このパンがすごい!

映画『アメリ』を思い出し……美しい花のパン「アメリ」/ COURTESY(コーテシー)

アメリ


アメリ

 アートとパンが融合していた。昨年9月、赤坂インターシティーAIRの開業と同時にオープンしたCOURTESY。レディー・ガガの履くヒールレスシューズ(かかとのない靴)を作ったアーティスト舘鼻則孝氏がクリエイティブディレクターを務めるベーカリー兼フレンチレストランだ。

店内風景


店内風景

 ギャラリーを思わせる白い空間に、舘鼻氏自身の心臓をかたどった真紅のクリスタルアート。並べられたパンもまたアート作品のようではないか。

パレット オレンジ&カシス


パレット オレンジ&カシス

 「パレット」は、四角い形も色彩も、まるで印象派の画家のパレット。「オレンジ&カシス」にのせられた輪切りのオレンジは、ゴッホの描くひまわりを思わせた。その香りの一撃は、みずみずしくも強烈。大胆にピールまで食べさせることで、パッションにあふれている。シロップ漬けにして苦味をやわらげ、カシスの酸味、ピスタチオクリームによって華やかさを加え、フローラルに咲き誇る。

フォカナッツ3種。左から、フォカナッツ、ビーツ、スピナッチマサラ


フォカナッツ3種。左から、フォカナッツ、ビーツ、スピナッチマサラ

 四角いボディに、円形の穴。「フォカナッツ」は、まるで抽象的な彫刻。フォカッチャを予期しながら食べると、滲んできたのはオリーブオイルではなく、ラルドン(豚の脂肪)の香りだった。ミモレットチーズの甘さが放たれ、ほうれん草のさわやかさはまるでよもぎのよう。みっちりとしてむにゅーんと溶けていく食感も新鮮で、パンの未来を予感させた。
 フォカナッツとは、フォカッチャとドーナツのハイブリッドだという。温度を低くして生地を締め、ドーナツのように穴を型抜きする。普通のフォカッチャなら上に具材をのせるところ、ピューレにして練りこんでいる。3種類はそれぞれ、緑はほうれん草、黄はかぼちゃ、赤はビーツ。
 こんな独創的なパンを作るのは、青柳吉紀さん。ヘッドベーカーに着任したとき、はじめはオーソドックスなパンを準備していた。変えたのは、舘鼻氏の一言だった。
「青柳さんも、アーティストですね」
 それまでのレシピをくつがえし、アートな空間にふさわしいパン作りに着手した。イマジネーションを広げ、発想のジャンプを繰り返し、アートとしてのパンを完成させた。

アメリ


アメリ

 「アメリ」は食べるお花畑だ。 アイシングをまとわせたエディブルフラワーがパンの上で咲いている。マジパンから湧き出る薔薇の芳香は、ピエール・エルメの名作菓子「イスパハン」を思わせる。巻き込まれたラズベリージャム、ルバーブによってますます香りがフローラルになるにつれ、これは花を食べるうつくしい体験なのだと強く思った。この花は2人の女性のイメージを重ね合わせて、「忙しさの中の小さな幸せ」を表現したという。
「スタッフに、きれいなネイルをしている子がいるんですよ。働いていても、おしゃれも忘れない。そういう子が一息つけることが、カフェの魅力。そう思っていたとき、ちょうど映画『アメリ』のことを思い出して」

ジャスミンブリュレ


ジャスミンブリュレ

 革命的なクリームパン「ジャスミンブリュレ」。貝殻の形は、ボッティチェルリの名画「ヴィーナス誕生」を連想させる。発想の起点は「スタッフの中に、マーメイドを連想させる子がいて」。てらてらと輝くガラスの糖衣(ブリュレ)をまとった貝殼は、ほどけるように実にあっさりと崩れ、中からジャスミンティー入りのカスタードクリームが芳醇にとろけだす。東洋的なジャスミンの香りとクリームは実にさわやかにマリアージュする。そして、圧倒的ななめらかさ。クリームにしたときとろみが出るドイツ産のスペルト小麦を使用することで得られる。

ジャスミンブリュレ断面


ジャスミンブリュレ断面

 ジャスミンブリュレこそ、マドレーヌの型に入れて作るが、それ以外の上記4つはひとつひとつ形が異なる。私がどれにしようか選んでいるのを、青柳さんはよろこんだ。まさにそれが狙いだと。穴の位置も花の大きさも不均一だから、スタッフひとりひとりが美的センスを働かせなくてはならないし、客も選ぶときにセンスを働かせることになる。舘鼻氏が投げかけたアートという波紋は、パンを通じてあらゆる人に伝わっていくのだ。

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■COURTESY
東京都港区赤坂1-8-1 赤坂インターシティAIR 1F
03-5797-7441
7:00~22:00(土曜~16:00)
日曜祝日、及び赤坂インターシティーAIR休館日休み

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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