東京ではたらく

渋谷区のセラピスト:鈴木愛さん(38歳)

  
職業:セラピスト
勤務地:渋谷区
仕事歴:9年目
勤務時間:さまざま
休日:不定期

この仕事の面白いところ:さまざまな方の人生を見せていただき、そこに寄り添えるところ
この仕事の大変なところ:自分がどんな状況にあっても、常にフラットな状態を保たなければならないところ
    ◇
 セラピストとして活動を始めて9年ほどになります。「セラピスト」という言葉を聞き慣れない方は「どんな仕事?」と思われるかもしれませんが、なじみのあるものには「アロマセラピスト」というお仕事もありますよね。

 アロマセラピストは香りを使って人をリフレッシュさせたり、癒やしたりするお仕事ですが、私の場合はタロットなどのカード類を使った占いや、「アカシックリーディング」といって、「アカシャ」と呼ばれる人の記憶の中から必要な情報を読み取っていくセッションなどを行うことで、悩みや不安を抱えた方々の手助けをさせていただいています。

 もしかしたら中には「占いって怪しそう……」と思っている方もいるかもしれません。じつは私もこの仕事を始める前はそのひとりで(笑)。いわゆるスピリチュアル的なものに対しては懐疑的な見方をしていたんです。

 始めて占いに触れたのは28歳のとき。私は山形から上京して東京の大学に通ったのですが、文学や芸術、音楽など、興味のある分野を学んだり、サークル活動をしたりして、とにかく楽しく、充実した学生生活だったんですね。

仕事場はマンションの一室で、完全プライベート。「恋愛や仕事、結婚など具体的な悩みを持っている方もいれば、漠然とした生きづらさを話に来る方もいます」


仕事場はマンションの一室で、完全プライベート。「恋愛や仕事、結婚など具体的な悩みを持っている方もいれば、漠然とした生きづらさを話しに来る方もいます」

 でも、いざその楽しい大学生活が終わってしまったら、「将来こういう仕事がしたい」とか「こうなりたい」という具体的な目標を持っていないことに気づいてしまって。人から声をかけてもらった事務の仕事をしたり、まあ言ってしまえば、流れに乗ってなんとなく生きていたという感じです。

 占いに出会った当時は、ちょうど仕事を辞めて、宙ぶらりんなときでした。一向に夢らしい夢も見つからないし、「自分って何のために生きてるんだろう?」なんて、ほとほと自分が嫌になっていた時期だったと思います。

 そんなとき、たまたま好きな作家さんがご自身の占い体験を書かれた本を手に取ったんです。彼女が長らく通っているセラピストの方との対談集だったのですが、自分が尊敬している作家さんだったこともあって、「へー、占いかあ」と。そこはファン心理も働いて、「じゃあ自分もこの人に占ってもらおうかな」ということで、半ばノリで人生初の占いを受けることにしたんです。

 今でも忘れられないのですが、とにかく衝撃的だったのは、そのセラピストさんと対面したときの彼女のひとこと。「『当ててみやがれ』と思っているんだったら帰ってもらえます?」と(笑)。その頃はまだ「占いってどうなの?」と内心思っていたので、その気持ちを全部見透かされていたんですね。

タロットカードを使ったリーディングも知りたいことによって方法はさまざま「過去、現在、未来」を見る方法、「現在の状況、本音、深層心理」など本人の心の内を見る方法なども。


タロットカードを使ったリーディングも知りたいことによって方法はさまざま。「過去、現在、未来」を見る方法、「現在の状況、本音、深層心理」など本人の心の内を見る方法なども。

 それで、これは「ナメてかかってはいけないぞ」と。そのときは、当時悩んでいた「この先の人生どうなるんだろう?」とか、「自分は何のために生まれてきたんだろう?」みたいな漠然としたことを質問したのですが、驚いたことに「あなたは占い師になりますよ」と言われまして。

 思いがけないことに「へ?」という感じだったのですが、「あなたのアカシックレコードにはちゃんとそう書いてあるから」と。ここで少し専門的なお話になりますが、アカシックレコードとは、簡単に言うと潜在意識の集合体のようなもので、その人の輪廻(りんね)転生における記憶のすべてが刻まれていると言われています。

 本来、人間誰しもがそのアカシックレコードにアクセスして、生まれる前の記憶や未来の記憶を読めると考えられていますが(実際に子どもが胎児期のことを話したりすることがありますよね)、瞑想(めいそう)などの鍛錬を積んだセラピストたちはより的確にその情報を読めるということで、近年ではタロットなどのカードリーディングと並んでアカシックリーディングという手法も主流になりつつあるんです。

 もちろん当時は私もアカシックレコードなんて聞いたこともありませんから、「へー、私、占い師になるんだ」程度に軽く聞き流していたのですが、ここからが不思議で、その後、別のセラピストの方々にも軒並み「君は占い師になるよ」と言われ続けて(!)。

悩みの内容はもちろん、相手の表情や口調からも心情を読み取っていく。「優しくアドバイスすることもあれば、この人には強く言ってあげた方がいいと思った時はガツンと行きます」


悩みの内容はもちろん、相手の表情や口調からも心情を読み取っていく。「優しくアドバイスすることもあれば、この人には強く言ってあげた方がいいと思った時はガツンと行きます」

 偶然にしては出来過ぎているなと思っていたら、みなさんが「だって、そうなるって決まってるみたいだから」と(笑)。それで、お世話になったセラピストさんのうちのひとりが、「とにかくやってみたらいいじゃない」とおっしゃってくださって。

 その方に直接ご指南をいただいたり、占いのイベントや展示会でブースを出せるようにサポートしていただいたりするうちに、あれよあれよという間に独立することになりました。正直「やりたい!」と強く思っていたわけではないのですが、本当に何かに導かれるようにしてこの世界に入ってきたという感じです。

 最初の頃は本当に見よう見真似で、クライアントさんのアカシックレコードを正確に読めているのかどうか不安もありました。うまく言葉では表現できないのですが、それはあくまでも直観の世界の話ですし、この先の未来のことだったりもするので、その場で「ハイ、大当たり!」という風にはならないんですよね。

 じゃあどうやって自分の資質を知るかというと、それはお客さんが繰り返し来てくださるかどうかということに尽きると思います。これはこの仕事を始める時に先輩から言われたことですが、「一度来たお客さんが数年後に戻ってきてくれたら自信を持っていい。それはあなたのリーディングが的確だったということだから」と。

 占い師さんの多くがそうだとは思いますが、やっぱり最初は大変で、私もそれだけでは食べられず、飲食店などでアルバイトをしながら細々と活動をしていました。だから徐々にリピーターさんが増えてきたなと実感できた時はうれしかったですね。それはそのまま自信にもつながっていきました。

「どう生きるか?」。その人だけの、唯一無二のストーリーを伝えたい。

長年のクライアントなかには地方から飛行機でやってくる人も多い。「セッションを通して悩みが解消された方でも、『愛さんに会いたくて、また来ました』と言っていただけるのが一番うれしいですね」


長年のクライアントのなかには地方からやってくる人も多い。「セッションを通して悩みが解消された方でも、『愛さんに会いたくて、また来ました』と言っていただけるのが一番うれしいですね」

 この仕事をしていくうちにわかってきたのは、「セラピスト」とは、人が抱える何かしらの不調を「治す」仕事ではないということでした。

 セラピーやヒーリングと聞くと「何を治してくれるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが(実際、私も昔はそう思っていました)、今、私が実感として思うのは、セラピストというのは、人の心と体を映し出す「鏡」のような存在だということです。

 その方法は施術者によって様々ですが、私の場合はタロットやアカシックリーディングを使ってその人の潜在意識に触れ、ありのままの自分というものを見る手助けをするという感じ。その上で、この先どういう風に変わっていきたいか、そのためにはどうしたらいいかを一緒に考えていくのが役割だと思っています。

 たとえば以前、長年赤ちゃんができず苦しんでいる女性が訪ねてきたことがありました。もちろん医学的な不妊治療も一生懸命やっていて、それでもダメだと。「私はこの先、赤ちゃんを授かれないのでしょうか?」と、かなり思い詰めていらっしゃいました。

その人の状態に合ったパワーストーンを鑑定し、ブレスレットなどを作ることも。「もともとアクセサリーが好きなので、デザインを考えるのも楽しいんです」


その人の状態に合ったパワーストーンを鑑定し、ブレスレットなどを作ることも。「もともとアクセサリーが好きなので、デザインを考えるのも楽しいんです」

 そこで私ができることは何かというと、不妊の原因を医学的につきとめることではなくて(それはお医者様のお仕事)、今の状況を引き起こしている彼女の心の中の原因を探ることなんですね。

 実際にタロットやアカシックでリーディングをしていくと、彼女の中には子どもを持つというヴィジョンがしっかりありました。さらに深く掘り下げていくと、タロットでもアカシックでも「過去のトラウマ」「母親との確執」という強い感情があることがわかりました。

 そんなことに心当たりはないかと尋ねたら、彼女はわっと泣き出しました。聞くと、お母様が小さい頃に離婚をされていて、今もあまりいい関係ではないと。幸せな家族の関係というものを知らずに育ったために、無意識のうちに「自分が子どもを持ったらダメなんじゃないか」と思っていたのかもしれないということでした。

 彼女のように、人は誰しもつらい記憶や悲しい過去を無意識に遠くへ追いやり、その痛みに気づかないように生きようとします。でも、心の奥底にある感情というのは何かしらの形で心や体に影響を及ぼしますから、そこにきちんと向き合うということが、心身ともに健やかに生きることに欠かせないんです。

ボディートークでは相手の手首に手を添えて、その人自身の自然治癒力を呼び覚ますための「質問」を重ねていく。クライアントにはアトピーやぜんそくなど、精神面が大きく影響する症状に悩む人も多いそう


ボディートークでは相手の手首に手を添えて、その人自身の自然治癒力に呼びかける「質問」を重ねていく。クライアントにはアトピーやぜんそくなど、精神面が大きく影響する症状に悩む人も多いそう

 「母親との関係について、改めて考えてみます」と言って帰っていった彼女。その数カ月後に妊娠の知らせを受けた時の喜びは今でも忘れられません。「自分の仕事が何かしらの形で人の役に立てているんだ」。そう強く思えた出来事でもありました。

 もうひとつ私の仕事を何かに例えるとしたら、痛みに寄り添うストーリーテラーだとも言えると思います。例えばタロットが「過去のトラウマ」を示していたとしても、そのカードを見ただけで、クライアント自身が自分の奥底にある感情に気づけるということはまれです。

 私はクライアントの話に耳を傾けて、タロットやアカシックレコードから得られるヒントを糸口に、少しずつ相手の心をほぐし、深層心理を引き出していきます。そうすると徐々に、その人が生まれて現在に至るまでの物語がつながってくるんです。

 これはあなた固有の、唯一無二のストーリーなんだよ、こんな物語を、あるいは冒険の地図を持ってあなたは生まれたんだよということを伝えてあげると、人というのはしっかり、勇気を持って自分自身と向き合えたり、少なくとも向き合おうという気持ちになれるものです。

 だから私はセラピストであると同時に優れたストーリーテラーでなくちゃいけない。そこがこの仕事の腕の見せどころですし、一番個性が出る部分でもあると思います。だって、出たカードの意味をそのまま伝えるだけなら、コンピューター占いで十分ですから。

ボディートークには所定のプロトコルがあり、施術者はそれに従って施術を行う。オーストラリア発祥で、アメリカで広まりを見せつつある療法だが、日本でも徐々に注目されつつある


ボディートークには所定のプロトコールがあり、施術者はそれに従って施術を行う。アメリカで広まっているが、日本でも徐々に注目されつつある

 今後の目標ですか? そうですね、ひとつは昨年資格を取得した「ボディートーク」という新しい施術を使って、心と体のトータルケアをしていけたらと思っています。

 ボディートークというのは、クライアントの手に触れながら、徐々に潜在意識に近づく質問をしていき、体の微細な反応を見ることでその方の心身の問題を突き止めるというもの。その上で奥底にある記憶や感情を解放する手助けをするという施術です。

 これはセラピスト以外にも医療従事者やスポーツトレーナーなども使うメソッドで、精神的な問題が原因となって引き起こされる身体的な障害、症状を緩和できる場合もあります。心と体はつながっているという観点に立ったメソッドです。

 私自身、母が二度がんを患い、つらい闘病生活を間近で見てきました。日々セッションを重ねる中で、心のケアだけでは取り切れない身体的な苦痛や病にもどうにかアプローチできないものかと思うようになって。自分なりに模索していたときに出会ったのがボディートークだったんです。

 もうひとつは自分自身のケアと言いますか、自分の時間や経験をもう少し大切にする生活をしていきたいなと最近思うようになりました。この仕事を始めてから、ひたすら誰かの人生に寄り添ってきて、それは本当に充実していたし、一緒に悩んだり、泣いたり、成長したり。私もどれだけ救われたかわかりません。

 でも、よく考えたらこの10年近く、私はずっと部屋の中にいて、自分の人生を生きてこなかったんじゃないかなとも思うんです。人生の苦悩や喜び、さまざまな経験について人一倍知ってはいるけれど、それは決して自分のものじゃなくて、誰かのものだったんだなって。

◎仕事の必需品「タロットカードやオラクルカードなどのカード類はいろいろな絵柄をそろえて、用途に合わせて使い分けます。右は空間を浄化するための水晶の音叉。パワーストーンは常時30種類ほどそろえています」


◎仕事の必需品「タロットカードやオラクルカードなどのカード類はいろいろな絵柄をそろえて、用途に合わせて使い分けます。右は空間を浄化するための水晶の音叉。パワーストーンは常時30種類ほどそろえています」

 そういう意味では私は今も、この仕事に出会う前の自分と変わらず、どこか満たされない、空虚さを抱えたままなんだと思います。でもそんな自分だったからこそ、人の人生に寄り添えてきたということも多分にあると思うので、悲観しているわけではまったくないのですが。

 ただ、この先セラピストとして仕事を続けていくためにも、やっぱり自分自身の成長というのは欠かせないと感じています。自分の内面がしっかりしていないと誰かの心に寄り添うことはできませんし、それぞれの方の温かで価値のあるストーリーを紡ぐこともできないと思うから。

 その手始めとして最近、神奈川の海沿いの街に家を移しました。私は山形の田舎の出なので、東京への憧れは人一倍強くて、今では山形より東京が自分のホームだと思っています。でも、最近は自然っていいな、とも思うようになって。だからその気持ちに素直に従って、家は郊外、仕事場は都心という風に、都会と郊外を行き来する生活を始めてみました。

 私にとって東京は人生のご褒美のような場所でした。毎日楽しいことがあって、常に仲間が側にいて、いろいろな夢を見させてくれて、たくさんの学びをくれた街。とくにこの数年間は、結婚、出産、離婚と激動の日々で。でもそんな時間があったからこそ、今、無理に背伸びをしなくても、ただ自分らしく、素直に生きられつつあるのかなとも思います。

 ここからは、また新しいステージです。この先、自分がどう成長して、セラピストとしてもどう変わっていくのか。それはこれから私の元を訪れてくれる方々と一緒に、その変化も楽しみつつ、見ていけたらいいなと思っています。

■鈴木愛さんのホームページ

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

ヘアメイクアップアーティスト:小池瑠美子さん(37歳)

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映像ディレクター:菅井亜希子さん(42歳)

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