東京の台所

<167>30代女子・シェアハウスで婚活ライフ

〈住人プロフィール〉
会社員(女性)・31歳
賃貸マンション・2DK・小田急線 参宮橋駅(渋谷区)
築年数54年・入居3カ月・女友達(会社員・30歳)とふたり暮らし
    ◇
 「目標は2年後までに結婚して、共同暮らしを解散していること」。

 31歳と30歳の女性ふたりは口をそろえる。同じ大学の同窓生だが、知り合ったのは卒業後。Kさんは青森出身、アパレルブランドでデザイナーをしている。Mさんは福岡出身の編集者だ。飲み会で「広いキッチンで料理をしたい」「テーブルを置ける広さのダイニングがほしい」と意気投合。母校にほど近い参宮橋に、個室がふたつある広いマンションを見つけた。

 「築50年以上で古いんですが、キッチンは三ツ口で、タイルやシンクの取手、扉のデザインがレトロで可愛くて、一目ぼれでした。都心なのに、お互いにひとり暮らししていた頃の家賃より安くなり、広くなったのも大きな魅力です」(Kさん)

 入居3カ月だが、想像以上に利点が多かった。
 まず住居費が安くなり、貯金ができるようになった。それから掃除やごみ捨てなど、家事全般にまめになった。Mさんは言う。

 「彼氏と同棲していた頃は、ゴミくらい捨てといてくれてもいいじゃん、と相手に対して優しくなかったんです。恋人って遠慮がないから。今は、掃除やごみ捨てをしてくれたら“ありがとう”って心から思うし、家事も“だれかにやらされてる感”がないから、いやいやじゃなくできる。元からむちゃくちゃ親しいわけではないのがむしろよかったのだと思います。お互いが居心地良く暮らせるよう気遣いと、感謝の気持ちがあるから」

 Kさんは、「私は元来ものぐさなので、ひとりだと、ごみ捨ては次回でいいやといい加減になりがちだったけれど、ふたりだと彼女を嫌な気持ちにさせたくないから、進んでできるんですよね」と語る。
 小さな遠慮や気遣いが、大きな快適を生んでいるらしい。
 互いに料理好きなので、使ったことのない調味料や料理レパートリーが増えることもうれしい。「ここへ来てから、外食はぐんと減りました」(Kさん)

 取材中に、農家から取り寄せたクレソンが7箱届いた。このあと友だちを呼んで、クレソン鍋を楽しむのだという。
 「これまでに、友だちを呼んで手巻きずしやおでんパーティーをしました。ふるさと納税で届いたウニを、夜中にふたりで丼にして食べたり。お取り寄せや宴会は、シェアハウスだからこそできる。栄養も生活の質も、この暮らしで明らかに上がりましたね」(Mさん)

 30代で、自分の仕事や暮らしのペースが確立されている。詮索(せんさく)しすぎず、共有の財布や当番制もない。20代のシェアハウスを何度か取材したが、細かいルールを決めすぎないところもまた、若い世代と異なる。

 「掃除やごみ捨ては気がついた人がします。ほこりが目についたら掃除機をかけるという感じ。共有のリビングはなんとなく私物を置かないようにしていますね。食事も基本的に別。夜中のコンビニのビールや宴会など、2人で買いに行ったときはワリカンです。休日の行動もそれぞれ別で、あまり予定を知りません」
 このくらいの距離感のほうが、うまくいくのではと思った。

 ただ、彼女たちには、料理好きのほかに、稀有(けう)な共通項がある。
 入居と同時にふたりとも失恋したことだ。
 「ふたりで、伊丹十三の『女たちよ!』の一節を朗読して、夜中までおいおい泣きました。Mは婚活本を読みまくるようになり、私も課題図書と言われ、何冊か貸してもらっています」(Kさん)

 共同暮らしが結婚の障害になってはいけない。だから男性の来訪もOKにしている。
 冒頭の「2年後の更新時に結婚」という目標はけっこう本気らしい。

 料理や家事がまめになり、互いに感謝を忘れない毎日は、立派な結婚生活の練習になると思うが、婚活が成功するかどうかは微妙だ。だってこれ、楽しくて快適すぎるもの。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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