このパンがすごい!

地元の人たちを幸せにする、うっとり夢心地のパン/ブーランジュリードド

日替わりフォカッチャ。この日はブロッコリー


日替わりフォカッチャ。この日はブロッコリー

■ブーランジュリードド(千葉)

ドドのパンを食べるときは夢心地だ。エアリーなのに豊潤で、女性の作り手らしい心遣いや、やさしさがあって、それでいてくどくなくて飽きがこない。
たとえば食パン。耳が薄いのに、ウェハースのようにかりかりと崩壊する。中身は実にエアリー。オブラートのようにじゅわっと溶け、ミルキーさがごくごくと喉(のど)を流れ下る。いたずらな甘さもなくさわやかで、まるで牛乳を飲むみたいに喉越しがいい。
日替わりフォカッチャのエアリーさにも衝撃を受けた。ばりばりと枯れ葉がこすれ合うような乾いた音とともに一瞬にして沈み、なくなる。オイリーさも心地よく、軽く。同じく軽やかなマヨネーズと相まってまろやかなハーモニーがうまれる。表面で焼かれたチーズの香り。この日の具材、ブロッコリーも新鮮できちんと調理されているのだろう、えぐみがないので、食欲のむしゃむしゃブースターに火が付く。

それにしても、なぜこんなにエアリーなのか。シェフの本行多恵子さんに聞く。
「焼きあがったフォカッチャに具材をのせてもう一度焼くんです。こうするとばりばりになるんです。具材に合わせて、マヨネーズにはジェノベーゼソースを入れたり、ガラムマサラを入れたりと一手間かけています」。おうちでも、フォカッチャを買ってきてやってみたいテクニックである。

米粉のペイザン


米粉のペイザン

本当にパンが好きな人だ。うっとりした表情でおいしいパンについて語る。「自分自身が毎日食べたいパンなんです」とすすめてくれた、米粉のペイザン。米粉を20%配合している。
中身の白いところの、なんともいえずむっちりしてそうな感じが見た目だけでそそっていた。食べるとその通り、あらかじめ半分溶けかかったようなぷにゅぷにゅねっとり感覚。あるときはパン、あるときはごはん。小麦のふわふわ、米の粘りを併せ持つとともに、小麦の甘さと米の甘さのハイブリッドがいつまでも口を満たしている。一方、皮は、パリパリ感も風味もしょうゆせんべいに似た感覚。
この、なんだこりゃ的衝撃は、あの巨匠を思い起こさせる。驚きのパンを次々と放つ、シニフィアン・シニフィエ志賀勝栄シェフ。彼のもとで、本行さんは修業を積んだ。米粉のペイザンは志賀レシピを元にしている。
「水分が多くて、どろどろの生地なんですよ。なかなかグルテンがつながらないので、1時間もミキシングします。スランプのときはぜんぜんうまくいかなくて。自分で糸口をみつけるほかないんです」

オートミール


オートミール

食卓を囲むのが思わず楽しみになるような食事用のパンに事欠かない。「子供の頃、母が焼いてくれたオートミール入りのクッキーから発想しました」という「オートミール」。パンの素材としてのオートミールの可能性に気づかせてくれた。発酵の香りとも相まって、なんとも芳醇(ほうじゅん)にじんわり香る。しっとりやわらかいテクスチャーも、オートミールの保湿力のたまもの。食物繊維も取れて、一石三鳥の素材である。

タルト・オ・ポム


タルト・オ・ポム

タルト・オ・ポムについてもぜひ書きたい。岩手県陸前高田市産の「希望のりんご」をキャラメリゼして使用。自家製アーモンドペーストの香り高さがシンプルにりんごのおいしさを活(い)かしている。はじめはうっとりするような香り、次にやさしい甘さがやってきて、後味に上品な酸味。実は震災復興のために私が販売をお手伝いしているものなのだが、その本人さえ「このりんごこんなにおいしいのか!」とびっくりするぐらい、持ち味が活かされている。さらにすばらしいのが、厚めのタルト生地が崩壊するときのざくざく感、香ばしさ。この感じを出したくて1時間も焼きこむという。なんという手間だろう。本行さんは、最近まで創業以来ずっと女性たったひとりでパンを作りつづけてきた。日々異なる出来具合に頭を悩ませながら、地元の人たちの小さな幸せを作りだす。

左から本行多恵子さん、父の輝雄さん、鈴木克子さん


左から本行多恵子さん、父の輝雄さん、鈴木克子さん

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■ブーランジュリードド
千葉県千葉市稲毛区黒砂1-14-5
050-1075-9654
11:00~18:00
日・月・第1火曜休み
http://paindedodo.exblog.jp

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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