パリの外国ごはん

スパイスたっぷり、丁寧なおうちごはん。レバノン料理「Tintamarre」

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は新しくできたばかりと思われるレバノン料理屋さんです。たくさんのお店に出かけている川村さんが絶賛する「これまでにどこでも食べたことがない」というお料理、いったいどんな味なんでしょう……?

  

イラスト・室田万央里

  

イラスト・室田万央里

  

イラスト・室田万央里

気温は上がったり下がったり、お天気も不安定で少し体が疲れを感じていた6月のはじめ。恒例の2人外国ごはんは、どこに食べに行こうか~と万央里ちゃんに問いかけると、ご家族が見つけたというレバノン料理屋さんを提案してくれた。19区にあるそうだ。食事が目的で訪れることは少ないエリアにあるそのお店にいくことになった。

ランチタイムのピークを過ぎた時間に着いてみると、小ぎれいな構えで、どうも新しくできたばかりのようだ。渡されたメニューもとてもシンプル。「扱う全ての野菜、粉類、砂糖はオーガニックのものです」と添えられ、“目下の前菜”として3品、串焼きが5品、スペシャリテが2品、それに日替わりのサラダとメインが並んでいる。

ベジタリアンのための串焼きも!

ただ、コンパクトなそのメニューに書かれた料理は、ふだんレバノン料理のお店で目にするものではなかった。説明を読んでみても、どのように出てくるのかイメージできないものばかりだ。串焼きには、ゴマだれを合わせた“ヴィーガン”とハルーミ(羊乳と山羊乳で作るチーズ)付きの“ベジタリアン”もある。選択肢は少ないのに、意外と決めるのに時間がかかった。

最後までスペシャリテのひとつ、khodraという野菜のローストのひと皿と迷ったけれど、menemenという卵と野菜で作るもうひとつのスペシャリテに万央里ちゃんが決めた、と聞いて、お肉の串焼きをとることにした。

カルダモンの効いた、ズッキーニとにんじんのサラダ


カルダモンの効いた、ズッキーニとにんじんのサラダ

ほどなくして出てきた前菜は、驚いて一瞬止まってしまうほどにシンプルだった。
注文をするときに“生野菜のカルダモン風味”は何かと聞いてみたら、たしかにズッキーニとニンジンを使ったものと言ってはいたけれど、ここまで潔いものを想像してはいなかった。食べてみると味付けもシンプル。オリーブオイルにレモンだけだろうか。

だけれど、ピーラーで薄く長く削ったとみられるズッキーニと薄く輪切りにしたニンジンというのがよかった。ニンジンもピーラーで削りそうなものなのに、輪切りにしていることで見た目も食感も随分と印象が変わる。お皿の大部分を占めているのは野菜でも、主役はカルダモンだ。実をおろしているのかな? 全体を包んだ爽やかな香りが強烈な存在感を放っている。そこに控えめな甘みの干しぶどうが加わっているのも、なかなか憎い。

目に見えるものそのままで構成された、隠し味も感じられないこのひと品は、どれが欠けても全く異なるものになってしまうなぁと思うこのメンツだからこその味になっていて、なんだか恐れ入ってしまった。

ひよこ豆の前菜。松の実の下にあるのはヨーグルト


ひよこ豆の前菜。松の実の下にあるのはヨーグルト

“ひよこ豆とコリアンダー風味のヨーグルトソース”とあった万央里ちゃんの頼んだ前菜は、かわいらしい素焼きの器に盛られている。ヨーグルトの上にかけられた色鮮やかなソースはニンニクが効いていて、コリアンダーも揚げてあるようだった。見た目に反し、結構食べごたえがある。

薄いだけに食べ過ぎてしまいそうな、パン


薄いだけに食べ過ぎてしまいそうな、パン

小さくちぎって添えられたレバノンの薄焼きパンにつけて何の気なしにパクパク食べていたら、あっという間におなかが膨れそうだ。これは夏のアペリティフのお供にぴったりだな。

薄焼きパンとひよこ豆+ヨーグルトの相性の良さったら……


薄焼きパンとひよこ豆+ヨーグルトの相性の良さったら……

前菜の2品いずれもがこれまでにどこでも食べたことのないお料理で、すっかり楽しみになりメインを待っていると今度は、これ好きだなぁ、と思う要素がいくつも盛られた姿をしていた。

メインの鶏肉の串焼き。お米つき


メインの鶏肉の串焼き。お米つき

まずちょっとオリエンタルでレトロなお皿が好きだし、千切りキャベツがこんもり添えてあるのも好みだ。食堂っぽいのだけれど、装い方が丁寧で、全体的に丸みを感じ、家庭料理っぽくもある。そのたたずまいからすでに、様子をうかがうような少し身構えたバリアーを取り払い、いきなり親近感を覚えて初めて会ったとは思えない調子で話せるひと、に対するような気持ちで食べ始めた。

見た目に違わず、ちゃーんと手をかけて作られている味がした。ごはんからはおだしの風味が感じられて、キャベツはオイルとレモン汁で軽くあえてあるようだ。野菜のグリルには軽くスマック(ふりかけの“ゆかり”のような味のするスパイス)をふりかけているらしい。チキンの味付けは、スマックとタイム、ごま、ピスタチオ、お塩、ニンニク。レバノンではピスタチオを入れないけれど、加えるとおいしいからパリでは入れていると言っていた。

卵を厚手のお鍋に落として焼いた、こちらもメイン


卵を厚手のお鍋に落として焼いた、こちらもメイン

万央里ちゃんの頼んだ卵のお料理を味見させてもらうと、子供のころに好きだった卵のココットを思い出した。トマトピューレを煮詰めたものにピーマン、たまねぎ、ニンジンを合わせて卵の下に敷いてある。私は、こういう味にごはんを合わせるのが好きなんだよなぁ。そして、朝ごはんのようなお昼ごはんがまた好みだ。

ギリシャヨーグルトのデザート。タイムが決め手


ギリシャヨーグルトのデザート。レモンタイムが決め手

優しい味のお料理だけれど、意外におなかはちゃんといっぱいになる。それでもデザートもちょっと味見したくて頼んでみることにした。ガラスの器で出てきた、たっぷりの蜂蜜がかかったギリシャヨーグルトは、やっぱり家庭的な味で、でもフレッシュなレモンタイムが散らしてあり、デザートにこうやってハーブを散らすんだなぁと最後まで発見のあるごはんになった。

平日のランチタイムは、前菜一皿と串焼きのメインで14ユーロ、それにデザートを加えると17ユーロ。通常3本つく串焼きが、このセットにすると2本になる。ランチにはちょうどよいボリュームだった。

  

Tintamarre(タンタマール)
80, avenue Jean Jaurès 75019 Paris
01 44 52 01 63
12時~15時、19時~22時
水、日休み

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

美人餃子と、主張しない北京ダック。化学調味料不使用「Le Petit Pékin」

トップへ戻る

パリパリの春巻き1本だけを買う喜び。ベトナム料理「Minh Chau」

RECOMMENDおすすめの記事

Recommended by Outbrain