パリの外国ごはん

ベジタリアン春巻きの乗ったボブンが好き。「Pho Minh」

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は、前回ご紹介したベトナム総菜店で教えてもらった姉妹店へ。店名にフォーがついているのに、二人して気に入ったのは、別の一皿だったようです――。
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イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

前回ご紹介したMinh Chauで、店を仕切る3代目の女性と話をしていたら、マレの中心地に姉妹店があるからぜひ行ってみて! とショップカードをくれた。フォーなどの汁ものや、ごはんを合わせた一品料理を出しているという。

もらったカードの住所を見ると、やはりこの連載で以前ご紹介したピタパンサンドのお店、ミズノンのある通りだ。万央里ちゃんにも聞いてみたが、2人そろって、その通りにアジア料理の店がある記憶がなかった。それで早速行ってみることにした。

なんと、Pho Minhはミズノンの隣にあった。本店のMinh Chauと同じような、飾り気はないけれど家庭的な雰囲気のお店を勝手に想像していたから、シンプルながら青紫色のネオンで店名が記された構えに一瞬たじろいだ。店に入る前に、外に貼られた写真付きのメニューに目を通す。たしかにMinh Chauよりもずっと品数が多く、ごはんとおかずがセットになったワンプレートものが並んでいる。

  

外観の印象そのままの店内にはまだ誰もお客さんがいなくて、外のにぎわいを好ましく思い、表に出されているテーブルに座ることにした。腰掛けてから改めてメニューに見入る。フォーの隣にある、米麺入りのチキンカレースープがとても気になった。

でも、写真から察するに結構スパイスを使っていそうだ。初めてだし、店名にもフォーとあるし、今日はシンプルにフォーしよう、と決めた。では、牛肉入りにするか鶏肉にするか。牛肉のフォーはどこのお店にもあるけれど、鶏肉はたまにしかお目にかからない。ということで鶏肉に決定。

万央里ちゃんは、ボブン(細い米麺にもやしやレタスなど生野菜を合わせた冷たいあえ麺)のベジタリアン版にするようだ。注文をする段になって、本店になかったものをもう一つ、と思いベトナム風ラビオリも頼んだ。

店の一番奥に厨房(ちゅうぼう)があるのが見えた。女性1人が働いている様子。サービスは若い女性がやはり1人で担当していた。ほんの50メートルくらいの距離のところに、この地区でいちばん人気のあるファラフェル屋さんがあり、観光客も多い。Minh Chauは通っているお客が多そうなのに対し、こちらはそういった空気はなく、ふらっと入る人や、近くで働いているらしき人がテイクアウトをしていた。

周りを観察していると、隣のテーブルにワンプレートものが運ばれてきた。ちらっと見て目を見張った。一辺が30cmくらいありそうなお皿の半分にこんもりとごはんがよそわれていた。お茶わんにしたら3膳分くらいありそうな、驚くボリュームだ。成長期の子どもでも、ここのワンプレートならおなかがいっぱいになるにちがいない。

  

そんなことを思っているところへ運ばれてきた前菜のラビオリは、一般的なボリュームと見かけをしていた。写真を撮っていると、フォーも出てきた。大きめの麺鉢に、麺が見えないほどに鶏肉が広がっている。刻んだネギもたくさん、コリアンダーもすでに盛られている。別皿で出てきた野菜は、定番のもやしにミント、そしてライム。

  

続いてやってきたボブンにも、ネム(春巻き)が気前よく乗っていた。
ワンプレートごはんの方はふつうの白いお皿だったが、フォーとボブンは、レトロな絵柄のついたプラスチックの鉢で、それとお箸がアジアを演出していた。

それにしても鶏肉の量がすごい。少しお箸を入れて麺の在りかを探ってみたところ、鶏肉と麺の量が同じくらいに思えた。麺は太め。これだけお肉が入っていたら、たしかに太めの方が良さそうだ。表面を覆っている鶏肉から食べてみることにした。

お箸で簡単にほぐれる柔らかさ。スープを十分に含んでいて、鶏肉だけ食べ続けても味に物足りなさを感じることはない。麺に鶏肉が合わせてあるというより、鶏鍋に麺を少し入れたような感覚で、お肉を食べて合間に麺を少し挟むペースでちょうどよかった。

  

こんな鶏のフォーは初めてだ。面白いなぁと思い、スープを口にしたところで、突然に落胆してしまった。おだしの味がしない。うまみ調味料が勝っていた。色合いも緑と白できれいだし、しっとりした鶏肉もおいしくて、麺とのバランスもほかにはないものだけに、う~ん残念。本店の雰囲気から、家庭的な味を期待してしまっていたからなぁ。

順序が逆になってしまったけれど、気を取り直してベトナム風ラビオリに手を伸ばす。この蒸した生地が好きなのだ。中はシンプルにひき肉とキクラゲでほとんど味はついていなかった。ひき肉はおそらく豚だけだろうけれど、鶏肉も混ざっているのか? と思うほどに脂っ気がなくポロポロしている。上に振りかけられたフライドオニオンもちゃんと乗せて、甘酢だれをかけながら食べると、味がひとつにまとまった。

  

私の頼んだフォーに負けず劣らず、万央里ちゃんのボブンも米麺と具のバランスがほかにはないもののようだった。あえ麺というよりは、米麺入りサラダの春巻き乗せ、というべきか。この春巻きの具にはほんのり甘みのある煮物を思わせる味つけがしてあり、タロイモだろうか、少しねっとりしたお芋のようなものにキクラゲ、春雨、ニンジンがぎゅっと詰まっていた。

本店といいここといい、春巻きが得意なのかな。手作りをひしと感じる味がする。アジアの風味を欲していてサラダが食べたいときに、生野菜にハーブもたっぷり、ベジタリアン春巻きの乗ったこのボブンは、ぴったりだ。

フォーはもう食べないだろうと思う。でも、最近はこの近くに来ると決まってミズノンでピタパンサンドイッチを食べていたところに、ボブンの選択肢が加わった。

  

Pho Minh(フォー・ミン)
20, rue des Ecouffes 75004 Paris
09 82 58 63 99
11~15時、18~23時(金~日 11~23時)
月休み

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

パリパリの春巻き1本だけを買う喜び。ベトナム料理「Minh Chau」

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週3回通いたい、ママのレシピ。アフリカ料理「BMK Paris-Bamako」

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