花のない花屋

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

〈依頼人プロフィール〉
渡辺あゆみさん 26歳 女性
宮城県在住
団体職員

    ◇

 私は大学4年生の頃に心身のバランスを崩し、人と会うことができなくなりました。みんなと会わないように時間差で通学しながらなんとか卒業し、その後も就職しないまま、2年ほど引きこもっていた時代があります。

 でも、幸い友達に恵まれ、あちこち引っ張って行かれて出会ったのが今の仕事です。最近は何食わぬ顔で日々を過ごしていますが、自分は人よりメンタルが弱いといつも感じています。

 そんな私の心のよりどころは、大学生のときに始めた社交ダンスです。踊っているときだけは嫌なことを考えずにすみ、ただ自分の表現したいことに集中して身体を動かすのが本当に楽しいのです。

 そしてもう一つ、ダンスを通して大事な人に出会いました。社交ダンスの社会人サークルで知り合った7歳年上の今の彼です。入ってすぐ、「組んでください」と言われてびっくりしましたが、彼のひたむきさに押され、一生懸命二人で練習するうちに私も頑張ろう、と思えるようになりました。

 彼は私の暗い過去も知っています。ちょっとしたことで泣きそうになる子どものような私をいつも支え、励まし、そして何より楽しいときは一緒に笑ってくれる、太陽のような人です。

 ところが最近、彼は心身ともにちょっと疲れているようです。というのも、彼のお父さんにガンがみつかったのです。すでに進行していて、お医者さまからは完治ではなく、進行を遅らせるという趣旨の方針が伝えられています。早くにお母さんを亡くし、お兄さんも遠方で暮らしているので、お父さんの面倒を見るのは彼しかいません。今は一緒に住み、食事の支度、買い物、掃除、通院など身の回りのことすべてを彼が一手に引き受けています。

 さすがにいつもポジティブな彼も、仕事に病院に家事にと追われる毎日を過ごしていると、参ってしまうのでしょう。ときどき疲れが見えて心配です。これまでは週末もダンスの練習をしてきましたが、たまの休みくらいゆっくりした方がいいんじゃないかなと思い、「ゆっくりしよう」と私は言うのですが、彼は私の笑顔が見たいから一緒に踊ろう、と言ってくれます。

 そんな優しい彼に、日頃の感謝を込めて誕生日の花束を贈りたいです。いつも黒い服ばかり着ていますが、明るい色が好きなようです。下がり眉、下がり目で、かつ童顔。ほんわか優しい雰囲気の人なので、優しいパステル調のアレンジをお願いできますでしょうか。淡いブルーも似合うと思います。お父さんと一緒なので、男二人の暮らしに花を添えるような、長めに楽しめる花束を作っていただけたらうれしいです。

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

花束を作った東さんのコメント

 今回は彼のイメージに合わせて、淡いブルーの花を中心としたアレンジにしました。ブルーは、デルフィニウムとブルースターです。

 また、優しいパステル調をご希望でしたが、ピンクを合わせるとあまりにも乙女チックな雰囲気になってしまうので、オレンジや黄色の花を加え、優しく明るい雰囲気に仕立てました。

 オレンジと黄色の花はダリアやエピデンドラム、マリーゴールドなどです。社交ダンスをやっていらっしゃるとのことでしたので、踊っているような躍動感のある、サンダーソニアをたくさんちりばめました。

 周りのリーフワークはドラセナをくるくると巻いたものです。全体的に淡いトーンでありながらも甘すぎず、明るい印象の花束にしました。病気療養中のお父様と一緒に住んでいらっしゃるとのことですので、お花を見て、少しでも明るい気持ちになっていただけたら。

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

社交ダンスを通じて出会った、7つ年上の大切な彼に

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

大震災のさなか、奇跡的に助かった職場の先輩へ

トップへ戻る

試練を乗り越えて前へ 妹夫婦に

RECOMMENDおすすめの記事