このパンがすごい!

ここで出会える、本当においしいライ麦パン/エアダール

ドイツ人のリュックサックの中から


ドイツ人のリュックサックの中から

■エアダール(奈良県)

 ある食べ物の魅力に気づくのに簡単な方法がある。とびっきりおいしいものを食べればいいのだ。当たり前である。でも、人はそのことを忘れて、非難を投げかける。「ライ麦パンって、あの硬くてすっぱいやつでしょ?」と。そう言いたくなる人は、まだ出会っていないだけなのだ。本当においしいライ麦パンに。
 私はもちろん出会っている。ついこの前も、奈良で。ドイツで3年間修業をした丸瀬峰晴シェフの店、エアダールのロッゲンブロートである。
 ファーストコンタクトは、「ドイツ人のリュックサックの中から」という名のサンドイッチだった。厚塗りバターにハム、レタス。定番の組み合わせを非凡にするのが、ロッゲンブロート。ぼりぼりな皮はプンパニッケル(長時間蒸し焼きにして作るライ麦パン)級の甘さ、中身は蒸しパン級のしっとり感。ほろほろと口の中で崩れる。
 このとき、酸味やサワー種の風味は、「お漬物」として作用する。ピクルスやザワークラウトをはさまなくても、よくできたライ麦パンでは、発酵風味がそのまま調味料代わりになる。

ロッゲンブロート


ロッゲンブロート

「ドイツで食べたライ麦パンはすっぱくなかったんです」と丸瀬さん。また、酸味がすべて悪いわけでもない。「おいしい酸味とおいしくない酸味があります」。
 サワー種は30℃近くの高温でひと晩寝かせる(通常長時間発酵の場合温度は低く保つ)。生地をこねてからは短時間のうちに焼きあげる。これが、おいしい酸味を醸し、おいしくない酸味を抑える作り方だ。
 また、ドイツでの修業先のやり方に習い、ドイツ産のオーガニックライ麦を自家製粉。
「挽(ひ)きたての粉は、えぐみがなく、サワー種の発酵力も強くなります」
 フレッシュなライ麦粉は香りよく、甘さに広がりがあり、のど通りがいい。これも、エアダールのロッゲンブロートが目から鱗(うろこ)である大きな理由だ。

大和ネギのタルティーヌ


大和ネギのタルティーヌ

 とはいえ、エアダールは、プレーンなパンばかり置く気むずかしいパン屋ではない。むしろ逆で、ダイレクトに食欲中枢を刺激する総菜パンも多種多様。
大和ネギのタルティーヌは、たっぷりのネギとハムの組み合わせが、ネギチャーシューラーメン的恍惚(こうこつ)を運ぶ。地元の野菜・大和ネギのおいしさに瞠目(どうもく)した。つんとくる辛みはなくひたすら甘いのだ。そこに、これもご当地食材、なんと生姜(しょうが)の奈良漬けが寄り添って発酵風味を付け加える。とともに、バゲット生地からあふれだす小麦のミルキーさがベシャメルソースと反応しあう。

栗と竹墨


栗と竹墨

 オンリーワンの菓子パンも連発。「栗と竹墨」はおどろおどろしき黒々とした物体。まるで錬金術士の仕業かと思うような、味の新世界。ぱりっ、むにゅっ、のあと、とろけてあふれる味わいが謎めいている。栗の甘さが輝き、ゴマの風味がミステリアスなヴェールをかける。かと思えば、にゅるっととろけるホワイトチョコ。ベースのパン・ド・ロデヴがみずみずしく、すべてを口溶けよくまとめあげている。

 「シナモンの誘惑」も大胆な命名。たしかにこのシナモンは濃厚な香りで誘惑する。そして、パンの存在がかすむほど大量に積み重ねられ、ミルフィーユ状態となったチョコ、レーズン、イチジク、ナッツ。それらがとろけたり、くだけたり、破裂したり、ちょちょぎれたりの組んずほぐれつを繰り広げる。
「レーズンのパンを買ったのに、レーズンが少ないとさびしいですよね? 自然と自分が作るものにはドライフルーツをぎっしり入れるようになりました。パンよりフルーツを食べてもらいたい。原価は関係なしで」。なんと力強いシェフのお言葉ではないか。
 場所は、奈良の高級住宅街。学園前駅からバスか、最寄りの菖蒲池駅から歩くのもいい。風光明媚(めいび)な菖蒲池を中心に豪邸が立ち並び、まるで街そのものが公園のようだ。折しも、紅葉と水面(みなも)が織りなす景色がとても雅(みやび)だった。

惣菜パン。かぼちゃとベーコン、ポテトパン、スモーキー


惣菜パン。かぼちゃとベーコン、ポテトパン、スモーキー

外観


外観

■エアダール
奈良県奈良市朝日町1-2-32
0742-93-4410
9:00~18:00
月・火曜休

>>ギャラリーはこちら
店舗マップはこちら

<よく読まれている記事>
「1日600個売れた」ハニートースト。激戦区・神戸で台風の目となるパン屋/バカンス
通販もうれしい!! 「国産小麦・自家培養発酵種・長時間発酵・石窯焼き」のパン屋/ STONES BAKERY
【パンと絶景】和歌山の絶景「橋杭岩」を見ながら食べる本州最南端のパン/nagi
【泊まれる京町家『つきひの家』宿泊者だけが受けられる朝食サービス/オートリーズ
やめられない止まらない、だしから生まれる病みつきの味/ブーランジェ エス カガワ

<バックナンバー>
このパンがすごい!

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

やめられない止まらない、だしから生まれる病みつきの味/ブーランジェ エス カガワ

トップへ戻る

“福の神”がほほ笑んだ、バゲットでつくるミルクフランス/オパン

RECOMMENDおすすめの記事