このパンがすごい!

京都のパンシーンに刺激、先端的理論のベーカリー/ファイブラン

くるみとレーズンルヴァン(大)


くるみとレーズンルヴァン(大)


■ファイブラン(京都)

 京都・役行者町。町家もちらほら残る、京都らしいたたずまいの町に、最先端を行くベーカリーが内蔵されていた。
 デジャヴ。うつくしい曲線を描くテーブルに並んだパン。この眺め、どこかで見たことがある。九州の雄、福岡・パンストックではないか。東原 寛幸シェフは、パンストックの平山哲生シェフに教えを乞い、先端的な理論でパンを作る。
 まず目につく、黒々とおいしそうな焼き色をして、ドライフルーツをたっぷりと宝石のようにちりばめた「ルヴァン」(小麦粉から起こした自家培養「ルヴァン種」を使用)シリーズ。そのひとつ、「くるみとレーズンルヴァン」を噛(か)んだ瞬間、衝撃的なほど多量の汁がほとばしった。レーズンひとつひとつからぶっちゅーとあふれだす果汁が半端ない量。とともに、見た目のごつごつ感を裏切る生地のふんにゃりとしたやわらかさ、しっとり感。それらの潤いと、ルヴァン種の発する心地よい発酵フレーバーが口の中で混ざり合うと、軽やかな白ワインにも通じるような爽快感が湧き起こる。皮目の香ばしさには、麦こがしのようなすがすがしさがあった。

レーズンロール


レーズンロール

 「レーズンを水で戻してから入れています。ミキサーで混ぜると潰れてしまうので、生地ができあがってから手で混ぜこみます。焙煎(ばいせん)五穀、麦茶で蒸したライ麦フレークも入れて、香ばしく仕上げています」
 さらに、酵素(アミノ酸やでんぷんの分解を促す物質)の動きや、乳酸菌の働きによるpH(ペーハー)の変化などミクロなファクターをコントロール、理想のやわらかさや口溶けを作りだしている。
 「レーズンロール」を一口食べた瞬間、「これは事件だ」とつぶやいた。サルタナ、カレンツ、グリーンと贅沢(ぜいたく)に入れられた3種類のレーズンから、ぶどう汁がちょちょぎれるのは「くるみとレーズンルヴァン」同様。なにより、生地の食感が既存のパンの斜め上なのである。言うなれば、とんでもなくやわらかな若鶏のモモ肉を噛み破るみたいな快楽。歯と歯の間にむちむちとはさまり、ぶちぶちとちぎれる。かと思えば、潤いのあまり舌に吸いつき、どろーんと溶けては次々と甘さが押し寄せる。

クイニーアマン


クイニーアマン

 このパンも驚くべき手法で作られる。湯種(食パンなどで使われる小麦粉とお湯を合わせた種)を超越した「湯ゲル」。ベシャメルソースみたいなどろどろのソース状態の湯種を生地に入れる。
 「普通の湯種だとダマができやすいし、皮が硬くなりやすい。湯ゲルは吸水量がめちゃめちゃ上がりますし、もちっとして軽いパンになります」
 クロワッサン生地の快楽とは、表面さくさくなのに中がじゅわっとやわらかいという「ギャップ萌(も)え」だと思っていた。ところが、ファイブランの「クイニーアマン」は、そのギャップが想定外の振り幅でもはや二重人格レベルだ。クロワッサン生地とちりばめられたザラメが相まって、古都の空高くかりかりサウンドが響きわたる。一方、中身は実にしっとり。バターがじゅるじゅる、こんなに溶けていいんだろうかというぐらい溶ける。バターの甘さが満ちたところへ、しょうがのはちみつ煮がぴりぴり。甘さと辛さという相反する味が一度にやってくる軽いパニックがエクスタシーを呼ぶ。

サンドウィッチ ニーソワーズ トン


サンドウィッチ ニーソワーズ トン

 東原さんは、よりおいしいパンを作るため、フレンチレストランでも修業を行った。その経験が活(い)きるのはサンドイッチ。「ニーソワーズ トン」は、サラダニソワーズ(ニース風サラダ)が下敷きになっている。口腔(こうくう)に張りつくほどやわらかなめらかな食パンがすごい。いったん、口の中に具材を導き入れるや自らは姿を消し、パンという枠から解き放たれたツナ、卵サラダ、オリーブ、トマト、レタスは混ざり合って、舌の上でサラダニソワーズが完成するのだ。
 情熱的にパンを語って止まらない東原さん。平山シェフとの出会いによって覚醒した製パン頭脳は、さらなる進化を目指して猛烈に回転。古都のパンシーンにびりびりと刺激を与えている。

店内風景


店内風景

■ファイブラン
京都市中京区役行者町377
075-212-5696
9:00~19:30(売切次第終了)
火曜、第1・第3水曜休み
http://fiveran.jp

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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