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男のふりして南北戦争に参加した妻の話。『ネバーホーム』ほか

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撮影・馬場磨貴

「アメリカの分断」の時代に

今回は南北戦争時代を描いた小説を2冊ご紹介。まずはレアード・ハントの『ネバーホーム』。弱虫な夫に代わって、妻が男に成りすまし、南北戦争に参加する物語だ。

驚くのはこれが史実に基づいていること。当店での刊行イベントでの訳者の柴田元幸先生によれば、全米で400人から千人くらい、男のふりをして南北戦争に参加した女がいたそうだ。戦争は残酷さみなぎる世界。女たちはどうしてそこへ飛び込んでいったかというと、柴田先生によれば大きな動機はお金。

当時は女性の身分は低く、外に出て働くといえばメイドくらいしかない。賃金はたかが知れている。一方兵隊になるとすごいお金がもらえる。というわけで「男の恰好をして戦争に行こう」と思い立った女性がけっこうな数いたらしい。もっとも柴田先生によれば、お金はカンケイなく恋人にくっついて自分も入隊とか、ただただ男の中にいるのが好き、という動機の人もいたとか!?

『ネバーホーム』の主人公・コンスタンスは、体が弱く銃の扱いもうまくなく、なにかあるとすぐものごとから逃げてしまう夫に代わり、男に成りすまして北軍に参加する。最初は牧歌的だった軍隊だが(皆でかけっこをしたりクラッカーの早食い競争をしたりする!)、シンプルな文章の中に緊張感がじわじわと張りめぐらされ、状況がシビアになっていくのがわかる。コンスタンスの運命は?

奴隷たちを安全な北部に逃がす『地下鉄道』

もう1冊はコルソン・ホワイトヘッドの『地下鉄道』。時代は南北戦争の少し前で、まず史実として、南部でひどいめにあっている奴隷たちを安全な北部に逃がす「地下鉄道」という秘密組織があった。しかしこれは名前だけで、ようやく地上に線路が敷かれ、汽車が走り始めた19世紀初頭に何百キロも続くトンネルを掘る技術なんかない。しかしこれが本当にあったら、という物語だ。

『ネバーホーム』が不穏な空気は高まりつつも描写として残酷なシーンはほぼ出てこないのに比べて『地下鉄道』には悲惨なシーンも多々ある。でも「南部から北部まで、この時代に地下に列車が走り、支援者たちが黒人を町から町へ逃がしている」というSF仕立てが作品のど真ん中を貫いており、この奇想天外のおかげで不必要な残虐さは感じない。

そして物語の中心を信じられないことがどかんと貫いているからこそ、細部に出てくる黒人たちが受けてきたこと――人間が売り買いされ、暴力を受け、劣悪な環境に置かれ、差別され、というシーンはすべて本当にあったことだと確信する。そんな不思議な味わいの作品だ。

米国での『ネバーホーム』の刊行が2014年、『地下鉄道』が2016年の8月で、奇しくもトランプ勝利の前後である。南北戦争から160年近くたつのにまたも「アメリカの分断」が大問題となっている今読みたい2冊。どちらもエンターテインメントとして一級品で、多くの人に手に取ってもらえると思う。

(文・間室道子)

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間室道子(まむろ・みちこ)

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