このパンがすごい!

夫が育てた小麦を使って妻が焼く、スパイスは湘南のテロワール/パンとチーズ fumoto

fumotoバゲットに、コンテ6カ月熟成、ブルー・デュ・ヴェルコール・サスナージュ


fumotoバゲットに、コンテ6カ月熟成、ブルー・デュ・ヴェルコール・サスナージュ

■パンとチーズ fumoto(神奈川)

 fumoto=山の麓(ふもと)。代官山の懐に抱かれた緑豊かな大磯の邸宅街にある、ナチュラルな素材にこだわったパン屋。素材は裏切らない。必ず食べ手の印象に爪痕を残す。

 fumotoバゲットの場合、皮。食べた瞬間、鼻腔(びこう)まで一気通貫する華々しい香ばしさ。てっぺんのおこげのところは濃厚に、スパイシーな刺激をともなって。側面の焦げてないところはバターのような甘さとして。ちぎった一片を口に放り込めば、ふさふさもっちりな中身を歯が突き破っていった先に耳まで達するほどのぱりぱりが待っている。やがてミルキーな甘さがじゅわっときて、それが消え去っても小麦のささやきが聞こえつづけている。

 青沼一彦さんは、東京での広告代理店勤めを捨て、大磯に移住した人。
「あまりに即物的な広告の仕事は僕には向かないな。いつかは土に近いところで仕事をしたいとずっと思っていました」
自給自足を夢見て、「あしがら農の会」に参加。近隣の100家族が完全オーガニックで農業に取り組む。
「自分の畑でとれた小麦で焼くパン、いいんじゃないか」
一彦さんが育てた小麦を使い、妻の昌子さんが焼くパン屋。そんな青写真の実現に、思わぬハードルがあった。小麦は誰かが挽(ひ)かなければ、パンにできない。
「いろんな製粉工場に持ち込みましたが、うまくいかなくて。うわさに聞いたミルパワージャパンにたどりつきました。すばらしい粉ができた。こんなに製粉でちがうんだ」
 「湘南小麦」の名は聞いたことがある人も多いだろう。ミルパワージャパンでは大型の石臼を超低速で回すことで(熱を持たないために)、小麦の風味を逃さず製粉できる。自家栽培のニシノカオリはえもいわれぬ香ばしさを放つ極上の全粒粉となったのだ。

はちみつとヘーゼルナッツのカンパーニュ


はちみつとヘーゼルナッツのカンパーニュ

 fumotoのパンは、北海道産キタノカオリ+ミルパワージャパン製粉による地元産小麦が基本となっている。キタノカオリで甘さのベースを、石臼挽き全粒粉で香りのインパクトを作りだす。
小麦を活(い)かすのは自家培養される発酵種。小麦から起こしたルヴァン種とレーズンやプルーンから起こしたフルーツ種の2種類で奥深い風味を演出。けれど、それは前面に出すぎず、素材の持ち味をより蠱惑的(こわくてき)なものにする。

 そのいい例は、はちみつとヘーゼルナッツのカンパーニュ。イタリア産有機はちみつのほのかな甘さは、発酵種の風味と相まって、舌と鼻腔からの両面作戦でそそりまくる。皮においては、がつんとしたボディ感と渋みとに相まって味噌(みそ)を塗った焼きおにぎりのように、中身においてはみたらし団子のように。ヘーゼルナッツのコクも合いの手となり、病み付きの度を増させる。

かぼちゃナッツ


かぼちゃナッツ

 かぼちゃナッツは、ローストしたかぼちゃを練り込んだパン。小さな気泡によるふわふわぷにぷにとした食感が快い。パンという姿を得てより軽やかに駆けまわるかぼちゃの甘さ。ときどきピーカンナッツとひまわりの種のかりかり。ナッツの魅力で甘さの媚態は再加速する。

 「パンとチーズ」を屋号で名乗る理由。昌子さんはCPA公認チーズプロフェッショナルの資格を取得。本格的なチーズをパンといっしょに買える。たとえば、青カビチーズ「ブルー・デュ・ヴェルコール・サスナージュ」。田舎の農家のようななつかしい香り、ミルキーさが口にあふれる。チーズの風味はなんとパンを要求することだろう。そこで、fumotoのパンを齧(かじ)る。やってきた小麦の香りによって、たちまち幸福感に満たされた。

 CPA公認チーズプロフェッショナルが作るパン、フォカッチャフロマージュ。市販のシュレッドチーズは使わず、ドイツのステッペンとフランスのコンテ(チーズは日によって変わる)のブロックをすりおろして使用。凡百のチーズパンにない重厚な風味が次々と押し寄せる。

フォカッチャフロマージュ


フォカッチャフロマージュ

 地域の人たちといっしょに畑を耕し、収穫された小麦を最高の石臼挽き製粉によって、テロワール(土地の味)が感じられるパンにして、地域へ還元する。その経験は、青沼さんを、ミルパワージャパンと協力して行われる「麦踏み塾」の活動に向かわせた。麦踏みやセミナーを通して、食べ物が生み出される自然を体験してもらう。いきすぎた消費経済によってブラックボックス化した食を変える試み。青沼さんの信念は「湘南小麦」のブランド名とともに浸透しつつある。

入り口


入り口

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■パンとチーズ fumoto
神奈川県中郡大磯町西小磯789-13
0463-79-8100
12:00~16:00(売切れ次第で終了)
木曜、土曜のみ営業
http://oiso-fumoto.com

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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