東京の外国ごはん

山小屋でとろ~りチーズといえば ~シャレー スイス ミニ (スイス料理)

山小屋でとろ~りチーズといえば ~シャレー スイス ミニ (スイス料理)

エメンタールチーズ (3780円/人*2名〜、要予約)

JR西日暮里駅で降りて、富士見坂を上がった“山”の上にあるのが、小さなスイスの山小屋、「シャレー スイス ミニ(Chalet Swiss Mini)」だ。落ち着いた住宅街の中に現れる「café」の看板に導かれ奥へ進むと、かわいらしいログハウスが出迎えてくれる。

ぐるりと建物を囲んだ庭にはハーブが植えられ、奥にはウサギ小屋も。テラスにはブランコがかかっていて、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。ああ……平和。都内の下町のド真ん中にこんな空間があるなんてとびっくりした。

扉をあけてカフェの中に入ると、思い思いに午後のお茶のひとときを楽しむお客さんがちらほらいた。あたたかい木のぬくもりと、午後のやわらかい光、おいしそうなお茶とケーキ、おしゃべりの声……なんともほっとくつろげる空間が広がっている。

レジ横にある焼きたてのパンや、色とりどりのケーキにも目を奪われるが、スイスレストランだけあり、名物はやはり“チーズフォンデュー”。これを食べずに帰るわけにはいかないだろう。今日はサラダ、前菜、チーズフォンデュー、デザート、ドリンクがついた“チーズフォンデューセット”(エメンタールチーズ、3780円/人*2名〜、要予約)をオーダーした。

しばらくすると、専用の鍋に入れられたチーズが出てきた。専用のコンロに火をつけてぐつぐつ煮だすと、チーズの香りがぷうんと漂ってくる。

「おっと、そろそろパンにつけて食べないと、チーズと脂が分離しちゃうよ。ぐるぐるかき混ぜて、チーズをなめらかにしてね。コツは元気よくかき混ぜること!」

初めてチーズフォンデューを食べる私を隣で見ていたスイス出身のオーナー、パッシュ デニー(Pasche Denis)さん(61)はそう言って笑った。「こんな感じでいいのかな?」なんて、躊躇(ちゅうちょ)しながらノロノロかき混ぜてはいけないらしい。

山小屋でとろ~りチーズといえば ~シャレー スイス ミニ (スイス料理)

パンにたっぷりとチーズを絡ませて

急いで一口サイズに切ってあるパンを専用のピックで刺し、教えられるまま勢いよく回す。パンをとろとろのチーズにたっぷり絡めたら、すばやく引き上げ、お皿の上に振っておいたコショウにつけてパクッ……。う〜ん、濃厚なコク! いかにもワインを飲みたくなる味だ。

チーズはブリー、グリュイエール、エメンタールの3種類のチーズを使用。そこに白ワインやコショウ、フォンデュー専用のミックススパイスを入れて、味を調えている。もうちょっと塩味を濃くしたいときはチーズの種類を変えることもあるが、スイスのグリュイエール地方原産のグリュイエールは必ずなくてはいけないのだとか。

パンはスイスやドイツの小麦粉で作ったものを使っている。スイスでは、夏でも食べるが、やはり寒い冬に食べることが多く、「今日夕飯どうする?」「面倒だからチーズフォンデューにでもしようか」というノリで、気軽に食べるのだそう。月に1、2度はどこの家庭でも食べるんじゃないかな、とデニーさんは言った。日本における鍋のようなものだろうか。

「シャレー スイス ミニ」では、チーズフォンデューだけでなく、角切り牛肉をオイルで調理し、いろいろなソースでお肉を食べる“ミートフォンデュー”や、ラクレットチーズをゆでたじゃがいもなどにかけて食べる“ラクレット”、さらにリンツチョコレートのフォンデューまである。その他、ケーキやサンドイッチなどの軽食もそろっているので、昼間は近所の人たちが子どもを連れて気軽に来られる場所になっているようだ。

「日本って、子どもや赤ちゃんが断られるレストランが多いでしょう。それはスイスではありえません。どのくらいありえないかというと、『黒人お断り』と言っているのと同じくらい差別的です。だから、僕は最初から子どもも赤ちゃんもウェルカムのお店にしようと思って、ここを作ったんです。庭にウサギ小屋があったり、テラスにブランコがあったりするのはそのためです。ここなら親御さんたちも子どもを外で遊ばせながら、ゆっくりお茶が飲めるでしょ?」

今年20年を迎えるこのお店は、すでに多くの“卒業生”も出している。子どものころ、ここで遊んでいた子どもたちが大人になって来店し「懐かしいなぁ」なんて言ってくれることも。とってもうれしいですね、とデニーさんは目を細めた。

山小屋でとろ~りチーズといえば ~シャレー スイス ミニ (スイス料理)

スイス出身のオーナー、パッシュ デニー(Pasche Denis)さん

デニーさんが初来日したのは1984年、28歳のときだ。スイスで出会った日本人のフィアンセと2カ月ほど東京に滞在していた。彼女の実家が台東区の谷中だったこともあり、当時から今のお店があるエリアになじみがあったという。

その後、7年ほどはスイスを拠点にしながら、日本とスイスを行ったり来たりしていたが、90年に夫婦で日本に移住。すでに子どもが4人いたため、デニーさんは子育てをしながら、いろいろな仕事をしてきた。

「スイスでは『何でも屋さん』でした。クーラーシステムの会社、大工、屋根屋、電器屋、インテリアコーディネーター……いろんな仕事をしてきました。僕は同じことを何十年もやるより、いろいろな仕事をする方が好きなんです。一つのことしかやっていなかったら、それだけしかできないでしょう。日本でも同じで、いろいろな仕事を試しました。“釘師”もやりましたよ」

スイスの文化を発信するような場所に

「シャレー スイス ミニ」をオープンしたのは来日してから8年後、98年2月のこと。スイスをテーマにお店を開こうと思ったのは、「自分の場所を作りたかったから」だという。

「僕は外国人だし、日本語もうまくない。だから、たとえば日本の会社で働いているときに何かミスがあったら、簡単に『このガイコクジンがやった』と言われてしまいます。それに対して、自分を守れるだけの語学力もなかったので、自分がボスになれる仕事をしたかったんです」

ちょうど幸運なことに、義理の父が118坪もあるこの土地を買っていて、使い道は決まっていなかった。義理の父に相談したところ、スイスのお店をここに建ててもいいという。デニーさんはさっそく家と庭を自分で設計した。

「僕は何でも屋さんですからね(笑)。設計もインテリアデザインも全部自分でやります。日本人に言うとよく驚かれるんですが、スイス人にとっては、できるだけ自分でやるのが当たり前です。タイヤがパンクして修理に出す人はほとんどいません。できることは、なるべく自分でやるべきだと思いますよ。子どもじゃないんだから(笑)」

デニーさんはオープン当時から、ただのカフェレストランではなく、スイスの文化を発信するような場所にしたいと思っていた。そんな思いが反映されているのが、2階のサロンだ。

2階はオープン当時からカルチャースクールの教室になっており、今は英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の語学教室や、アロマテラピー&ハーブ、刺繡(ししゅう)、ドライフラワー教室などが定期的に開かれている。無機質な空間の“教室”ではなく、木に囲まれた暖かい空間なので、リラックスした気持ちで学べると好評なようだ。

さらに最近は、定休日の月曜日に荒川区の「子育てサロン」として、近隣の親子に開放されている。テーブルやイスを全部どかして、乳幼児のための空間として提供している。

「都会の中に、こうやって田舎みたいな場所があるといいでしょう?」と誇らしげに言うデニーさん。都会のエアーポケットのような、平和であたたかい空間は、まさにデニーさんの人柄を反映しているかのようだった。

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■シャレー スイス ミニ(Chalet Swiss Mini)
東京都荒川区西日暮里3-3-12
電話:03-3822-6033

PROFILE

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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