パリの外国ごはん

行列のできるポーランドのお総菜「Adriana & Margot」

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は、2人がいつか行こうと思っていたという、ポーランドのお総菜屋さん。名物の「キャビア」って、例の高級品かと思ったら……?

  
パリ2さしかえ

  

イラスト・室田万央里

 この連載を始めるとき、さしあたりのお店候補をリストアップしたのだが、その当初から万央里ちゃんが「いつか行こう!」と挙げていたひとつに、ポーランドのお総菜屋さんがあった。いかにも移民の人たちが経営している雰囲気で、「夕方から暗い中ウォッカ飲む」のが気分のこぢんまりとしたお店らしい。ベーグルやパンにお総菜を挟んでサンドイッチにもしてくれるのだけれど、サンドイッチは買ったことがないと言うので、ランチに行ってみることにした。

パリ1さしかえ

 着いたのは13時すこし前。お昼を買いにきた人で列ができていた。店内左手にショーケースがあり、手前にはソーセージやサラミが所狭しと置かれている。フランスのシャルキュトリーよりも少し赤みが目につくのは、牛肉を使ったものがあるからだろうか。ケースの上には、大きくて厚みもあるベーグルが並べてある。

ベーグルは、ケシの実つきとゴマつき。右にあるのが私たちが選んだタマネギのパン


ベーグルは、ケシの実つきとゴマつき。右にあるのが私たちが選んだタマネギのパン

 サンドイッチにはお店の提案する組み合わせがあるようだ。タラマ(タラなど魚卵のペースト)+シャルキュトリー+生野菜で6ユーロ50。キャビア2種類+仔牛のパストラミ+生野菜も6ユーロ50とある。キャビアというのは、野菜のペーストのこと。パリでレバノン料理やトルコ料理のお店に行くと、「ナスのキャビア」という前菜がある。これは焼きナスを潰し、オイルと和えてペースト状にしたものだ。この店ではそれがナスだけではなくて、ドライトマト、ピーマン、オリーヴ、マッシュルームと揃っていた。タラマとお肉を合わせるのも、フランスのサンドイッチではない組み合わせだ。

 もうひとつ気になったのは、ニシンと生野菜のサンドイッチ、5ユーロ30。
 ニシンは定番のオイル漬けのほかに、クリーム和え、マスタード和え、ビーツ風味と4種類も選択肢がある。ショーケースの奥の方に、たしかに東欧やロシア料理を思わせるビーツを使っているのであろう発色の良い濃いピンク色が見えた。

初めてだしやっぱり王道の「仔牛のパストラミ」

 これは難しい。具の選択肢の多さもさることながら、パンだって選ばなければならない。結構並んでいる人がいるなあ、なんて思っていたけれど、迷っていたらあっという間に自分の順番が回ってきそうだ。私なりの猛スピードで、頭の中で考えうる組み合わせの味を想像しながら、消去法で候補を絞っていく。

 と、万央里ちゃんが「ニシンにする」と呟いた。「オイル?」と聞くと「マスタード」という。あ、そう、そうくる、と心の中で反応しながら、初めてだしやっぱり王道のパストラミで行こう、と決めた。「仔牛のパストラミ」と書いてあるのが気になった。私がこれまで食べてきたパストラミは、牛肉と思い込んでいたけれど、仔牛だったのかしら。もうすぐニューヨーク出張があるから、ユダヤ料理屋さんでまた食べてみよう。そして聞いてみよう。

キャビア


キャビア

 主たる具が決まったところで、今度はキャビアを何にするか、だ。キノコは気になる。でも、もう少しキリッと硬派な味が良い気がして、ピーマン(とあるけれど、一面赤いから、緑じゃなくて赤ピーマン)と緑のオリーヴにした。パンは、タマネギとケシの実を散らしたものに。
 順番が来て「マスタード和えのニシンに、キャビアを追加で……」と万央里ちゃんが言い始めると「ニシンにキャビアは組み合わせないの」と却下された。およ? これは思わぬ展開。この日2度目の、あ、そう、そうくる?! だ。どうしてもキャビアを食べたかったらしく、万央里ちゃんは単品で買うことにしたようだ。私も自分のサンドイッチを注文し、チーズケーキも買った。

 そのあと、店員さんがサンドイッチを作っているのをじーっと見ていて、却下の理由がわかった気がした。このお店の「キャビア」は、おそらくソースの代わりなのだ。サンドイッチを作り始めるときに、バターもマヨネーズもマスタードもパンには塗らない。いきなりこのキャビアを塗る。2種類を、上下片面に1種類ずつ塗っていた。万央里ちゃんの頼んだニシンはすでにマスタードソースがたっぷり。だからキャビアを合わせないんだな、きっと。

仔牛のパストラミのサンドイッチ


仔牛のパストラミのサンドイッチ

 ここで食べる、と伝えると、サンドイッチを半分に切ってくれた。お会計をして、店の奥にある控えめなイートインスペースへ。作りたてのサンドイッチは、具が、重ねられたままのきれいな層になっている。大口で頬張って、あら、と驚いた。パンが、軽い。みしっ、ぎゅっとした生地を想像していた。ところが、ふわっとしている。そして、具も軽やか。パストラミは塩気も強くないし、スモーク臭に覆われてもいない。

 あと、マヨネーズやらバターやらが無いのはこんなにもボリューム感が変わるのですね。ガツンと食べ応えのあるサンドイッチかと思っていたら、意外なほどにまろやかだ。フランスでは、“ロシア風”と売っている太めで甘みのあるピクルスも懐かしさを覚えるアクセントになっていた。子供のころ、ファストフードのハンバーガーに入っているこの甘酸っぱいピクルスが好きだったなぁと思い出した。

ニシンのマスタードソース和えサンドイッチ


ニシンのマスタードソース和えサンドイッチ

 万央里ちゃんのニシンのサンドイッチをひとくち味見させてもらうと、たっぷりのソースに、パンについたケシの実とタマネギの食感が相まって、食べやすかった。ここのサンドイッチは、まだまだ未知なる味の扉を開けてくれそうだ。

チーズケーキ


チーズケーキ

 軽やかといえど、しっかりおなかいっぱいになり、チーズケーキは少し食べて持ち帰ることにした。甘みが控えめだから、すでにおなかにまったく余裕はないのに気づかぬうちに食べてしまいそうで、あわてて止めた。

パタフィロという極薄の生地で詰め物をしたお惣菜。奥にピロシキが見える


パタフィロという極薄の生地で詰め物をしたお惣菜。奥にピロシキが見える

 帰り際に聞くと、ピロシキや、パタフィロ(小麦粉のうすーい生地)で包んだお惣菜もすべて自家製なのだそう。サンドイッチの具に、レバーもあった。タマネギのパンと合うだろうな。今度はそれも試してみたい。

  

Adriana & Margot(アドリアナ&マーゴット)
14, rue des Goncourt 75011 Paris
01 47 00 64 50
10時~19時(~19時30分 金、土)
日、月休み

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

あ~また戻ってきたいなぁ。インドネシア料理「Indonésia」

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