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<86>退屈な日常から一歩踏み出すきっかけの場所「みらい館大明 ブックカフェ」

 ひとくちに“若者”といっても、いろんな立ち位置の人たちがいる。

 やりたいことが明確で、何事に対しても積極的な人たち。その一方で人間関係に悩み、自宅に引きこもっている人がいる。また、毎日学校に通い、友達もそれなりにいるし、大過なく過ごしているものの、日常に物足りなさを感じている人もいる。

 「積極的な人はサポートがなくても頑張れるだろうし、逆に引きこもりの人たちには専門家のサポートが必要。実際は、中間層に位置する人たちが一番多いんじゃないかと思うんですけど、深刻な問題を抱えているわけでもないだけにフォローやサポートが難しくもあります。ここは高校生から20代のそういった若者のための場所なんです」

 閉校した小学校を活用した生涯学習施設「みらい館大明」内にある「ブックカフェ」。豊島区とNPO法人いけぶくろ大明の協働による若者支援事業として2013年にオープンしたカフェの位置づけを、同法人の荘司哲夫さん(51)は、こう説明する。

 自分からぐいぐい実行に移す積極性はなくても、「何かに挑戦してみたい」「誰かとつながりたい」という気持ちは誰にでもあるだろう。その第一歩を踏み出すための勇気やきっかけになれば、という思いがこの場所に込められている。

 JR池袋駅からも、東京メトロ有楽町線の要町駅からも10分以上離れた住宅街に位置している。道中に目印になるような建物もなく、正直なところアクセスがいいとは言い難い。ただし、一歩足を踏み入れると、小学校らしさが色濃く残る空間にほっとする。

 玄関で下駄箱に靴を入れ、元図書室に向かうと、広々とした空間に小説やビジネス書、マンガなど幅広いジャンルの約5000冊もの蔵書がある。大半は寄付によってまかなわれたものだ。利用者に興味を持ってもらえるようおすすめコーナーが随所にある。

 読書、勉強、休憩、カフェ利用、誰かとのおしゃべりなど、ここに来る理由は何でもいいし、理由などなくてもいい。ドリンクはセルフサービスコーナーのものを飲んでもいいし、施設内の「ココカフェ」から出前を取ることもできる。電源やWi-Fiも完備している。若者支援の場ではあるが、今のところは利用者の年齢に制限はなく、誰もが利用できる。

 弁護士が来て法律相談や気軽な会話に応じる「雑談ができる法律相談」や、助産師が相談に乗ってくれる「オトナ×女子のココロとカラダの相談室」など多彩なイベントが開催されており、イベント参加をきっかけにここを訪れるようになった人も少なくないという。

 「ブックカフェ」には曜日ごとにコーディネーターが常駐。小学生から大学生へのキャリア教育を行うNPO法人SLC代表理事で、3月に同区内の大学卒業を控える幅野裕敬(ひろゆき)さん(22)もその一人だ。

 「コーディネーターは日替わりマスターみたいな感じ。スタッフ用のスペースとしてカウンターがあるのですが、いつもカウンターの外にいるようにして、来た人に話しかけたりしています」(幅野さん)

 年上の社会人から仕事の悩みなどを打ち明けられることも多いという幅野さん。どっしりと構えた感じが相手に安心感を与え、心に引っかかっていることをつい打ち明けたくなるのかもしれない。

 「『話を聞くのが僕でいいんですか?』と思うこともありますが、じっくりと耳を傾けつつ、『社会に出るとこんなことがあるんだな』と感じることもあり、自分にとっても気づきが多いんです」(幅野さん)

 豊島区とNPO法人の協働による若者支援事業といっても、「年間何十人の就職支援をした」というように、誰の目にもわかりやすい成果を出しているわけではない。来店者に何かを積極的に働きかけることもなければ、イベントへの参加を促すこともない。ただし、本人が「ちょっと挑戦してみようかな」と少しでも何かに興味を示したり、人との交流を求めていたりするのであれば、コーディネーターやスタッフは大きく手を広げて受け入れ、サポートも惜しまない。

 「成果が見えにくい取り組みだと自覚しています。だからといって、数や結果にこだわる方向に持っていくつもりもありません。地に足のついた生活をしているんだけど、日常に少し飽きを感じているような若者と同じ目線を持ちつつ、彼らを受け入れ続けたい。ここは“意識低い系”の人たちのための、奇跡的な場所だと思うんです」(荘司さん)

おすすめの3冊

おすすめの3冊

『どまんなか(1)』(著/須藤靖貴)
猛特訓よりミーティング重視という超脱力系の高校野球部に入った快速球投手。初めは戸惑うことだらけだったけど、最高の仲間に恵まれて、甲子園も夢じゃなくなってきた!「著者の須藤さんは、この施設の前身である大明小学校の卒業生なんです。そのご縁でトークショーに来てもらったこともあります」(荘司さん)

『総務部総務課 山口六平太』(作/林律雄、画/高井研一郎)
一見、うだつの上がらないサラリーマンである山口六平太。実はどんな難問も解決するスーパーマンだった! 「子どもたちにぜひ読ませたい漫画です。リア充でキラキラ系に憧れがちですが、そうじゃない生き方でも成果が出せるということが実感できます」(幅野さん)

『「好き」を「お金」に変える心理学』(著/メンタリストDaiGo)
好きなことを選択し、そこにお金を集中して使うと、稼ぐ力に磨きがかかり、収入が増えていく「無限ループ」というサイクルの作り方を解説した一冊。「日本ではほとんどの人がお金に関する勉強をすることなく、社会に出てきます。この本ではお金と幸せのバランスを学ぶことができます」(スタッフ・緑川裕也さん)

    ◇
みらい館大明 ブックカフェ
東京都豊島区池袋3-30-8
http://www.toshima.ne.jp/~taimei/book.html

(写真 山本倫子)

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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