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<85>49歳会社員が始めた、猫と共存する本屋 「Cat’s Meow Books」

 40歳も半ばを過ぎ、人生の後半をどう生きるかを考えた時、人は何をしたいと思うのだろうか?

 外資系マーケティングリサーチ会社に勤めながら「Cat’s Meow Books」のオーナーになった安村正也さん(49)は、猫と本とビールが好きだから、全てが揃(そろ)った本屋を作ってみたいと考え、それを現実のものにした。

 店があるのは、東急世田谷線・西太子堂駅から歩いて2分の住宅街。三軒茶屋駅からも徒歩圏内だ。自宅兼店舗の一軒家で、店に入ると猫にまつわる新刊本がところ狭しと並べられている。猫の写真集や猫が登場する絵本や本、エッセイなどはもちろんのこと、一見猫とは関係なさそうだが、読み進めていくうちにちょこっと登場するものも立派な“猫本”。全部で約2000冊を揃(そろ)える。

 奥に進んで格子戸をあけると、そこは古本の書棚とカフェスペース。書棚の一部はキャットタワーのようになっており、猫たちは2階の居住スペースとつながる猫専用通路から降りてきて、店内を自由に行き交う。これでも立派な“店員”だ。

 猫は全部で5匹いる。安村さんが15年ともに暮らしてきた三郎(15)は、高齢のため2階から下りてくることはほぼない。あとの4匹は保護猫カフェを運営する「ネコリパブリック」から譲り受けたメス猫たち。人見知りとは無縁の堂々とした態度を見せる。

「ここは猫カフェではなくて、書店と猫が助け合う場なんです」

 本好きな安村さんは、参加者がおすすめ本を持ち寄って紹介する「ビブリオバトル」に通ったのをきっかけに、さまざまな書店のトークイベントにも足を運ぶようになった。その過程で、自分だったらどんな本屋をやるだろうかとシミュレーションするようになったという。

 書店経営が簡単なものではないのは分かっていた。しかし、里親のいない保護猫を店員として迎え入れ、猫を直接的に助けること。売り上げの一部を猫の保護活動をしている団体に寄付すること。そして、猫に店員として本屋を助けてもらうこと。こうした関係性が成り立てばやっていけるのではないかと思うようになった。

 下北沢の書店「B&B」代表の内沼晋太郎さんが主催する本屋講座でこのプランについて話すと、内沼さんに「やってみたらいい!」と背中を押された。それから1年半後の2017年8月にオープンにこぎつけた。

「とはいえ、いろいろありましたよ。はじめは賃貸物件を探していたのですが、猫がいるので思うように見つからない。営業時間外の世話の問題もありました。そこで思い切って家を買って自宅兼店舗にしよう、と。背負う借金は大きくなりましたが、家を買うと決めてからは一気に話が進んでいきました」

 実は、計画が具体的になるまで、妻の真澄さんには一切話をしなかったという。猫と本とビールが好きで、今後の人生の過ごし方に漠然とした不安を抱えていたのは妻も同じ。よく練った計画を提示すれば、反対されないだろうという読みがあった。

「彼は計算ができて、損するようなことは絶対にしない人。なので、不安はなかったですね」

 という真澄さんは、今では平日昼間の店番を担当。安村さんは勤めを終えた平日夜間と週末に店に立つ。

「会社員を続けているのは、猫や店のことを考えた上でのこと。売り上げの10%を猫の保護活動に寄付しているので、利益はほとんど手元に残りません。店員猫たちを最期まで食べさせ、この書店を継続させるためにも、会社を辞めるという選択肢はありませんでした」

 会社員と書店経営の「パラレルキャリア」で生活は一変した。会社では仕事を効率よく進め、夜の店番のために定時で帰宅。週末も以前は昼頃に起きてビールを飲んだりしていたが、今は店員猫のごはんや開店準備があるため、朝から起きるようになった。

「昼にビールも楽しいんですけど、生産性はないですよね。平日だって、猫と一緒に店番をしているだけで元気になれます」

 安村さんは自分のことを「計算しすぎというか、打算的というか、腹黒いだけなんです」と笑うが、猫と本屋が共存する方法を考え抜いた空間は、計算など感じられないぬくもりに満ちている。

 “店員猫”といっても、猫をウリにするどころか、安村さん夫妻が大切にしていることは、彼女たちが幸せそうにくつろぐ姿から十分伝わってくる。そして、「同じ本を買うなら、猫のために寄付できるここで買いたい」「古本を持ってきたけど、買い取りじゃなくて寄付します」と言ってくれるファンも少しずつ増えてきた。

「今が人生で一番充実している。お釣りがくるくらい幸せです」

おすすめの3冊

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『猫と呑み助 東京「猫呑み」のススメ』(著/はるやまひろぶみ)
猫のいる都内の酒場やバーを紹介した1冊。 猫と一緒に過ごす「猫呑み」の楽しみ方も提案している。「うちも店員猫を見ながらビールが飲めます! これを読んでいるとお店に行きたくなるのですが、自分が店を始めたら行けなくなりました(笑)」

『家と庭と犬とねこ』(著/石井桃子)
『ノンちゃん雲に乗る』『ちいさいおうち』などで知られる作家・翻訳家の生活随筆集。「猫がしっかり出てくるのは一編のみなのですが、その猫が効いてくるんです。文庫本も出ていますが、単行本は文字が青かったり、装丁が凝っていて味わい深いです」

『ロンドンのパブねこ』(著/ヴィッキー・レーン、写真/ティム・ホワイト、訳/尾原美保)
ロンドンのパブにいる名物猫を集めた写真集兼パブガイド。「海外の猫ってシュっとした、スタイリッシュな感じ。日本と海外だと猫の撮り方が違うんでしょうかね。そんな違いも楽しめます」
    ◇
Cat’s Meow Books
東京都世田谷区若林1-6-15
https://www.facebook.com/CatsMeowBooks/
https://www.twitter.com/CatsMeowBooks
https://www.instagram.com/CatsMeowBooksJP

(写真 山本倫子)

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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