上間常正 @モード

ユイマ・ナカザトが示す未来の服への道

YUIMA NAKAZATO SS18


YUIMA NAKAZATO SS18 (c)Shoji Fujii

ブランド物には以前ほど惹(ひ)かれないし、だからといってファストファッションで済ますのもどうか。しかし、いま売られている服は値段によってそのどちらかに近いだけで、魅力があまりないということでは同じなのだ。それは、ブランド物とファストファッション、どちらもグローバルに展開されている大量生産品で、一人ひとりの着る側の事情や思いなどには応えていないことに、多くの人が気付いてしまっているからだと思う。

ではどんな服が求められるのか、そんな服があるのか? といえば、答えはすぐには見つからないだろう。作る側も毎シーズンいろいろ考えているだろうし、エコやエシカル(倫理的)ファッション、またITを活用した試みなども出てきている。だが少なくとも、これだ、こんな服が着たいと思わせるようなものはまだない。

YUIMA NAKAZATO SS18


YUIMA NAKAZATO SS18 (c)Shoji Fujii

そんな中で、パリ・オートクチュールコレクションで作品を発表している若手デザイナー中里唯馬の「ユイマ・ナカザト」の発想は、注目に値する試みの一つといってよいだろう。今年春夏の新作は、穴のあいた布のパーツを組み合わせて縫製なしで作った宇宙服のような新作を発表した。今回は4シーズン目だが、発想は最初から一貫している。

パーツを組み合わせることで、一人ひとりの体にフィットするオーダーメイドの服ができる。またパーツの素材もさまざまな組み合わせができるようにすれば、着る人の好みによってフィット感もより高まるだろう。また着る人のサイズや好みの情報をパーツに遺伝子情報のように印字しておけば、作る側にも注文する側にも便利な手助けになる。

YUIMA NAKAZATO SS18


YUIMA NAKAZATO SS18 (c)Shoji Fujii

最初の2016年秋冬のコレクションでは、独自開発したPVC素材に細かなカットを入れたパーツ数百枚を手作業で折り紙のように重ねた服を発表。光を受けると氷河やオーロラのように輝いて、独特な存在感があった。続くシーズンではパーツ同士の組み替え方をさらに進化させ、素材もコットンやウールなどにも広げ、さらに自在な表現を可能にした。

今シーズンは「宇宙」がテーマで、宇宙での長期滞在で求められる物資の循環型システムを追求したという。東レが開発した環境配慮型人工皮革を基本素材に、廃棄されたパラシュートやエアバッグなど身体保護のための工業製品を解体した素材も使って、用途によって変化できて修繕しながら着続けることができる服を提案している。

会場風景


会場風景 (C)江森康之/Yasuyuki Emori

中里は「服はやがて一点物しか存在しなくなる」と語る。一点物ということではオートクチュールと同じだが、彼は限られた富裕層のためではなく、多くの人、すべての人が着ることを目指している。そのためには、新たな作り方のシステムを可能にさせるテクノロジーの力が必要だろう。ただし科学技術というのは、原子物理学が原爆や原発を生み出してしまったように、必ずしも多くの人々の喜びや幸せにつながっていない。そのことにも深く目を向けることが必要だ。

中里はまた「服というのは情緒的な要素が大切だ」とも語っている。それはまさに大切な視点だが、「情緒」をデータ化し、服作りのシステムに取り込んでいくのはかなり難問といえるだろう。服への「情緒」とは、着ることへのときめきや喜び、安心感といった感情であり、よい着心地をもたらす機能性への感じ方も最終的には人によって違うからだ。

中里唯馬


中里唯馬

服というのは本来は地域的なもので、風土や文化によって素材も作り方も違っていて、服に抱く「情緒」もその中で長い時間をかけて育まれたものだった。現代の服を民族服に戻すことは出来ない相談で、未来の服のためにはテクノロジーの力も欠かせない。しかし目指すべきなのは、比喩的に言えばテクノロジーの先端にある「宇宙」の中に「地域」を見いだすことなのではないだろうか。

その意味では中里の試みは困難な道のりになるだろうが、注目していきたいと思う。パテントだとかビジネスとしての位置を確保することよりも、未来の服への先端を担っていると信じて努力を続けていくことが必要だ。そうすれば理解者は今後必ず増えていくに違いない。

今回の新作や生産システムを紹介する展示会が、東京・六本木の「21_21 DESIGN SIGHT」で今月25日まで開かれている。入場無料。

■YUIMA NAKAZATO Exhibition – HARMONIZE –
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PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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