東京の外国ごはん

えっ、スリランカカレーにかつお節!? ~セイロン イン(スリランカ料理)

えっ、スリランカカレーにかつお節!? ~セイロン イン(スリランカ料理)


「ブラックポークカレー」はスパイスが絡み合った複雑な味

ここ数年、ふと気づくと周りにはスリランカへ行く女友達が多い。インドの伝承医学アーユルヴェーダを体験したり、建築家ジェフリー・バワのホテルに泊まったり、世界遺産の寺院を訪ねたり……リラックスと知的好奇心を満たす魅力的な要素が、あの小さな島にはつまっているらしい。そんな今話題のスリランカの料理が食べられるお店が東京にあると聞いて、さっそく足を運んだ。

中目黒駅から徒歩2、3分。かわいらしい動物の置物に囲まれたお店が、お目当てのスリランカレストラン、「Ceylon Inn(セイロン イン)」だった。オープンはなんと1991年。今年で27年目を迎える。お昼時に伺うと、日本人のお客さんに混じって外国人もちらほら。小さいながらも窓が大きく、スリランカの美しい調度品や民芸品などに囲まれた空間は、かわいらしくてとても落ち着く。

スープやサラダ、揚げ物スナック、肉料理、魚介料理、お米やビーフン、パン類、そして多種多様なカレーなどメニューはかなり豊富で迷ってしまう。まずは、店主おすすめの「野菜ゴーダンパ」(750円)からいただくことにした。

えっ、スリランカカレーにかつお節!? ~セイロン イン(スリランカ料理)

「野菜ゴーダンパ」。現地ではおやつ感覚で食べる

見た目は、三角形のクレープのようなもの。食べてみると、カレーのような独特の香辛料の味が印象的だった。マッシュポテトやタマネギ、ニンジンなどの野菜が6種類入っていて、皮はモチモチ。好みによってトマトベースのスパイスなどをつけて食べるという。

「これは食事というよりは、おやつ感覚で食べます。現地では紅茶を飲みながら食べることが多いですね」
店主のリヤナゲ・アジ・ワサンタ(Liyanage Ajith Wasantha)さん(51)がそう教えてくれた。

そして次は、気になっていた一品、「コットロティ(Chicken)」(1200円)。ゴーダンパロティという、ナンのようなものを薄く延ばして焼いたモチモチの生地を刻み、鶏肉、キャベツ、ニンジン、ネギ、タマネギ、卵にカレーリーブやレモングラスなどのスパイスを加えて炒めたものだとか。言ってみれば、スリランカ風チャーハンのようなものだ。辛さはあまりなく、モチモチのゴーダンパロティの食感がたまらない! 野菜や肉にもスパイスがよく馴染み、とっても美味しかった。コットロティは“スリランカの国民食”とも言える存在で、みんな大好きなのだという。私も好きだ!

えっ、スリランカカレーにかつお節!? ~セイロン イン(スリランカ料理)

「コットロティ(Chicken)」はスリランカの国民食

これだけで実はけっこうお腹いっぱいだったが、せっかくなのでスリランカカレーも食べなくては帰れない。アジさんに相談して、おすすめの「ブラックポークカレー」(1250円)を頼んだ。出てきたのは、その名の通り、かなり黒いカレーだった。食べてみると、さらさらしているが、スパイスが複雑に絡み合った濃厚な味がする。

「この黒さはスリランカの木の実からきています。酸味はタマリンド。その他多種多様なスパイスを組み合わせているので複雑な味がするんです。主なスパイスはシナモン、カルダモン、クローブ、フェンネル、クミン……全部スリランカから取り寄せて、自分で粉にしてから調合しています。煎り具合、配合具合で味が変わるので、カレーに合わせてそれぞれスパイスも作っているんですよ」

パンもいろいろな種類があるが、今回はパラータというナンのようなものにつけて食べた。牛乳やバター、砂糖が入っていないため、モチモチした食感はあるが、ナンほど重くない。それにしても、インド料理とスリランカ料理にはどんな違いがあるのだろうか?

「南インド料理に似ていますが、香辛料の使い方がインドとはちょっと違います。スリランカはアーユルヴェーダをベースにしていて、ピーナッツやバター、生クリームなどはあまり使わないんです。だからこってりしていなくて、胃もたれしません。うちでは出していませんが、ワンプレートにいろいろな種類の料理を盛りつけて、それを混ぜながら食べることもよくあります」

そしてもう一つの大きな特徴は、かつお節をよく使うことだという。キッチンからわざわざ持ってきてくれたのは、まさに見た目は“かつお節”そのものの、“モルディブフィッシュ”だった。現地では“ウンバラカダ”というそうだが、それを粉のようにしてカレーやサラダに入れるのだとか。

スパイスのせいか、食べている間に体もぽかぽかあったまってきた。セイロンティーをいただきながら、アジさんにオープンまでのいきさつをうかがった。

えっ、スリランカカレーにかつお節!? ~セイロン イン(スリランカ料理)

オーナーのリヤナゲ・アジ・ワサンタさん

アジさんはスリランカ南部の町、ガル出身。一年中熱すぎず寒すぎず、家の庭には野菜やハーブがたくさん育っていたという。父と料理上手な母のもと、兄と妹の三人兄弟で育った。

日本に来たのはちょうど今から30年ほど前、アジさんが20歳のときだった。きっかけは、兄がすでに日本に住んでいたからだ。

「お兄さんが飯能のお寺に住みながら、日本のことを勉強していたんです。だから、自分もちょっと行ってみようかな、という気軽な感じで来日しました」

アジさんも飯能の他のお寺にお世話になりながら、日本語や仏教を勉強したり、お寺のイベントに参加したりして過ごした。初めてアルバイトをしたのは翌年のことだ。友人の紹介で東十条にある印刷会社で働くことになった。

器用なアジさんはそこでどんどん仕事を覚え、やがてアルバイトから主任まで一気に駆け上がり、気づけば5年ほど経っていた。その印刷所勤務時代に出会ったのが妻、羽岩洋子さんだ。

「通勤電車でいつも一緒だったんですよ(笑)。なんとなく気になる存在で、話しかけたら、だんだん仲良くなって」

そして、しばらく交際した後に二人は結婚。ちょうどそんな折、友人の紹介で「知人のお店を引き継がないか」という話が転がり込んできた。

未知の世界への挑戦

アジさんは料理が特に得意というわけではなかったが、日常的に作っていたし、周りからの評判もよかった。それに、なによりも誰かに雇用される立場ではなく、自分で何かをやってみたいという気持ちがずっとあった。まだ20代半ばだった若さの勢いも手伝って、アジさんは未知の世界に挑戦してみることにした。

とはいえ、もちろん飲食業界の経験はゼロ。まったくの素人だったので何もわからず、大変さは想像以上だった。

「まず苦労したのはお金ですね。前のオーナーから引き継いだのですが、その契約内容が彼の損失分をかぶることになっていて……。しかも、当時はスリランカ料理といっても誰も知らないので、お客さんもなかなか来なくて。しばらくはお店を切り盛りするのが大変でした」

しかし周りの人に助けられながら、徐々に軌道にのっていく。自分たちで改装してお客さんが入りやすい雰囲気にし、メニューも増やした。妻の羽岩さんが笑いながら言う。

「何せ彼は器用なんですよ。バーカウンターでもなんでも自分で作っちゃうし、料理を作らせてもやっぱり上手いんです。今はコックさんを雇っていますが、料理人が変わる度に味が変わってはいけないので、お店の味はアジが常に守っています」

今のかわいらしいインテリアになったのは、2017年の4月にリニューアルオープンしてから。この改装も、もちろん自分たちですべてやった。柱を入れ替え、窓を大きくし、床を張り替え、バーカウンターを設置。家具はすべてスリランカで特注した。

「イスやテーブルのデザインは60年前のアンティーク家具をもとにしています。前足がライオンみたいになっているんですよ。壁に飾ってある民芸品や彫り物もすべてスリランカで買ってきたものです」

特に目立つのは大きな特注のお面だ。これは七福神のようなスリランカの神様がたくさん描かれているという。ホロスコープに沿って製作し、目を入れるときは直接見ずに、鏡越しに見ないといけない、など製作にあたって細かい決まりがたくさんあるので、時間のある職人を見つけるのが大変だったとか。

スリランカは、2009年に内戦が終わってから治安が安定して、経済も急激に成長しつつある。世界中の観光客の注目を集めるとともに、日本に来るスリランカ人留学生も多い。その割にはまだまだ知らないことが多い。

「スリランカ人って、すごく陽気なんですよ。華やかに着飾るのも好きだし、音楽やダンスも大好きなんです」(羽岩さん)

料理をほおばりながら、未知の国への興味ががぜんわいてきた。

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■セイロン イン
東京都目黒区上目黒2丁目7−8
電話: 03-3716-0440
http://ceyloninn.jp/

PROFILE

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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