このパンがすごい!

やめられない止まらない、だしから生まれる病みつきの味/ブーランジェ エス カガワ

パン・ド・カンパーニュ

パン・ド・カンパーニュ

■ブーランジェ エス カガワ(大阪)

 パン・ド・カンパーニュの入っているビニール袋に顔をうずめて、すーはーすーはー思わず吸い込んだ。何度嗅いでも不思議だ。焼き肉みたいな匂いがする。あるいはコンソメの香り。ちぎって口に放り込む。甘さだけではなく、「満足感」のようなものがすーっと体中に満ちていく。言葉にはならないが本能的に感じるなにかだった。

 エスカガワのパンはおしなべて、塩気をとがらせず、味わいは丸みを帯びているが、満足感の気配を漂わせている。それはなぜなんだろう。加川慎二シェフと話しているうち、驚くべき理由が明らかになった。

 「仕込み水の中に真昆布を入れています。バゲットの旨味(うまみ)をどうやって出したらいいか、ずっと考えていました。旨味ってアミノ酸なんだからダシを入れればいいと。しいたけやかつおぶしでは匂いが出るので、昆布にしました」

 仕込み水も、水道水をろ過したものを使う店が大半である中、原価を惜しまず、ナチュラルウォーターを使用。

 「三重県大台ケ原の天然水『森の番人』でパンを仕込んでいます。パンを作る素材の1/3は水。飲んでいちばんおいしい水で仕込んだらパンもおいしくなるんじゃないかな」

 粉と混ざってしまえば、水の味はわからないと考えるパン職人も多い。だが、エスカガワのパンが、ダシ感とともに、すっきりとクリアな味わいを特徴とするのは水のせいかもしれない。

ジャンボンフロマージュ

ジャンボンフロマージュ

 満足感=うっすら気配として漂うグルタミン酸(昆布ダシ)。パン単体で食べるときはもとより、具材との組み合わせで、まさにダシとしての力を発揮する。そのいい例は、ジャンボンフロマージュ。バゲットの中にハムとチーズをはさんだ定番中の定番。だが、いままで食べてきたものとはなにかちがう。パルミジャーノチーズと無添加ハムにダシ感のあるパン。アミノ酸×アミノ酸×アミノ酸。あまりにも病みつき感がすごくて、約束に遅刻しそうになっても、どうしても途中で食べるのをやめて席を立つことができなかった。

 エスカガワのパンはシンプルが信条。「ごちゃごちゃしたのは作りません。製法もややこしいことはしないし、(食品添加物など)変なものは使わない」

 研ぎ澄ませて、素材と素材の組み合わせの妙で勝負する。セーグルシトロンはライ麦パンにレモンの組み合わせ。切った瞬間パンから飛び出してくる、きれきれの柑橘(かんきつ)感が、心地よく鼻腔(びこう)に刺さる。甘酸っぱさとおだやかなライ麦の風味がどこまでも心地いい。

セーグルシトロン

セーグルシトロン

 「パリをぶらぶらしているとき、セーグル(ライ麦パン)にレモンの輪切りをそのままのせて焼いてるのを見た。誰が買うねん、と思ったけど、食べてみると、セーグルとレモンって意外に合うなと思いました」

 レモンピールはそんなに姿が見えないが、レモンの果汁を練り込んでいるので、見かけ以上にびんびんとレモンが香る、ステルス的サプライズとなっている。

 エスカガワには、もちもち三兄弟と呼びたい3品が存在する。長男は、白パン。テニスの軟球か、水風船か、シリコンか。パンを超越したようなふにゃふにゃ物体。米粉を湯種にするという新技術は修業先のブーランジェリータカギ譲り。さらに発展させ、玄米を湯種にしたのが玄パン。上記の新食感に玄米のすがすがしい香ばしさが付け加えられている。

玄パン

玄パン

 次男、じゃがいものガレット。じゃがいもとオリーブオイルがいっしょに焼きつけられた、コクに満ちた香り。ふにゃーりと沈み込むニュアンス。たやすく切れると思いきや、糸のように粘って、食べ手を焦らす歯切れ。

じゃがいものガレット

じゃがいものガレット

 三男、フォカッチャのバトン。これはフェイクバゲットだ。フォカッチャ生地を細長く成形、硬いバゲットに見せかけながら、皮は薄く、中身はもっちりしてやわらかく、ひたすら食べやすい。そして、オリーブオイルによって高められた小麦の味が沸騰している。

 水にせよ、昆布にせよ、加川シェフのたくらみはさりげない。声高ではないので、下手をしたら食べても気づかないままになってしまうかもしれない。でも、気づかなくても無意識は気づいているのだ。

外観

外観

■ブーランジェ エス カガワ
大阪府大阪市北区中崎1-10-10 ソレイユ中崎 1F
06-6374-0181
7:30~19:00
火曜水曜休

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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