このパンがすごい!

夫婦でつくるパンと器のおいしい関係/パンと器 yukkaya

シナモントーストとコーヒー

くるみシナモンロールとコーヒー

■パンと器 yukkaya(東京)

 パンと陶器の両方を売る店がある。粕谷奈津子さんのパン、粕谷修朗さんの器を売るyukkaya。

 静かな音楽が流れていた。店の中心にはパン。向かって左側にはモノトーンがうつくしい器。そして、右側には窓に沿ってカフェのカウンター。

 くるみシナモンロールをイートインした。妻の作るパンが、夫の作った器にのる。パンと器はよく似た感性から作り出されるのだろう。というのも、二つはとてもよくなじみ、「マリアージュ」していたからだ。

 普通のシナモンロールとはちがい、ハード系のような生地。かりかり感とシナモンシュガーが合わさる新しい体験。かりかりの内に待機したもっちりから、国産小麦が芳醇(ほうじゅん)に溶けていく。シナモンの残り香が漂う口にコーヒーを含むと、満ち足りた気持ちと軽い酩酊(めいてい)感が訪れた。

 パンと陶器を売って違和感がないのは、なぜなのだろう。職人が作品に黙々と向かい合うアトリエに特有の張り詰めた空気のせいではないか。粕谷奈津子さんは夜中の2時か3時にきてパンを作る。たったひとり納得のいくまで生地に向き合う。そんな作り方が許されるのは、ゆっくり発酵が進む手作りの種だからだろう。

 小麦粉から起こした種(ルヴァン種)、ライ麦から起こした種(サワー種)。約10年にわたって継ぎつづける。ゆっくりとした発酵が生むうつくしい香りがyukkayaのパンを特徴づける。

全粒粉の山食パン

全粒粉の山食パン

 それがよくわかる、全粒粉の山食パン。副素材をできるだけ少なくしたリーンな食パン。バターのような明るい甘さを持つ耳。ぷりんと歯切れる中身から、きりりとした酸味とともにワインのようなフレーバーがあふれる。甘さ、酸味、発酵の風味がかわりばんこに押し寄せ、めまぐるしい追いかけっこ。ルヴァン種のよさを存分に楽しませてくれる。

 粕谷奈津子さんは約10年前、それまで勤めていた出版社を辞め、陶芸の修行をする修朗さんに付き添って沖縄に渡り、パン屋をはじめた。東京に戻ると、あこがれだったゼルコバ(当時は立川市。現在は山梨に移転)に勤めた。農業を営む旧家の一角にあるパン屋だった。

 「畑の収穫を手伝わせてもらえたのはいい経験になりました。にんじんがたくさん収穫されたら、『にんじんのパンを考えよう』。そういうのを私も自分の店でやりたいな。素材からパンを考える癖がつきました」

さつまいもと小豆

さつまいもと小豆

 秋にとれたさつまいもをパンにした「さつまいもと小豆」。小豆入りの生地に包まれたさつまいもは、天然のあんこ。てっぺんにトッピングされたシナモンとすばらしい相性。生地はもちもちで、噛(か)み締めれば小麦の口溶けと、発酵種の香りが噴出する。

 ショコラサンドは、人を狂わせずにおかない。香ばしく焼き締めたリュスティックにはさんだ、フランス産チョコレートから作ったガナッシュ。どろっと舌の上にチョコがのる瞬間、あふれだすカカオの風味、酸味。そこにコクを添える生クリームのミルキーさ。他に何を望むものがあるだろう。

コーヒーとホワイトチョコ

コーヒーとホワイトチョコ

 「自分の好きなものをパンにしてしまうんです」と粕谷さんが言うのはすごくわかる。好きな人でなければ、上質なチョコをこんなにたっぷりとのせてパンを作ろうと思わない。

 もうひとつ、粕谷さんの好きなもの、コーヒーで作った「コーヒーとホワイトチョコ」。コーヒーのつぶつぶから発散される芳醇な風味を、すかさずなだめるホワイトチョコ。小麦もまったりと溶ける。コーヒーの香りは皮の香ばしさをも倍加する。

全粒粉の山食パンのトースト。東府中のコフィア エクスブリス ケトルにて

全粒粉の山食パンのトースト。東府中のコフィア エクスリブリス ケトルにて

 その風味の強烈さに比して、コーヒーに棘(とげ)がない。府中市内にあるスペシャルティコーヒー専門店「コフィア エクスリブリス ケトル」のもの。ちなみに、この店では、先述した全粒粉の山食パンのトーストをコーヒーとともに楽しむことができる。絶品だった。

 こね、形を作り、窯で焼く。パンも陶器も、そのことには変わりない。人の手が作る、飾り気のない武骨なパンは、陶芸に比すことができる、食べられるアートだ。

外観

外観

■パンと器 yukkaya
東京都府中市美好町3-6-33 スクエア尾崎 1F
042-368-7445
11:00~18:00(イートインはL.O.16:00 お子様はご利用いただけません)
月曜、火曜休み

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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