このパンがすごい!

泊まれる京町家『つきひの家』宿泊者だけが受けられる朝食サービス/オートリーズ

京都最高のパン朝食、全景


京都最高のパン朝食、全景

朝、京都の町家に、小麦の香ばしい香りがたちこめる。建築家の魚谷繁礼氏によってリノベされた泊まれる京町家「つきひの家」。私が寝ぼけ眼(まなこ)でいるあいだにも、うつくしい庭に面したダイニングテーブルで、「オートリーズ」の榎友寿さんによって朝食の準備が進む。

榎さんは、パンの新しい食べ方を提案する食事会「パンNAVI」の主宰者。レストランではパンのソムリエとして、一皿ごとに料理にあったパンを提案するなど、パンペアリングのスペシャリストだ。この日も、京都市内のいろんなパン屋を自転車で巡って、買い集めてくれた。パンのお供はすべて京都産・滋賀産。これは「つきひの家」の宿泊者だけが受けられる朝食サービスなのだ。

つきひの家のリビングルーム(写真・Viajes株式会社)


つきひの家のリビングルーム(写真・Viajes株式会社)

お香代わりに、小麦が炒られる。竹の器の上に幾種類ものパン。ここには、いくつものサプライズと心遣いがこめられる。

ブーランジェ パン・ド・ミーのカナッペ用バゲット(気泡が少なくスプレッドが垂れない)にジャム(祇園・まいこと)と山桜のはちみつ(ミール・ミィ)をのせて


ブーランジェ パン・ド・ミーのカナッペ用バゲット(気泡が少なくスプレッドが垂れない)にジャム(祇園・まいこと)と山桜のはちみつ(ミール・ミィ)をのせて

「器をお選びください」と榎さんより声がかかる。好きな酒器にジャムやオリーブオイルを注いでくれる趣向。オリーブオイルは京都・山中油店厳選の2種。御陵(みささぎ)の「ブーランジェ パン・ド・ミー」特製のカナッペ用バゲットにつけて食べる。青く若々しい香り、まろやかで甘い香りが、福岡県産ミナミノカオリのすがすがしさとともに、のどを舞った。

滋賀県の古株牧場発酵バターは、ヨーグルトみたいな甘い香りが豊かに鼻へと抜け、後味はひじょうにさっぱり。これを、鷹峯の名手「クロア」の食パンにつけて。北海道産小麦の甘さと発酵バターはすばらしい相性。パンのふにゅっと繊細な食感を、榎さんのトーストが絶妙にいかす。

バターだけでトーストを楽しむのではない。そばで湯気をたてていた、「聖護院カブのスープ」に、戯れに浸してみる。しみじみとした香りとあたたかみに心が憩う。

桜の木からとれた国産はちみつ(三条「ミール・ミィ」)をつけてもいい。桜餅かラベンダーを思わせるすっと清涼感のある色っぽい香りとともにすっきりとした甘さで溶けてくれる。そんなふうに、ここにあるパンとスプレッドを自由に組み合わせて、遊んでいいのだ。

mina_minaのベーコンエピ


mina_minaのベーコンエピ

榎さんのパンのセレクトはすばらしい。京都御所にある「mina_mina」のベーコンエピは皮が薄くてぱりぱり、歯切れが抜群。クロアからのもう一品、白みそマフィンには感動を覚えた。混ぜ込まれたバターにみその発酵フレーバーが加わって、わけがわからないぐらい夢中になった。

クロアの白みそマフィン、「雨の日も風の日も」の豆乳レザン


クロアの白みそマフィン、「雨の日も風の日も」の豆乳レザン

「雨の日も風の日も」の豆乳レザンもすごい。完熟した柿みたいにとろけながらちぎれていく食感。湯葉よろしく豆乳が甘くとろけだしてくる。

食事のあいだ、ずっとのどをうるおしていてくれたのは、榎さんが作った小麦茶。榎さんはパンを追求しつづけ、小麦の奥深さに至った。全国の小麦畑のテロワール(土地の味)を表現したい。その欲求に突き動かされて、小麦茶を作ってしまった。北海道から九州産まで試すこと10種近く。えぐみを出さず、小麦の個性を取り出すべく、焙煎とブレンドの試行錯誤に2年を費やした。

小麦茶「麦の雫」「麦の奏」


小麦茶「麦の雫」「麦の奏」

そして、完成した、2種類の小麦茶。「麦の雫」はストレートタイプ。神奈川県産の湘南小麦をベースに作られている。ほうじ茶のようなすがすがしい香り。口に含むとほのかな甘さ、その中から力強く「麦」の生命力がほとばしるのを感じる。余韻に残る香ばしさと麦の甘み。まったくまとわりつかないし、パンを邪魔しない。それどころか、パンの中にある麦の香りをいつでも強調してくれるのだ。

もうひとつはラテ用に作られた「麦の奏」。熊本県の生産者「ろのわ」の東博己さんによるミナミノカオリがベース。麦茶でラテ? 疑問に思うかもしれないが、すごく合う。がつんとくる麦の香ばしさが、ミルクの甘さによって、まろやかでひたすら心地いいものに変えられている。コーヒーのように強くなく、後味もさわやか。

小麦茶「麦の奏」をラテに


小麦茶「麦の奏」をラテに

「組み合わせ方でパンの世界ってどんどん広がります。それを楽しんでもらえたら」

榎さんの自在なナビゲーションで、パンの世界のフロンティアはどんどん開拓されていくだろう。

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■つきひの家
京都市下京区諏訪開町22-1

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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