このパンがすごい!

クロワッサンに一目惚れ、めくるめくエシレバターの甘い香り/カフェ ビブリオティック ハロー!

有機小麦のクロワッサン(左)とクロワッサン・エシレ


有機小麦のクロワッサン(左)とクロワッサン・エシレ

■カフェ ビブリオティック ハロー!(京都)
 京町家を改装、吹き抜けからうつくしい陽光が落ちるカフェ ビブリオティック ハロー。そこに併設されたベーカリーで、クロワッサンに一目惚(ぼ)れした。
 出会いはこんなふうだった。カフェでランチを食べていると、隣の人がコーヒーとクロワッサンを楽しんでいる光景が目に飛び込んだ。なんとパリ的なカフェの使い方を京都人は心得ているのだろう。
 自分も真似(まね)したくなって、別棟のパン売り場に飛んでいった。2種類のクロワッサンのうち1種類には、「クロワッサン・エシレ」と名札が。エ、エシレ……、50gで500円ほどもする超高級バターを使っているというのか! 380円だが迷わず購入した。

店内風景


店内風景

 口元にもっていくだけで、怪しく人を惑わすバターの香り。誰がこの香りを嗅いで食いつかずにいられようか。ばりばり、のち、ぽわんぽわん。丸パンを思わせるやさしくももっちりな中身が、繊細で香ばしいばりばりに覆われているのだ。それにしても、エシレの甘い香りはどうだ! バターのヴェールが充満するとき、天国が口の中にあった。
 きっかけは立川朋之シェフが東京で食べたクロワッサン。「店長からおいしかったと聞いて。僕も行って感動して帰ってきました」
 この連載でも紹介した PATH のクロワッサン。その衝撃に負けないものをと、バター、そしてオーガニックの小麦を幾種類も試し、やっと納得のいくものができた。
 隠し味は、エシレの風味に変化と芳醇(ほうじゅん)さをもたらす、青りんごのような香り。自家培養したルヴァンリキッド(発酵種)によるものだ。岡山のパン屋「アルザスパン ベック」のステファン・エック氏を訪ねたことがきっかけで作りはじめた。
 「気持ちの入っているパンでした。ものすごく狭い厨房(ちゅうぼう)で、カタコトの日本語で販売までやっている。ステファンを見て意識が変わりました。僕はまだまだぜんぜんやってない」
 すべての工程を見直していった。ルヴァンもオーガニックライ麦から起こし直すと、自分らしい香りになったという。
 もう一種が「オーガニック小麦のクロワッサン」。生地はクロワッサン・エシレと同じだが、一般の発酵バターに変わり、リーズナブルな価格に抑えられている。ところが、ただのスケールダウンではなかった。エシレの魔法が解けると、オーガニック小麦の実力があらわになったのである。香ばしさとミネラル感と舌に食い込む旨味(うまみ)とコク。ばりばりの層は多く、よりソリッドで男性的。派手な音で砕け散る。一方中身は、心地よきもちふわ。

あんバター


あんバター

 小麦が力強く主張する理由は、オーガニックのアメリカ産小麦。
 「だいぶワイルドな味。これをブレンドすることで一気に深みが出ました」
 カフェと共通のコンセプトは、いい材料を使うこと。全レギュラー商品にオーガニック小麦を使用する。たとえば、バゲットにはフランス産小麦。バゲット生地を細く焼いたフィセルで食べさせる「あんバター」。強く焼きこんだフィセルがばりばりっと崩れさる崩壊感はさすがのフランス産小麦。ナッツのような風味を残す。バゲット生地とたっぷりのバターはいかにもフランス的な相性で、そこにあんこが割り込んでくる三角関係。質のいい小豆を糖分少なめで炊いたおかげで豆の風味が強靱(きょうじん)、レンズ豆のように感じられる。

シナモンロール


シナモンロール

 「シナモンロール」においては、オーガニックシナモンの香りがなんとも爽快。表面かりっ、中ふんわりもっちり、口溶けじゅわーんの生地はおいしいシナモンロールの黄金パターンを満たす。
 結局、吹き抜けのカフェで私がコーヒーとともに楽しんだのはクロワッサンではなく、「クロワッサン・エシレ」の生地で巻いたパン・オ・ショコラだ。チョコレートもすばらしかった。激しいカカオ感のみならず、酸味、土っぽさ、ウイスキーのような芳香が、めくるめく。それが、これまた激しいエシレバターの風味と押し合いへし合い、舌の上が壮絶なる綱引きの合戦場と化す。長くつづく余韻とともに甘美なる時が流れた。

パン・オ・ショコラとコーヒー


パン・オ・ショコラとコーヒー

■カフェ ビブリオティック ハロー!
京都市中京区二条通柳馬場東入ル晴明町650
075-231-8625
11:30~23:00
月曜休
http://cafe-hello.jp/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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