冷水料理相談室

料理家・冷水希三子さんインタビュー 「食べてくれる人の喜ぶ顔が見たいから」 

連載「冷水料理相談室」で毎回、読者の料理にまつわるお悩みに答えてくださっている料理家の冷水希三子さん。料理のおいしさはもちろん、端正な盛り付けや洗練された器選びは日々料理をする女性たちの憧れです。今回は連載一周年を記念して、冷水さんが料理の道に進んだきっかけや、食に対する思いを伺いました。

  ◇

――毎回冷水さんのお料理を見てうっとりしてしまうのは、その佇(たたず)まいの美しさです。インスタグラムでも日々すてきなお料理の写真を紹介されていますが、そうした冷水流の盛り付けやテーブルコーディネートはどのようにして生まれたのでしょうか?

冷水 私が料理の世界に進むきっかけになったのは、フードスタイリストに憧れたことからでした。大学時代から「VOGUE」などの洋書が好きで、特にインテリアや料理のページを熱心に読んでいました。自分もこんなページを作れる人になりたいなと思って、フードスタイリストを志すようになりました。

 ところが、やんわりと父の反対にあってしまって。せっかく大学も卒業するのだから、会社に就職することを考えてはどうかという勧めがあり、なんとなくアパレル関係の会社に就職したんです。でも興味が持てなくて、1年ほどで辞めました(笑)。

――それは、フードスタイリストの道に進みたいと思われたからですか?

冷水 う~ん、その時はまだそこまで確固たる意思を持ってはいませんでした。当時お付き合いしていた人がアメリカ留学をすることになり、ふんわりと結婚しようみたいな話も出ていましたので、「会社も辞めたし、私もアメリカへ行っちゃおう」と、半ば勢いで渡米しました。
 ところがアメリカに着いて1週間くらいで、突然お別れを告げられてしまって! フラれたこと自体もつらい出来事ですが、その時にもっとショックだったことがありました。それは「私って彼との未来しか夢がなかったんだ……」ということ。数カ月後に帰国した後は「少しでもやりたいと思ったことは全部やってみよう!」と決めました。

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――自分の夢を見つける決意をしたんですね。怪我(けが)の功名ですね(笑)。

冷水 はい(笑)。まずは当時興味のあったイラストの専門学校に行くことにしました。面白い部分もありましたが、そこまでドキドキしなかったんですね。いろいろと考えてみたけれど結局最後に立ち戻ったのが料理だったんです。それでフードコーディネーター専門学校に入学しました。

 フードコーディネーターというのは盛り付けやスタイリングなどを専門にする職業ですが、前提として料理の知識や技術がないとだめなんですね。だから授業は料理ができて当たり前というスタンス。料理の基礎知識やスキルは教えてくれませんから、独学です。私は日常生活でちょこちょこ料理をする程度でしたから、まあまあ苦労しましたね。

――冷水さんのお料理の美しさはフードコーディネーターの勉強をされたことも大きく関係しているのですね。調理に関してはどうやって経験を積まれたんですか?

冷水 料理家として仕事をしていると、「どこで修行したの?」とか「誰に師事したのか?」とよく聞かれますが、私は師事をして料理の修行という経験はないんです。

 フードコーディネーター専門学校を卒業した後、知り合いが開店したフランス家庭料理店で、料理と接客を任せてもらったのが、本格的に料理に取り組むきっかけになりました。経験もないのに厨房(ちゅうぼう)に入らせてもらえるなんて幸運なことでしたが、今考えたらちょっと無謀ですよね(笑)。若さのなせる技です。

 そこで2年ほど働いて、次に奈良にある料理旅館で調理を担当しました。そこは山の中にある旅館なので、水がすごくおいしくて。料理をおいしくするのはまず水。そしてよい食材。それらを使って丁寧に料理することが何より大切なんだという、料理の根本を学ばせていただきました。

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――働くことを通して料理の技術や考え方を学んでいかれたんですね。

冷水 振り返ってみると色々な仕事をしてきましたね(笑)。「一度は高級レストランの厨房も見ておかなくちゃ」と思い、大阪の有名店で働こうとしたこともあります。でも調理師学校を出ていない私にはなかなか門戸が開かず……。それでも諦められなくて、その店の洗い場のアルバイトに入ったこともありました。

 現在の仕事につながるきっかけになったのは、知り合いの器のお店を手伝っていた時でした。そこの店主の方は料理関係のスタイリストもされていて、撮影の時に食べるお弁当がおいしくないんだよねという話の流れの中で、ある時「キンコちゃん(私の愛称)、料理できるならケータリングしてよ」と。

 それで撮影時の食事を作るようになったら、雑誌や広告関係の方と知り合う機会が増えました。私が本当はフードスタイリストの仕事がしたいという話をしたところ、ちょこちょこと仕事をくださるようになったんです。

――ひょんなところからチャンスが巡ってきたわけですね。

冷水 それからは関西でほそぼそと雑誌の仕事をしていましたが、徐々に料理の仕事も増えていつの間にかスタイリングよりも料理そのものの仕事の方が増えてきたという感じです。

 地元を出るつもりはありませんでした。でも、いかんせん雑誌や広告の仕事は東京が主体です。編集者やフォトグラファーなど、「東京においでよ」と誘ってくださる方も多くて。それで8年目を前に上京することにしました。

 私は学校できちんと料理を勉強したわけではないので、最初はプレッシャーも大きかったです。「何料理が専門ですか?」と聞かれても、専門なんてないですし(笑)。それでも私の料理が好きだと言ってくださる方のおかげで、これまでやってこられたのかなと思います。

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――今は雑誌や広告、あらゆるメディアに引っ張りだこの冷水さんですが、料理のインスピレーションはどうやってインプットしているのですか?

冷水 欠かせないのは旅です。もともと旅に出るのが好きで、最近は料理家仲間と一緒に「食」をテーマにした旅をするのが楽しくて。中国でたくさんの種類の麺料理を食べたり、スリランカで本場のカレーを研究したり。これは何と何が入っていてと考えながら、メモを取りながら食べています。メキシコで食べたタコスが、これまで日本で食べていたものとは全く別物だということを知って驚いたこともありました。

 旅から戻ると、印象に残った料理を再現してみることもあります。でも大抵は「1回行ったくらいじゃ到底同じ味を出せない!」となるんです。だからまた行って、また作ってみる。料理の仕事というのはその積み重ねなんだと思います。

 趣味と仕事が一緒というのは得ですね(笑)。この夏は料理関係の友人とイタリア、ラトビア、スウェーデンを巡る予定です。かなりの強行軍ですが、どんな料理との出会いがあるか今から楽しみです。

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――冷水さんが料理を作るとき、大切にしていることはどんなことですか?

冷水 料理を食べてくれる人と、食材に対する気持ちでしょうか。よく「丁寧に料理しましょう」ということを耳にされるかもしれませんが、何もないところから「丁寧に」という気持ちは生まれてこないと思うんです。

 食べる人に丁寧に作った料理を食べさせてあげたい。そう思うと、食材も丁寧に扱いますよね。すごくシンプルなことかもしれませんが、その気持ちを持つだけで、料理はおのずとおいしくなるものです。盛り付けだってそうですよね。

 でも、一番は「食べてくれる人の喜ぶ顔が見たい」ということかな。

――最後に、悩める読者の方々に、楽しく料理をするにはどうしたらいいか、アドバイスをいただけるとうれしいです。

冷水 家族や友人など、大切な人のために日々料理を作られている方も多いと思いますが、それでもたまに「毎日大変!」と思ってしまうこともありますよね。そんなときは、自分が好きなお皿やお鍋を買ってみてはどうでしょう。

 私も新しいお皿を買ってきたときは「あのお皿を使いたいな」と思って台所に立つことがあるんです。お皿やお鍋は料理をしないと使えませんから、それが料理へのモチベーションになることってあると思いますよ。

   ◇

「冷水料理相談室」は一旦お休みさせていただきます。
次回(7月26日)からは料理家・冷水希三子の「なに食べたい?」が始まります。冷水さんが読者のみなさま、編集部の私たちの“あれ食べたい!” “これ食べたい!”を作ってくださいます。レシピもご紹介しますので、どうぞお楽しみに!

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PROFILE

料理家・冷水希三子さんインタビュー 「食べてくれる人の喜ぶ顔が見たいから」 

冷水希三子(ひやみず・きみこ) 料理家

料理家・フードコーディネーター。レストランやカフェ勤務を経て独立。季節の食材を使ったやさしい味の料理が評判を呼び、雑誌や広告などで活躍中。器選びや盛り付けに至るまで、その料理の美しさでも注目を集めている。著書に『ONE PLATE OF SEASONS-四季の皿』(アノニマ・スタジオ)、『スープとパン』『さっと煮サラダ』(ともにグラフィック社)など。

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 関めぐみ(写真)

    写真家。アメリカ、ワシントンDC生まれ。スポーツ誌、カルチャー誌、女性誌などで活躍。また、広告やカタログ、CDジャケット、俳優の写真集なども担当。書籍に『8月の写真館』『JAIPUR』など。

無類のカレー好き。お店で食べた味を家で再現したい!

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