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その実を食べて大人になる? ならない?『4ミリ同盟』

4ミリ1

撮影/猪俣博史

「あなたはもう、あの“実”を食べましたか?」
本の表紙の帯に書かれているこの謎めいた問い。これはその“実”をめぐって大人がじたばたする、悩ましくもすがすがしいお話。

主人公のポイットさんが住んでいる地方の人々は、湖に浮かぶ小さな島〈フラココノ島〉になっている〈フラココノ実〉をある時期になると食べたくなり、一度食べたら最後、もうこの“実”なしでは生きていけなくなるという体質を持っている。

ところがこのポイットさんは、もう相当な大人になっているにもかかわらず、どうしても食べたい気にならない。何度も何度もトライしても、いつも最後はあきらめることになる。

「あなた、まだ食べていませんね?」

そんなポイットさんの前に、「あなた、まだ食べていませんね?」という驚愕の質問と共に、同じく“実”を食べていないエビータさんが現れる。なぜポイットさんが食べていないと分かったのか。それは、食べていない人は歩く時に地面から4ミリ浮いているからだという。

その特徴から画家のバンボーロ氏や可愛いおばあちゃまのコロリータさんも仲間と判明し、すったもんだのあげく、最後は4人でお手製のイカダに乗り、いざ〈フラココノ島〉へ向かい、みんなで食べようじゃないか! という流れになる。

果たして最後、4人は食べることができたのでしょうか。

〈フラココノ実〉を食べると〈何か〉を失うとも言われていて、バンボーロ氏が実を食べる誘いを受けて、一度は拒む時の言葉が〈フラココノ実〉とは一体何か? と考えさせられる。

〈何か〉を得れば〈何か〉を失う。……(中略)……そこいらじゅうの人がなくしてしまった〈何か〉を大事に持っているほうが、貴重、かつ、愉快じゃありませんか。

別に食べなくても人は人、自分の価値観で生きれば良いのだという姿勢はとても勇気をもらえる(でもこの後バンボーロ氏もすぐに食べたくなるわけですが……)。

食べていない人は4ミリ浮いているのなら、それは「地に足がついていない」ということ? それはオトナになりきれていないということだろうか。とすると〈フラココノ実〉が表すものってなんだろう。自立心? お酒? それとも……恋?

以前湘南のお店に来て下さった、この本の挿絵を描かれている大野八生さんは、少女がそのまま大人になったような可憐な女性だった。大野さんは〈フラココノ実〉を食べたことがあるのかな。今度伺ってみたい。そして、誰か私の歩く姿を見て4ミリ浮いているかいないか確かめて頂けませんか……。

(文・川村啓子)

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湘南 蔦屋書店 児童書・自然科学コンシェルジュ。
読書といえば小説が主で大学も文学部、ずっと「人間のこと」ばかり考えてきましたが、このお仕事に出会ってからは「人間以外のこと」を思う時間が増えました。いま気になっているのは放散虫。「自然界は美しいものだらけです」。

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