花のない花屋

お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

〈依頼人プロフィール〉
水川はなさん(仮名) 37歳 女性
岩手県在住
会社員
    ◇

  私は10年ほど前から生け花教室に通っています。そこで、人生で大切な存在となる先生に出会いました。先生は物心ついた頃からお花を生けていたそうで、お花とともに人生を紡いできた方です。エネルギッシュな行動力があり、太陽のような笑顔が印象的。明るくて親しみやすいので、みんなにとって第二の母のような存在でした。でも、ある日突然、先生から笑顔も笑い声も消えてしまいました。

 すべてを奪ったのは、東日本大震災です。先生の家は海が見える場所にあったため、津波にすべてを持っていかれました。先生ご自身は命からがら高台に逃げましたが、それまで当たり前にあった日常、家、思い出、大切な花器……すべてを一瞬にして失いました。

 小学校の避難所暮らし、みなし仮設の市営住宅と住まいを転々としながら、1年後には生け花教室を再開されましたが、その間ずっと空虚感やフラッシュバックに苦しんでいました。

 月日とともに少しずつ先生の笑顔や笑い声も戻ってきましたが、今年の春、先生は病に倒れてしまいました。面会謝絶の日々が続き、2、3カ月後にようやく退院。しばらくは自宅療養していました。

  そんな中、私はときどき先生とメールのやりとりをしていましたが、ある日先生から「家に来ませんか」とお誘いがありました。再会の喜びと不安を抱きながら伺うと、先生からは耳を疑うような言葉。「入院してからは、花を見たくないときもあったの」と言うのです。お稽古(けいこ)中には、「風邪をひいても、お花に触れていれば元気になるわよ」と言っていた人です。私が想像できないほどの深い絶望と不安、恐れがあったのでしょう。そして、先生の話は続きました。

「でもね、先週NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で東信さんを見て、コレだ!って思ったの。衝撃的で、うれしくて。不安だけど私も前向きに頑張るわ」

 先生は、以前私が東さんの著書『花と俺』を貸して以来、東さんのファンでしたが、番組を見て作品はもちろん、日々熱心に研究されている姿勢に強く共感したとのことでした。

 そこで、先生が前向きに花と向き合うきかっけを持てるようなお花を、東さんに作ってもらえないでしょうか。先生の“花スイッチ”が入るよう、東さんらしい、強いエネルギーを感じるようなアレンジだとうれしいです。

  先生は65歳。草月流師範で、繊細というより大胆な生け方をされます。前衛的な作品が好きで、強い色や同系色でまとめたアレンジが好みです。地方に住んでいて珍しい花材がないので、できればあまり見られないようなお花を使っていただけたら喜んでくれると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

花束を作った東さんのコメント

 今回は僕の好きな花材、珍しい植物をたくさん使い、南国風のカラフルな花束に仕上げました。

 主な花材は、キングプロテア、ヘゴゼンマイ、食虫植物のサラセニア、ストレチア、バーゼリア、アガパンサスの実、パフィオペディラム、花付きのエアープランツ、グズマニア、トリトマ、ケイトウなど。どれも個性的な形をしていて印象の強い花です。

 前回と同じようにカラフルな花束ですが、前回は供養のお花。今回は応援の気持ちをこめたので、自然と力強い花束になりました。

 花が強いので、リーフワークはそのエネルギーを逃がすために薄緑色のドラセナをたっぷり使っています。ここに濃い緑色を持ってくるとさらに印象が強くなってしまいますが、ドラセナならその強さを中和できます。

 先生の“花スイッチ”、入ったでしょうか?

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お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

お花とともに人生を紡いできた、生け花の先生へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

心のなかで生き続ける、赤ちゃんの虹介へ

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まさか友達になるとは……。いまでは「心友」の彼女へ

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