花のない花屋

大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

〈依頼人プロフィール〉
福島淳さん 60歳 男性
神奈川県在住
自由人

    ◇

 同じ会社の彼は、私の3年上の先輩です。後輩思いの優しい人柄で、職場の人間関係やプライベートな悩みにも、いつも親身になって相談にのってくれました。職場が離れても、折にふれ飲みながらグチを聞いてもらえる関係です。だからこそ、あの事故の一報を受けたときは、何かの間違いであって欲しい、と切に願ったものです。

 6年半ほど前の東日本大震災があったとき、先輩は岩手県北部の事業所に出向していました。海沿いだったのでその事業所も被災。設備の大半は津波にさらわれ、壊滅的な損害を受けました。日頃の訓練と地震直後の的確かつ迅速な対応で、従業員はみんな無事だったのが不幸中の幸いです。

 幹部だった先輩は、すぐに職場の復旧と従業員のケアで寝る間もなく奔走していました。そして地震から3、4日後……その事故が起きました。ストレスと疲れがたまっていたのでしょうか、運転中にくも膜下出血で意識を失い、車が市街地のアーケードの支柱に激突して大破。通行人を巻き添えにしなかったのがせめてもの救いですが、本人は生死の境をさまよう重体でした。

 人手と物資が不足する中、多くの方々の協力で先輩は八戸の病院へ搬送され、そこでは手に負えないとのことで、救急車で東京へと移送されました。その間、奥様が意識のない先輩の手をずっと握りしめていたそうです。そして、懸命な治療によってなんとか一命をとりとめることができ、1年後には自宅のある千葉で職場復帰を果たすことができました。まさに奇跡的な出来事でした。

 そして1年半前のこと。先輩は突然、岩手の事業所へ戻ると言い出しました。定年を再延長した上での単身赴任に「なぜですか?」といぶかる私に、「実はやり残したことがあるんだ」と告げました。どうやら後輩である若手社員たちのフォローをしたかったようです。先輩らしいケジメのつけ方でした。

 そんな先輩がこの9月末で役目を終えて千葉に戻ってきました。今はまた、同じ会社の別のセクションで働いています。

 今回、改めて長年お世話になったお礼と、この6年半あまりのねぎらいの気持ちを込めて、淡い色のコスモスの花束を贈りたいです。コスモスがなければ、他の花でも大丈夫です。先輩は穏やかな性格なので、強い色の花よりは、淡い色の花が似合うと思います。先輩の趣味は写真撮影。被写体は主に風景で、絶景よりも日常生活の中にある何気ない風景を得意としています。人付き合いにおいても、積極的に弱者に寄り添おうとする先輩の姿勢は、写真にも通じているような気がします。どうぞよろしくお願いいたします。

大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

花束を作った東さんのコメント

 コスモスの花束をとのことだったので、コスモスを中心に据えたアレンジにしました。ピンクやオレンジ、白いコスモスの中にある黄色い小花は「ウィンターコスモス」という品種。別名、ビデンスというキク科の花で、10月から12月に開花します。コスモスに姿形がそっくりなので、この名前がついています。

 コスモスはオアシス(吸水スポンジ)に挿しにくいので、実は真ん中に花瓶を入れており、そこに生けています。コスモスが先に枯れてしまったらここに他の花を入れることもできますよ。

 まわりの花はご希望に添ってふんわりとまとめました。一番上の層からアスチルベ、ワックスフラワー、シレネ、ネリネなどです。ところどころに多肉植物のセダムも入っています。リーフワークはルスカスの葉を使いました。

 コスモスは、昔は時期になるとあちこちの道ばたに咲いていましたよね。コスモスを見ると、なんとなくいつか見たような風景が想起されます。先輩の反応はいかがでしたでしょうか。

大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

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大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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http://azumamakoto.com/

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