このパンがすごい!

熊本のおいしい地元野菜をふんだんに使ったパン屋/パンダイゴ

とろけるマンゴーカスタードブリオッシュ、ベリーベリーカスタードブリオッシュ、アスパラガスと生ハムのパン、カヴォロ


とろけるマンゴーカスタードブリオッシュ、ベリーベリーカスタードブリオッシュ、アスパラガスと生ハムのパン、カヴォロ

2年前、阿蘇を襲った悲劇。窓ガラスは割れ、重たいミキサーは移動し、床は汚れていても水がでないので掃除さえままならない。荒れ果てたパンダイゴを案内しながら、店主の上道大吾さんは、どんな心境だったのだろう。余震へのおびえ、衣食住の不自由、パン職人がパンを作れないつらさ。心のうちに抱える苦しさはおくびにもださず、「たいへんな思いをしてる人がいっぱいいる」と言って、熊本地震の被災者のために、人と人をつなぎ、イベントを企てたりと、走りまわっていた。

まだ残る仮設住宅。背後は阿蘇の山なみ


まだ残る仮設住宅。背後は阿蘇の山なみ

昨年9月、500日に及ぶ休止を経て、パンダイゴは新店舗で営業再開した。かつてにぎわっていた店舗は修理のめどが立たず、都会へと移転する選択肢もあったが、復興に貢献したいと南阿蘇に踏みとどまった。

外観


外観

なんと気持ちのいい場所なのだろう。広々とした芝生の中に建つ木造の家。敷地には巨木が立ち、阿蘇の山なみと、青い大きな空が広がっている。なにより、大吾さんの、人の心を溶かすような笑顔。常連さんがくれば、厨房(ちゅうぼう)から出てきて冗談を言い合う。地元のテレビで『旅するホットサンド』(熊本朝日放送「くまパワ」)というレギュラーコーナーを持つほど愉快な人なのだ。

得意とするのは、地元の旬の食材を包んだパン。阿蘇の自然の恵みの豊かさを伝え、地域経済を盛り上げる。

アスパラガスと生ハムのパン


アスパラガスと生ハムのパン

阿蘇産のぶっといアスパラが刺さった「アスパラガスと生ハムのパン」。穂先からかぶりつくと、じゅじゅーっと液体がこぼれ落ち、フレッシュな香りが飛びだす。生ハムの塩気によって引き出された旨味(うまみ)もろとも、熊本県産小麦を使用した「塩パン」生地がそれらを受け止める。むにゅっとしたもっちり感、やさしい甘さは、大吾さんの人柄をほうふつとさせる。

塩パン生地とは、あの「塩パン」とは異なる。「ホシノ天然酵母」と自家培養した種を合わせて立体的な風味を作りだし、オリーブオイルを塗って、超高温で焼きあげた。鬼才として知られる「パン工房風見鶏」の福王寺明シェフから学び取ったものだ。

阿蘇自然ポークのサルシッチャ塩パンドッグ


阿蘇自然ポークのサルシッチャ塩パンドッグ

塩パン生地は、阿蘇の多彩な食材と出会って、自由自在に姿を変える。たとえばホットドッグに。「阿蘇自然ポークのサルシッチャ塩パンドッグ」には、ドッグパンの皮目にすがすがしい香ばしさ、引きちぎる楽しさがある。ソーセージがはずみ、肉汁がこぼれ、オリーブオイルによって強められた小麦の甘さと出会う。

カヴォロ断面


カヴォロ断面

「カヴォロ」は、ざっくりカットされたキャベツを、塩パンに砂糖を加えた生地で包み焼き。かめば、青い芳香があふれ出る。ベーコンの旨味(うまみ)がキャベツに垂れ、さらに生地へと野菜のジュースがしみ、実にみずみずしい。キャベツと熊本産小麦が混ざり合ってできるおだやかな甘さは、お好み焼きに通じる。地元産キャベツのおいしさがなくては成立しないだろう。

この5月に私が訪れたとき、即興で「たまねぎのパン」が登場していた。『旅するホットサンド』のロケで訪れた熊本県津奈木町の生産者が送ってくれた「サラたまちゃん」を、食パンに混ぜ込んだ。やわらかなほどけのいい生地の中から、たまねぎの粒が舌に触れると、えぐみもなく甘さがきらめく。紹介した生産者からおすそ分けが届き、それをまたお客さんやメディアで紹介し……大吾さんを通じて輪が広がり、与え合いの連鎖が巡っているのだ。

「昨日は田植えだったんですよ」

大吾さん自身もパンを焼きながら農業をしている。2年前の夏も、避難していた親戚宅から田んぼに通い、苦労して田植えをやり遂げた。避難所にいる生産者たちは、みなそうだという。余震がつづく中、待ったなしだったアスパラの収穫をし、みんなで分け合った。「きれいでしょ」と大吾さんが指さした先にあった棚田に、水面に列をなして苗が顔を出していた。あの地震の最中でさえ農業の営みは途絶えなかったのだ。

店内風景


店内風景

噴火にも負けず、綿々と自然に生きつづける人たちの感性、強さ。パンダイゴのパンが生まれてくるのはまさにそこからだ。それがある限り、阿蘇は必ずよみがえるだろう。

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■パンダイゴ
熊本県南阿蘇村河陽1883
0967-67-3225
11:00~18:30
水曜休み

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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