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<81>中身は秘密 読書の世界へ誘う、“袋とじ” 「本と珈琲 梟書茶房」

「本と珈琲 梟書茶房(ふくろうしょさぼう)」は、東京・池袋駅直結のEsola(エソラ)池袋という利便性の高い場所にありながら、不思議な魅力を放つ店である。

昨年6月にオープンした店内はヨーロッパの重厚感あふれる図書館のような雰囲気。約3000冊の本があり、購入可能な約2000冊はすべてオリジナルブックカバーで袋とじされた「シークレットブック」になっている。池袋(ふくろ〈う〉)にある、袋(ふくろ〈う〉)とじのブックカフェ、というわけだ。

それぞれの本には番号が振られ、表紙には一枚の白い紙が挟まっている。100文字ほどの紹介文を手がかりに想像力を膨らます。ピンときたら、それは運命の1冊かもしれない。もしくは、運命を番号にゆだねてみてもいい。誕生日や記念日、ラッキーナンバーなど、気になる番号で本を選ぶのだ。

本の判型や厚みはさまざま。カバーに覆われているだけで、どうしてこんなにそそられてしまうのだろう。本好きの人は紹介文から既に読んだことがある本かどうかを嗅ぎ分けつつ、新たな出合いを求める楽しさがある。一方、普段本を読まない人にとっては、読書の世界への招待状のようでもある。

「選書のテーマは『あらたな本との出合い』。開けてみてもがっかりさせないし、読んでみたら面白かったと思ってもらえる本を揃(そろ)えています」

そう話すのは、選書担当で、「シークレットブック」の仕掛け人である柳下恭平さん。文章の校正・校閲を専門に行う鴎来(おうらい)堂の社長で、神楽坂にある「かもめブックス」のオーナー、書店をはじめとする店舗の企画や運営を行うエディトリアル・ジェットセットの代表という多彩な顔を持っている。

おすすめの本をあえて袋とじにして販売する手法自体は目新しいものではない。しかし、店の本を全部袋とじにしてしまうことは、店側にも利点があるという。

「本屋には、本に詳しい書店員はいても、バリスタはいません。一方、カフェにはおいしいコーヒーを淹(い)れられるバリスタがいても書店員はいません。では、カフェで書店員がいなくても本を売るにはどうすればいいか? ナンバリングされた『シークレットブック』であれば、カフェの店員が番号に合わせて本を補充するだけでいいと考えたんです」

広々とした空間に見える同店だが、新刊書店を作るには中途半端な広さだったという。また、定期的に書店に足を運ぶ習慣がある人と、カフェに行く人のどちらが多いかを比較すると、やはり後者だろう。書籍の在庫を多く抱えられないというハンデを逆手に取り、ふだん書店に行かないけれどカフェには通う人にアプローチできる道を模索した末、この店が誕生した。

「本と人の接点は減りつつあります。だから、いろんな形で接点を作りたいという気持ちもありました。一方で、本好きの人に対しては、新刊書店では出合いにくい、既刊の名著との接点にもなるはずです」

もうひとつの大切な要素、「珈琲」について。実はここ、ドトールコーヒーの新業態店なのだ。

「全国どこでも、同じ味をスピーディーかつ安定的に提供するのも大切な役割ですが、ここでは本をゆっくり楽しんでいただくために、オーダーが入ってからサイフォンで抽出するオリジナルブレンドのコーヒーを用意しています」(ドトールコーヒー広報)

同店のコーヒーの味を一手に引き受けるのは、取締役で、日本スペシャルティコーヒー協会副会長の菅野眞博さん。

「匂いや味を言語化するのは難しいものですが、菅野さんは言語を超えた感覚で味を作り出してくるんです」(柳下さん)

モノや情報が氾濫する中、静謐(せいひつ)な空間で、あえて限定された情報から本を選び、コーヒーの香りや味を堪能する。なんという贅沢(ぜいたく)なのだろう。

■おすすめの3冊

ブックカフェ2

同店のおすすめも当然のことながら、「シークレットブック」。そのため、ここでも手がかりは番号と紹介文(一部抜粋)のみ。どんな本なのかは、お店でご確認を……。

『No.0024』
あなたは普段、「読書」をしていますか? あなたにとって、「読書」とはどういうものでしょうか?
「読書の楽しみを広げてくれる一冊で、幅広い方に読んでいただけると思います。次におすすめする本の番号も記しているのですが、これはAmazonで閲覧履歴から本をすすめてくるのをアナログでやってみました」(柳下さん)

『No.0649』(「はじまりの24冊」より)
昭和を代表する放送作家でありテレビタレントであった著者による講演集です。
「おそらく本屋で見つけても、ほとんどの人が買わなさそうなのに、実はすごく面白い! ちなみに赤いカバーは『はじまりの24冊』という本。その名の通り、はじめに読みやすい本をセレクトしています」

『No.0864』(「はじまりの24冊」より)
僕たちはどこから、来たのか。そして、どこに行こうとしているのか。なんて、そんなことを考えなくても人生は過ぎていきます。そもそも、そんなことばかり考えてもいられないしね。
「こちらはSFの名著。SFって一部の人しか読まないかもしれませんが、実は面白い本が多いんですよ」

(写真 山本倫子)

    ◇

本と珈琲 梟書茶房
東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋4F
https://www.doutor.co.jp/fukuro/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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