このパンがすごい!

形がちがうバゲットの前に「1」「2」の数字、パン名ではなく数字で売るパン屋さんの狙い/_AND Bread

プライスカードに商品名はなく、数字が書かれる


プライスカードに商品名はなく、数字が書かれる

■_AND Bread
この3月、京都・北山で、実力者が店をオープンさせた。THE CITY BAKERYで統括シェフを務めた千葉大介さんの_AND Bread。小さな店に、20種弱の珠玉のパンが詰まっている。

不思議なプライスカード。商品名はなく、スタンプで押された数字だけ。お客さんとの間に会話を生むきっかけにするためだと、千葉さんは説明する。

パンはいたってベーシック。どれをとってもほれぼれするようなうつくしさ。同じようなパンが、2つ、あるいは3種類あって、どちらにしようか悩むことになる。たとえば、形がちがうバゲットの前には「1」「2」という表示。どこがどうちがうのか?

チーズのパン、バゲット、全粒粉のパン


チーズのパン、バゲット、全粒粉のパン

「1」はちょっと太めで中身を楽しめるタイプ。北海道・前田農産のキタノカオリを使用。クープはかりかり。本当にバターもコンデンスミルクも入れてないんですかと問い詰めたくなるとんでもない甘さを発散している。ぷりぷりして、ふにゃーんと溶ける中身からはお米に似たおいしさがにじみでる。

「2」は細身で皮を多くとったタイプ。かりかりの皮は焼き込まれ、刺激的な香ばしさ、旨味(うまみ)に満ちている。一度食べたら忘れられないこの味わいは、北海道産小麦ホクシンの特徴だ。

千葉さんはこの2本を明確なイメージを元に焼き分ける。一次発酵の温度は、「1」が18℃に対し、「2」は16℃。17℃を境に向かい合う。17℃といえば、シニフィアン シニフィエの志賀勝栄シェフが、名品バゲット・プラタヌで使う温度帯。発酵に一晩かけるタイプとしてはぎりぎり高めの温度。酵素を動かして、甘さや旨味を引きだしながら、バゲットの骨格をたもつ温度を見いだした。千葉さんは、この巨匠にリスペクトを惜しむことはない。

チャバタ


チャバタ

チャバタもそのひとつ。水分たっぷりの生地をボウルの中で手混ぜして作る。志賀シェフがキタノカオリのおいしさを引きだすために作ったレシピだ。

これも粉のちがいによって2種類が選べる。「3」はオリジナルと同じ、キタノカオリ。もちもちでぷるんぷるん。じゅわーと甘いミルキーな液体が流れ、のどのあたりでやはりキタノカオリ特有のお米のような風味に変化。噛めば噛むほど甘くなる。あまりにうるおいに満ちているので、ほとんど飲んでいるかのようだ。

「4」は「幻の小麦」と呼ばれるハルユタカ(北海道・興農社産)。甘さはもちろん、植物を切ったときにじむ汁みたいな青っぽい香りがほのかに。そして、ダシの旨味にも通じる地粉っぽい香りもハルユタカの特徴。もっちりした食感とともにミルキーな味わいが溶けてくる。

店内風景


店内風景

食パンは数字ではなく、「A」「N」「D」のアルファベット3つ。中でも、人気爆発の予感がした「A」。キタノカオリを、水を使わず、牛乳、生クリーム、練乳などで練る。その甘さたるや。噛んだそばから、クリアでやさしい乳製品の香りがにじむ。食感は、ふわふわエアリー。噛めばぷるっぷる。溶ければじゅわーと、さらに明るさを増し、焼菓子みたいなぜいたくな甘さがにじむ。

和菓子好きの千葉さんが、薯蕷饅頭(じょうようまんじゅう)に豆大福のニュアンスをイメージして作ったのが「8」。あんこがぱんぱんに詰まった薄皮あんぱん。と思ったら、皮は意外にもふわふわして、ふるっとしているではないか。そしてあんこ(香川のあんこ製造会社「山清」製)のおいしさよ。このボリュームにして、すいすい食べられてもたれない。豆の風味と甘さの繊細なるバランス。ときどき感じるあずきのつぶつぶも快い。

看板


看板

_AND Breadという店名には、日々の食卓にパンを付け加えることで、家族のだんらんをもっと楽しくしたいという願いが込められている。
「じーちゃんばーちゃんの家で育ったので、7、8人でテーブルを囲むのが普通でした。それが僕の原点。いろんな人たちがいっしょにいることって大事なんだろうな」
みんなで分け合って、おいしく食べられる、_AND Breadのパンがある食卓はきっと楽しい。

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■_AND Bread
京都市北区上賀茂高縄手町88-3
075-746-2223
7:00~10:00、12:00~17:00(今後通し営業に移行する予定) 金曜休み
https://www.facebook.com/andbread.kyoto/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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