったんです」

場所選びには苦戦した。本当は慣れ親しんだ街、新宿でやりたかったが、なかなかいい物件には出合えず、不動産屋さんに紹介されたのが赤坂のこの場所だった。

大変と感じるか、楽しいと感じるかは自分次第

今年でオープンから9年。ランチと夜の営業があるので、連日仕込みに追われ、ほとんど休みもない。「日本人のスタイルで働いているよ」と笑う。でも、大変なことはないという。

「大変ではなく、僕は楽しいと思っているんです。同じことをやっても、大変と感じるか、楽しいと感じるかは結局自分次第でしょう。楽しいと思えば、何でも楽しくなるものですから」

ワンダサンさんから突然出てきた言葉に、はっとする。そして彼は、「大変そう」「難しそう」という言葉は嫌いなんだ……と続けた。

「そういう言葉って、やる前からあきらめている感じがするんです。大変もなにもない。やってみたかったらやるだけ。好きか嫌いか。好きだったら心から一生懸命やるから大変ではないし、嫌いならやらなきゃいい。やりたくないと思ったらそこで終わり」

そう、たしかにその通り、本来はシンプルなはずだ。

ひと通り取材が終わると、ワンダサンさんはいくぶんリラックスしたように、今度は私にいろいろと質問をしてきた。そうやってたわいもないおしゃべりをしていると、なんだかこちらも楽しくなってくる。きっと、ここへ来るお客さんはワンダサンさんとのおしゃべりも楽しみの一つに違いない。案の定、ワンダサンさんは「僕は友達が多いんですよ」と言った。

「日本人も外国人もたくさんいます。お店が終わったらよく友達と飲みに行きますね。やっぱり、何事も友達がいないとできないんです。一人で何かをしようとしてもだめ。それに、アフリカ人とだけ、日本人とだけ、外国人とだけ付き合っていてもだめ。人種なんて関係なくみんなと付き合わないとね」

ワンダサンさんのおしゃべりには、ところどころにピリッと“スパイス”が入ってくる。それほど多くを語らないのに、ふとした瞬間にはっとさせる。サファリは、私にとって未知のアフリカ大陸への扉を開いてくれる予感がした。

■SAFARI AFRICAN RESTAURANT BAR (アフリカ料理)
東京都港区赤坂3丁目13−1 ベルズ 赤坂 2F
電話:03-5571-5854
https://www.facebook.com/SAFARI-AFRICAN-RESTAURANT-BAR-209139565797870

>>写真特集はこちら

PROFILE

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

どこまでも「あの味」を求めて ~ブリマデ(バリ・インドネシア料理)

一覧へ戻る

味の決め手は酸味と笑顔~アテ(フィリピン料理)

RECOMMENDおすすめの記事