花のない花屋

人生の師である、80歳を迎える美容の先生へ

人生の師である、80歳を迎える美容の先生へ

〈依頼人プロフィール〉
米澤美揚子さん 49歳 女性
石川県在住
美容師

    ◇

 先生と出会ったのは、今から30年ほど前のことです。とにかく東京へ行きたい! 親元を離れたい! と思っていた私は、美容師だった母親から「先生のところで修行するなら」という条件つきで19歳で上京しました。いわば、母親の敷いたレールに乗ったわけですが、そのレールの先にいらしたのが先生でした。

 先生は当時から第一線で活躍し、すでに美容界のカリスマ。顧客には歌舞伎界の方や著名人も多く、私は先生が持つお店の一つに入れてもらえることになりました。初対面のとき、「気が強そうでいいわ!」と言われて「いいの? 今までダメだと思っていたのに」と戸惑いながらも、その後はずっとお尻をたたかれながら、一歩一歩前へ進んできました。

 はじめの頃は、慣れない環境でフラフラ。気が強いせいでケンカもしましたし、いろいろありました。しかし、どんな時でも「目指すべき灯の見えるステキな仕事だわ」とやってこられたのは、すべて先生がくれる“エネルギー”と、灯となる先生の存在があったからです。

 私はずっと先生のもとで働くつもりでしたが、7年前に姉が病気を患い、突然去ることになりました。そのことを相談すると、先生は帰りなさいとも残りなさいとも言わず、「そう決めたのね」と一言。泣いている私に、泣いていないで食べましょ、とから揚げを差し出して下さいました。

 故郷の石川に戻ってからは、母の営む美容室で、母と、そして先生のところで出会った夫と私、3人で美容の仕事を続けています。距離は離れていますが、何かにぶつかるたび、「こんなときは先生ならどうするかな」と考えています。セットをするときには、右手に先生の暖かさを感じ、いつも後押しをしてもらっている気がします。先生は私にとって人生の前をずっと歩いてくれている、かけがえのない大きな存在なのです。

 先生は昨年80歳になられたのですが、今でも現役で頑張っていらっしゃいます。思えば、私はこれまでずっと与えてもらってばかりで、何一つ恩返しができていません。この機会に、改めて感謝の気持ちを伝える花束を作ってもらえないでしょうか。先生の好きな色は赤です。美容でも前衛的な作品を作られるので、もらって驚くような、見たこともない花束だとうれしいです。
 
人生の師である、80歳を迎える美容の先生へ

花束を作った東さんのコメント

 赤い花を使って見たこともないような花束を、とのリクエストだったので、珍しい花をふんだんに使いました。

 特におもしろい形の花は、サンゴアブラキリ(ヤトロファ)です。まさに珊瑚(サンゴ)のような形をしていて、個性が強いのでアレンジには使いにくいのですが、今回は思い切って入れてみました。また、珍しい形のカトレア、プロテア、食虫植物のサラセニアなども入れ、その間にカーネーションやダリアを挿しています。

 まわりは、赤が引き立つよう濃い緑色のポリシャスを。珍しいなと思う植物はどうしても南国のものが多くなりますが、やはり生命力の強さが際立ちますね。

 どの花も個性が強く形がバラバラですが、色が赤だけなので統一感があります。ぱっと見は華やかな“赤い花束”ですが、よく見ていくと面白い形の花がたくさんあり、楽しめるはず。先生は80歳を迎えられたとのことですが、これからもいいお仕事を続けられますように。

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(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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