このパンがすごい!

「食感マニア」自認の店主が長年の夢“オーダーサンドのお店”をオープン/ケポベーグルズ

あまりにも好きすぎてできない。リスペクトしているがゆえに、下手に自分が近づけば、大事なものが失われてしまう気がする。ケポベーグルズの山内優希子さんにとってニューヨークベーグルのサンドイッチとはそれほどいとしいものだ。

店主の山内優希子さん


店主の山内優希子さん

オープンから10周年、この5月に新店舗に移転し、イートインスペースを完備。ついに長年の夢だったオーダーサンドをはじめた。日本のサンドイッチは冷蔵ケースにずっと作り置きされているけれど、ニューヨークではオーダー後に作られるのが当たり前。「プレーン」「オニオン」「セサミ」「ソルト」……いろんな種類から好きなベーグルを選び、キッチンカウンターでサンドしてもらう。

サーモンサンドとハンドドリップコーヒーをイートイン


サーモンサンドとハンドドリップコーヒーをイートイン

私はニューヨークのど定番「サーモンサンド」を「エブリシング」(オニオンもセサミもソルトもぜんぶ入り)で注文。丁寧に野菜の水を切り、クリームチーズを塗り、具材をはさんで……待つこと5分。はむっと噛(か)むサーモンの食感と香りがなまめかしい。ケイパーの酸味、フレッシュなディルのさわやかさ。とろけた小麦の白い甘さとクリチのミルキーさが交差する瞬間に、官能はマックスへ達した。

サーモンサンド


サーモンサンド

山内さんは「食感マニア」を自認する。小さなときからグミだのもちだの、おもしろい食感のものが大好き。虜になったのがニューヨークベーグルだった。そんな彼女が作るニューヨークベーグルの食感とは。すべてがスローモーションになる無重力状態みたいに、生地がむにーんとゆっくり沈み持ち上がってくる食感の宇宙遊泳。その間、早く小麦と同一化したいというこちらのパン欲は焦らされ、あざ笑うようにようやく割れ、小麦の甘さが溶けてくる。

山内さんは毎年のようにニューヨーク視察を欠かさない。ベーグル店の厨房(ちゅうぼう)に入れてもらい、「ローラー」と呼ばれる成形職人の動きを丹念に観察。

「大好きなベーグル屋さん『マーリーズベーグル』では、怒られるまで2時間ずっと見てました。冷たくされると嫌いになったり、切なくなったり」と、恋のような感情さえ抱いている。

和ベーグル。豆乳、まっちゃきなこ、ざらめ


和ベーグル。豆乳、まっちゃきなこ、ざらめ

北米産小麦を使うニューヨークベーグルの他に、「和ベーグル」のラインもある。みそやしょうゆといった日本の発酵食品に似た香りをもつホシノ天然酵母と、もちもちした食感が特徴の国産小麦を使用。混ぜ込まれる食材も、和に振り切っている。

黒豆もち


黒豆もち

「黒豆もち」の衝撃。パンの中にもち!? 食べて納得。パンのもちもちと、もちのもちもち。2つの「もち」が共存し、ゆえに両方のちがいをまざまざと味わえる。黒豆ともち、黒豆と国産小麦の相性。さらに、ホシノ天然酵母ならではのしょうゆが焦げたようなフレーバーがマリアージュの仲をとりもつ。

プレーンの和ベーグル。左から酵母4%、酵母6%、酵母10%


プレーンの和ベーグル。左から酵母4%、酵母6%、酵母10%

食感マニアのこだわり。和ベーグルには酵母量4%、6%、10%という3種類の生地が存在、酵母量が少なければ硬くみっちりと、酵母量が多ければふわっとやわらかい食感を作りだす。さらに、「発酵の具合がいちばん食感に影響しますね。同じ6%でも具材のイメージによって、発酵状態の見極めを変えています。「レモンだいなごん」は発酵が進んでから成形。黒糖くるみは味が濃いので、食感も強いほうがよく、発酵が若い(進んでいない)うちに成形に入ります」

レモンだいなごん断面


レモンだいなごん断面

レモンピールの香りが鮮烈なレモンだいなごんには、ふにーんとしたやわらかめの食感が合う。このフレーバーもユニーク。レモンの柑橘感と、大納言のほっこりした甘さという逆ベクトルがせめぎ合うエクスタシー。とろーんと溶けて最終的に至るのは小麦の麻薬的な甘さ。ニューヨーク、日本の、洋の東西を問わず、ベーグルとは、小麦の作りだす食感と口溶けの魔力にちがいないと、得心した。

キッチンカウンター


キッチンカウンター

オーダーサンドには、いい食材をそろえるむずかしさ、食品ロスが増えるリスクがある。それでも、迷った末、あえてそこに踏み込んだ。

「やりたいことをやらなきゃ!」

と言い切って、山内さんらしい大きな笑顔を浮かべた。彼女は愛に生きる人だ。

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■ケポベーグルズ
世田谷区上北沢4-16-13
03-6424-4859
9:00~19:00
月曜(祝日の場合は営業)、火曜休
http://www.kepobagels.com

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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