MUSIC TALK

納得していないことが原動力 大橋トリオ(後編)

撮影/山田秀隆


撮影/山田秀隆

トリオを名乗るけど、ソロユニット。ミステリアスで、でも心地よく、いい意味での肩透かしはその音楽にも表れ、聴く者を引きつける。しかし、大橋トリオは言う。「納得がいったことが一度もない」。その真意とは?(文・中津海麻子)
    ◇
前編から続く)

音楽大学でジャズピアノを専攻

――高校卒業後、音楽大学でジャズピアノを専攻します。

クラシックで音大を目指すのは、僕の技術的には無理でした。専門学校に進めば、ロックとか選択肢はあるんだろうなと思っていたとき、父がある新聞記事を僕に差し出し、「ここに行ったらどうだ?」と。ジャズピアニストの山下洋輔さんが音大でジャズコースを開設する、という記事でした。当時、山下さんがクルマのCMに出ていてそれがめちゃくちゃカッコよかった。で、「ここだ」と。

父親が持っていたジャズのCDをよく聴いていました。マイルス・デイヴィスにオスカー・ピーターソンにデイヴ・ブルーベックに……と、いろんなミュージシャンの曲が入った20枚ぐらいのCDボックス。昔、駅の地下で売ってたような、ちょっといかがわしいやつ(笑)。ジャズピアニストになりたいわけではなかったけれど、ジャズを学べば作曲に色々と応用がきくんじゃないかと思ったんです。

――勉強とは別に、自分の音楽はやっていたのですか?

オリジナルの曲を作ったりはしていました。ちょうどWindows 98の時代で、パソコンだけで音楽が作りやすくなった。でも当時からすればそれなりの音源だったんだろうけど、僕の目指している音が作れない。なかなか曲として完成できませんでした。

今思えば、僕は一個一個の音色で曲を作ろうとしていた。コードやメロディーだけじゃなく、一つひとつのパーツで音色を作る。実際、今はそういう作り方をしています。やってることは20年前も今も変わらない。音楽のセンスも変わってないと感じますね。

「大橋トリオ」と名乗るようになった理由

――大学を卒業してからは?

近所のコンビニでアルバイトしながら、ひたすら曲を作っていました。歌ものにはあまり興味がなく、インストの作品が中心。納得のできるものが完成したらレコード会社を回ろうと思ってたけど、先ほども触れたように当時のパソコンや音源の性能の限界もあって、納得のいく曲ができない。そんな日々が続きました。

そんな中、事務所の人から「歌の作品をやろう」と言われて。つい引き受けてしまったものの、実は自分の声が好きじゃない。そんな僕が一体どんな作品を作ればいいのか悩みに悩んで、最初のアルバムをリリースするのに3年かかりました。もちろん、これもまだ納得できるものではなかったけれど。

その間に、他のアーティストのプロデュースや楽曲提供、映像音楽なども少しずつ手がけるようになった。そういった裏方系の仕事は本名で、自分がメインで歌うときは芸名にしようと考えました。それが「大橋トリオ」です。いろんな楽器をやるので「一人何役も」という意味もあるし、ジャズには「〇〇トリオ」が多いからいいかな、と。冗談っぽいノリだったので反対意見もありましたが、「別にいいじゃん」と押し通して。

――そのノリとは裏腹に、ようやく生み出したファーストアルバム「PRETAPORTER」はレコードショップやFM局でパワープレイされるなど反響がありました。

本当に?って感じだった。自分の声は好きじゃないし、納得いかないまま作ったものだし。なのに「いい」と思ってくれる人がいるんだ、って。すごく不思議でした。

10年でライブがようやく楽しくなった

――メジャーデビューから昨年で10年。変わらないこと、変化したことは?

変わらないこと……。人と同じものにはなりたくない。人と同じものは作りたくない。ということかな。作ってしまうこともあるけれど(笑)。

変わったのは、ちょっと丸くなったことですかね。自分が好みじゃないことはやりたくない。それは今でも基本そうなんですが、でも、自分の好みでなくても周りが「いいじゃん」と言ってくれるなら、それもいいか、と思えるようになった。というか、思わないといけないな、って。自分がすべて正しいとは限らないから。

あとは、ライブがすごく楽しくなりました。10年目にしてようやく(笑)。デビューした頃は、ライブをしない、作品だけのアーティストになると思っていて。自分がメインで表舞台に立つというのが小っ恥ずかしくてしょうがなかったんです。でも、だからと言ってライブをしないわけにもいかない。高校時代もそうだったけれど、お客さんを盛り上げるようなことはできないし、お客さんの拍手も本当の拍手なのかわからないし。とにかく自分に自信がなかった。

今、メンバーが僕の思ったような音を出してくれるから、歌に集中できる。すごく仲も良くて、ツアーを回るのが楽しくて仕方ないんです。大橋トリオとして活動することが、とにかく心地いいですね。

ニューアルバム『STEREO』


ニューアルバム『STEREO』

素直なままの自分をニューアルバムに

――2月にはニューアルバム『STEREO』がリリースされました。

最初はダンスをテーマにしようと作っていたのですが、途中でやめました。とはいえ、ダンスの曲を3曲ぐらいはすでに作ってしまっていて。ほかにどんな曲を作ったらアルバムとして成立するんだ?と考えましたが、結局は「もう関係ないや」と。頭を完全にまっさらにして、何をすれば新しいか? だけを考えて。そして生まれたのが「birth」という曲です。この曲がパッとできて一気に気が楽になり、支離滅裂でもいいから素直なままの自分を聴いてもらおうと。そういう意味では、今の僕、今の大橋トリオが詰まった1枚になったと思います。

――ずっと気になったのが「納得いっていない」という言葉です。大橋さんにとって納得のいく音楽とは?

究極を言うと「作る価値のない音楽」かもしれません。音楽家としては新しい作品を作り続けなければいけない。納得がいっちゃったらそこで終わりだと思うんです。

――つまり、納得しないことが次への原動力だと?

かもしれない。そういうことでいいのかなと思うようにしています。もちろん、納得はしたい。その欲求がないと次が作れないから。

僕は、今がよければいいんです。あまり先のことは考えられない。というか、考えたくない。そして、今はとにかく楽しく音楽ができている。僕の音楽を「いい」と言ってくれる人、聴いてくれる人がいっぱいいる、という事実があるからやれているとも思う。もちろんステップアップはしながら、純粋にこの楽しい感じを続けていければ。そんなふうに思っています。

大橋トリオ(おおはし・とりお)
1978年千葉県生まれ。本名、大橋好規(おおはし・よしのり)。作曲やアレンジのみならず、レコーディングの際の演奏まで、ほとんどを自らこなすマルチプレイヤー。ジャズ、ポップス、ソウル、フォーク、ロック、AOR等、様々なジャンルの音楽を融合して「大橋トリオ」の世界を構築している。2017年には活動10周年を記念し、3カ月連続で配信シングルをリリース。2018年2月14日、オリジナルアルバム「STEREO」をリリースした。
大橋トリオ 公式サイト:http://ohashi-trio.com/

【ライブ情報】
3月30日より「ohashiTrio HALL TOUR 2018」を開催。詳しくはこちら

PROFILE

中津海麻子

執筆テーマは「酒とワンコと男と女」。日本酒とワイン、それらにまつわる旅や食、ペット、人物インタビューなどを中心に取材する。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、ワイン専門誌「ワイン王国」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」、同ペットサイト「sippo」などに寄稿。「&w」では「MUSIC TALK」を連載中。

音楽の道へと導いてくれた人との出会い 大橋トリオ(前編)

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