花のない花屋

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

〈依頼人プロフィール〉
中嶋さおりさん 54歳 女性
長野県在住
介護福祉士

    ◇

 2009年4月、弟は港区で小さな出版社を始めました。今でいう“一人出版社”の先駆けです。

 小さな頃から本が好きだった弟は、東京の国立大学に進学し、卒業後は出版社を希望していましたが、狭き門はなかなか開かず。それでも本が好きで好きでたまらなかった弟はある出版社にアルバイトで入り込み、やがて正社員になりました。それからは長年、数々の雑誌の創刊などに携わっていました。

 しかし、やがて時間に追われてばかりの生活に疑問を持つようになったのでしょう。40代はじめに退社し、数年間準備に費やして、2009年に一人で出版社を立ち上げたのです。モットーは「人にやさしく 本にやさしく」。絵本やアートブック、レシピ、小説など一冊一冊丁寧に本を作っています。

 そんな努力が実ったのか、なんと2017年には『くままでのおさらい』という絵本で、第51回造本装幀コンクール・日本印刷産業連合会会長賞を受賞しました。寡黙な弟は言葉にこそ出しませんでしたが、どれほどのよろこびだったでしょう。長野から上京して、周りの方々が心配するほど、働いて……。そんな、これまで一生懸命がんばってきた弟にお祝いのお花を贈りたいです。

 弟は現在51歳。奥さんと一緒に港区に住んでいます。彼が3歳くらいのときに父が他界してしまったので、弟にほとんど父の記憶はないと思います。でも、父が生きていたらどんな言葉を弟にかけるかな……とときおり想像してしまいます。

 雲の上にいる父から弟への贈り物、というようなコンセプトでお花をアレンジしていただけないでしょうか。弟は打ち上げ花火が好きなので、花火のようなイメージで、空から花が降ってくるような感じだとうれしいです。

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

花束を作った東さんのコメント

 今回はリクエストに沿って、大きな花火のイメージでまとめました。

 中心から外側へ向かって、花火が広がっていくように花を挿しています。真ん中は大輪のダリア。赤と白の複色の大きな花で、“ラララ”という名前の品種です。一番大きく美しいものを中心に挿し、その周りにもう少し小ぶりのものを4本挿しました。

 ダリアの周りは、赤いエピデンドラムと、オレンジ色のスパイダー咲きのガーベラです。ガーベラは細かい花弁が立つように、間隔を詰めて挿しました。その周りには、サンダーソニアやオンシジュームなど動きのある花を加えています。一番外側はボリュームのある黄色とオレンジの複色のカーネーションです。真上から見るとよくわかりますが、内側から外側へ広がっていくようにアレンジしています。

 他界されたお父様からの“贈り物”、無事に届きましたでしょうか。これからもすてきなお仕事ができますよう。

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

父だったらどんな言葉をかけるのかな……。絵本で受賞した弟へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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彼と台湾で生きていきます。「ごめんね」と「ありがとう」を両親に

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