リノベーション・スタイル

特別編<4>リノベーションとお金のはなし

ブルースタジオ執行役員石井健さん / 撮影 鈴木愛子


ブルースタジオ執行役員石井健さん / 撮影 鈴木愛子


 自分らしく暮らすために住まいを編集する――。「ブルースタジオ」が手がけたリノベーション事例を紹介する「リノベーション・スタイル」も連載を開始して5周年を迎えました。全4回の特別編として、ブルースタジオ執行役員の石井健さんに「リノベーションの始め方」、「中古マンションのリノベーション事例」、「一戸建てリノベーション事例」、「お金のはなし」とテーマごとにお話を伺いました。
特別編<3>もっと自由に暮らす。~一棟まるごと&戸建てのリノベーション事例
「特別編<2>もっと自由に暮らす。~中古マンションのリノベーション事例~」
「特別編<1>リノベーション、どう始める?」

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 特別編の最後に、大事なお金の話を少ししたいと思います。まず家を買う前提として私たちが認識すべきは、不動産はちょっと特殊であるということ。不動産は車や洋服といったモノではないし、貨幣でもありません。でも、れっきとした“金融資産”。日本の消費者は、意外とそこが抜け落ちている人が多い気がします。

 金融資産ということは、そこに特別なバリューがついているということです。だからこそ担保になるし、住宅ローンのような低金利の融資が組めます。価値がゼロになることはほとんどありませんが、当然、価格も上がったり下がったりと変動します。

 住宅ローンを借りて、毎月返済しながらそこで生活をしていくということは、単純に借金を返しているわけではなく、少しずつ自分が資産を所有していくということ。つまり、貯蓄と一緒なんです。 資産として残っていきますから、そこが家賃とは決定的に違う点です。

 ただし、目減りするというリスクはあります。だからこそ、自分が一度買った不動産の価値がそのまま温存できるのかどうかが購入時のポイントになってきます。5年後、10年後、15年後……自分が買った不動産の価値はどうなるのか。実はプロでも予測するのは至難の業。経済誌などのバックナンバーを見てみると、アナリストの予測はだいたいがはずれていますから(笑)。とはいえ、自分で不動産に関する情報を積極的に集め、たえずアップデートしてシナリオを作っておくのは大事です。

  

 不動産の価値を考えるときの最重要ポイントは、「その街が将来どうなるのか」ということです。今後、そこにはどんな住人が増えるのか。どういう仕事があって、その街の税収はどのくらいあるのか。若い世代は増えるのか。子育て環境はどうなるのか。

 今後は一部の地域を除いて人口の減少と高齢化が急速に進む中、都市機能が制限される地域も出現します。あまり知られていないかもしれませんが、全国の多くの自治体では「立地適正化計画」という政策が進められています。「立地適正化計画」の内容はそれぞれの市町村で異なりますが、地域の中で住宅を集める「居住誘導区域」と、病院や学校、店舗などの立地を促す「都市機能誘導区域」を分け始めています。そうすることで、人口密度を一定の場所に集め、そこで行政サービスをまとめて行うのです。

 ということは、逆に言えば行政サービスが届かない地域が出てくるということ。今後、財政難の市町村では「ごみ回収の廃止」「バスの運行廃止」「浄水場の運転停止」といったインフラの縮小などが起こり得ます。住宅や土地を購入する際には立地がこれまで以上に重要なファクターになってくるでしょう。

 さて、上記を含む様々な条件を慎重に吟味し、いよいよ物件探し、そして購入となりますが、かかるお金は大きく分けて以下の4つになります。まず「物件費用」。そして、デザイン・工事などの「リノベーション費用」、物件の仲介手数料・ローン保証料・固定資産税などの「購入諸費用」(一般的に物件価格の5~10%)、そのほか引っ越し代や家電などの「スタートアップ費用」です。

 マンションの内装をすべて撤去し、スケルトン(骨組み)からフルオーダーで造る場合、リノベーション費用の目安は50平米で600万円〜、100平米で900万円~1500万円です。リノベーション費用も住宅ローンでまかなうことが可能ですが、物件購入の段階で借入額を決定するために、早めに総コストを見極めたいところ。事前に設計士や工事会社とイメージを共有し、物件が見つかったら即対応できる体制を作っておくのが理想です。住宅ローンの限度額内なら自己資金ゼロでできることもありますが、総予算の5〜10%の自己資金があることで融資金額の増額、金利・保証金の優遇が受けられるケースがあることも。加えて、リノベーション費用の最終調整(増額・減額とも)が行いやすくなります。

子育ての環境や通勤、さらに資産性を考えて、最初からエリアを限定して物件を選んだ事例


子育ての環境や通勤、さらに資産性を考えて、最初からエリアを限定して物件を選んだ事例

 中にはあえて5年後、10年後の住み替えを前提に家を選ぶ人もいます。その場合、物件選びの優先順位は他とは少し異なります。一番大きいのは耐震に関する考え方。「子どもがいて、20年は住みたい」という家庭と、「一人暮らしで5年後には売りたい」という人の場合、耐震に対するリスクの取り方は異なります。あくまで確率の問題ですが、5年ほどで住み替えを予定しているのなら、耐震リスクと他条件の優先順位を入れ替える考え方もあります。

 転勤の可能性がある人もたくさんいますよね。その場合は、やはり賃貸に出したとき、月々いくらで貸せるのかをあらかじめ計画しておいたほうがいいでしょう。

 また、最近増えているのが「マイFP(ファイナンシャル・プランナー)」に相談するという方です。第三者からの視点が欲しいときは有効ですね。ただ、FPの方はどうしても「老後いかに安心して暮らせるか」に重きを置くことが多いので、「今の暮らしを充実させること」とうまくバランスをとることが必要です。

 どちらにしろ、家を買うというのはゴールではなくスタート。日本では不動産は買ったときが一番高くて、その後どんどん値下がりしてしまうケースが多いのですが、それは海外では決して普通ではありません。要因はいろいろありますが、日本では一人一人が価値を維持しようとしていないことが大きな原因のひとつです。それは、トータルで見ると日本の国の資産が目減りしているようなもの。 金融資産である不動産が値下がりするというのは、国富が値下がりしているということです。購入後のメンテナンスや地域とのつながりは、意識的に大事にしないと自分自身の資産を失うことになってしまいます。

  

 さて、最後にどういうタイミングで買うべきか、ということですが、僕の回答はいつも「早ければ早い方がいい」です。賃貸住宅の家賃は掛け捨てです。だったら、少なくとも早く家を買った方が、掛け捨て分が少なくなり、家も早く自分の資産になります。

 たとえば10年間、毎月10万円の家賃を払い続けると、トータルで1200万円のキャッシュアウトになります。一方、5000万円のマンションを買ってそれが10年後に3000万円に値下がりしてしまったら、それも同じ2000万円のキャッシュアウトです。そんなことをするなら、賃貸でもよかったんじゃないのか、と思うでしょう。

 では、2000万円の物件を買って、1200万円かけてリノベーションし、10年後に2000万円で売れたらどうでしょう。それも同じ1200万円のキャッシュアウトです。でも、住まいのクオリティーは賃貸とは比べ物にならないほどいいですし、何より楽しさがあります。しかも、もしかしたら2000万円じゃなくて、2600万円で売れるかもしれません。

 そのあたりの計算が難しいところですが、どうせ同じように支払うのであれば、早めに家を購入して掛け捨てになる家賃の額を減らし、自分好みの暮らしを実現した方が、楽しくて賢明な選択なのではないかな、と思うのです。

 とはいえ、あまりに高い物件を買って値下がりしてしまっては意味がありません。ですから、まずは自分で住む街をじっくり見極め、その物件が好きかどうかというフィーリングを信じ、最後の見極めが必要なときはプロを頼り、最終的な決断を下すようにしてみてくださいね。

(文 宇佐美里圭)

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PROFILE

石井健

「ブルースタジオ」執行役員
1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から600件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。
http://www.bluestudio.jp/

特別編<3>もっと自由に暮らす。 ~一棟まるごと&戸建てのリノベーション事例

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