鎌倉から、ものがたり。

鎌倉宮の参道沿い、「いい感じ」のランチ。「moguRa(モグラ)食堂」

 鎌倉は二階堂の住宅街。周辺は鎌倉宮をはじめ、荏柄天神社、覚園寺と由緒ある寺社が点在し、鎌倉の格調の高さを感じさせる。そんな閑静な一画、鎌倉宮にいたる参道沿いに、「いい感じ」としか表しようのない店がある。たかはしまみさん(57)と、娘のめいやさん(25)が2人で切り盛りする「moguRa(モグラ)食堂」だ。

 木造の小さな山小屋のような外観。中に入ると、大きなガラス窓に、シマトネリコの木が木漏れ日を映し込む。

 メニュー構成はシンプルに、ランチ、コーヒー、そしてスイーツ。ランチは、和牛のすじと根菜のスープを定番に、総菜4種と小さなデザートが並ぶ「定食」と、カレーランチの2種があり、おやつは自家製生チーズケーキを中心に3種を用意する。種類はたくさんではないが、料理にもスイーツにも合うよう、あっさりと、それでいてコク深く淹(い)れてくれるコーヒーが、やさしい時間を彩ってくれる。

 営業時間は11時から16時30分まで。水・木曜日はお休みで、ほかに不定休もあり。マイペースぶりがいかにも鎌倉らしいが、近隣の住人をはじめ、寺社めぐりの観光客や、「天園ハイキングコース」を歩くハイカーにとって、くつろぎのひと時を過ごす格好の場所となっている。

 開店は2011年の9月。「何の準備もなく、突然、降ってきた話だったんです」。そう語るたかはしさんに、気負いはまったくない。

 大阪生まれのたかはしさんは、転勤族の父とともに各地を引っ越し、高校時代に母方の実家がある鎌倉に落ち着いた。鎌倉で生まれた息子の翔平さんは、やがて池袋で若い芸術家が集うカフェを開くことに。その彼が、再び鎌倉に拠点を移すために見つけてきた物件が、この店だった。

 「そうか、鎌倉に帰ってくるのね、と思っていたら、『昼は任せたから』といきなりバトンを渡されて」

 それまで料理研究に入れこんだことも、飲食店で働いたことも、ましてや経営経験もナシ。それでも、「流れてきたものを、ありがたーく受け止める」のが、たかはしさんの流儀。鎌倉・今泉台にある自宅の一画を「北鎌倉小舎」と名付け、絵画展や音楽ライブをたびたび催して、パーティー料理をふるまってきた経験が生きた。

 「素朴な家庭料理なんですよ」と、たかはしさんは笑うが、その中にひと工夫をしのばせるのが、moguRa食堂流だ。たとえば、切り干し大根は刻んだラッキョウを隠し味に使い、しょうゆとだしの味に、まろやかな酸味を加える。お米は玄米を毎日精米して炊く。お米や野菜は、かつて夫の転勤で香川県高松市に暮らした時に、ご縁ができた友人たちから送ってもらう。総菜には、そんな四国産のちょっと珍しいものも混じる。

 かたわらで手伝うめいやさんは、高校生の時に週末バイトに入り、大学を卒業した後にフルタイムで手伝うようになった。「母とは、ずっといい関係。けんかしたり、衝突したりがないんです」と、めいやさんが言えば、「よく娘は母に手厳しいと聞きますが、うちはそんなこともないですねえ」と、たかはしさんがおっとりとうなずく。

 派手ではないが、穏やかさの中に豊かさがある暮らし。仲のいい家族が、ほっとする時間と空間をまちに提供している。

moguRa食堂
神奈川県鎌倉市二階堂27-12

>>写真特集はこちら

<鎌倉から、ものがたり。>バックナンバー

PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

由比ガ浜通りに浮かぶ茶室「OKASHI 0467」(後編)

トップへ戻る

鎌倉駅から徒歩25分の自由。イオタ・デリ カフェ

RECOMMENDおすすめの記事