花のない花屋

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

〈依頼人プロフィール〉
小沼のどか 60歳 女性
長野県在住
セラピスト

    ◇

 娘が9歳のとき、私はシュタイナー教育を学びに、娘をつれてイギリスに母子留学しました。離婚に加え、母が末期がんを煩ったりといろいろなことが重なり、当時はとりあえず1年ほどのつもりでの渡英でした。

 しかし、気づけば滞在は7年半に。娘は現地校にすっかり慣れ、私が帰国する際も一人で現地に残る決意をしました。日本の高等教育を受けるだけの日本語力がなくなったこともあったのですが、娘はそのまま大学へ進学しました。

 と、書いてしまえば簡単なのですが、私が帰国してから娘にターナー症候群という染色体異常が見つかり、第一希望であったバイオリンの道をあきらめることに。第二希望であった生物学の道へ進み、そのまま大学院へ進学しました 。microbiology、「微生物学」を研究しています。今思えば、18歳の娘が一人で乗り越えるにはかなり大変だったことでしょう。

 そして、博士課程に進んだ4年前の冬。年末年始を過ごすために娘が一時帰国する2日前、夜中に電話が鳴りました。イギリスの病院からでした。娘が救急車で運ばれ命が危ない、とのこと。まるで夢を見ているかのような気持ちで、イギリスへ向かったのを覚えています。ICUのベッドに横たわった娘を見た瞬間、崩れ落ちそうになる自分を必死で支えました。

 病名は、難病の「肺高血圧症」。それでも娘はなんとか持ち越し、4週間後に退院。50メートルを歩くのさえしんどい思いをしながらも復学しました。胸に穴を空け、カテーテルの管を差し込み、24時間の薬液の点滴をしながら研究を続けたのです。私もできるだけそばにいてあげたかったので、飛行機に乗れない娘のために私が年二回、娘のもとへ通うことになりました。 

 その娘がついに今年、博士論文を書き上げ、審査に合格しました。そしてこの春、18年ぶりに帰国します。夢にまで見た念願の一時帰国です。

 18年におよぶ英国生活で、彼女が日本に帰国したのは夏か冬しかないことに気がつきました。18年ぶりの日本の春。2週間の滞在ですが、お部屋の中にも生命力あふれるお花があればどんなにうれしいでしょう。

 そこで、東さんに娘の博士課程の修了と久しぶりの帰国のお祝いを込めて、花束を作っていただけないでしょうか。日本の春をテーマに、できれば桜を入れて、華やかにアレンジしていただけるとうれしいです。

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

花束を作った東さんのコメント

 日本の春をテーマにということでしたので、桜を中心にアレンジしました。同じ桜色の花をいくつかピックアップ。例えば、季節のお花で、ひらひらとしたラナンキュラス。また、小ぶりな花が特徴的なシレネ(サクラコマチという品種です)、香りの良いスイートピー、アスター、ガーベラなどです。全体的に柔らかいグラデーションを意識しました。

 今年は全国的に桜が早かったのですが、この花のなかにはつぼみがいくつかありますので、まだまだ春を楽しめるかと思います。これまで日本の春を満喫することがなかったであろう依頼者の娘さん。春の花は、“これから咲き出す”こともあり、全体的に生命力ある花が多いです。この花束から、そんな生命力を感じ取っていただけるとうれしいです。

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

50m歩くこともやっと……難病乗り越え博士課程を修了。1人でイギリスに残った娘へ

(写真・椎木俊介)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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