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最強最良のガイドブック『優雅な読書が最高の復讐である』

撮影/猪俣博史

撮影/猪俣博史

書評集というのはとても贅沢(ぜいたく)な書物だと思う。1冊で、何十冊、時には100冊を超える本にも出会えるからだ。物語を追う必要がないから、どこから読んでもいいというのも魅力的。逆に困ってしまうのは、紹介されている本を片っ端から読みたくなってしまうこと。でもそれも、贅沢な悩みだろう。

書評とひとくちに言っても、いくつかの種類がある。まず、書評家や評論家たちが書く、比較的まじめに内容やあらすじを伝えているもの。それから、作家が他の書き手の本を評したもの。作家の文章には独特のリズムや色、つまり文体があって、作家の言葉で紹介される本の世界にはまた違った輝きが加味される。そして、私がいちばん好きなのが、エッセイストやコラムニスト、アーティストたちによる書評だ。

彼らには、自分の好きなものは何か、という明確な態度がある。その芯は決してブレることがない。彼らが薦める本には一貫した揺るぎなさがあり、私はそこに大いなる信頼を寄せている。

ワクワクが共鳴する

山崎まどかさんは、幅広いテーマでさまざまな媒体に執筆しているコラムニスト。私が知ったのは『オリーブ少女ライフ』など、女子文化についての文章だったが、海外文化についても、映画についてもとても詳しい。そしてそれらの知識が縦横無尽に引き出され、つなぎ合わされ、ポップでカラフルなメイクボックスのようなすてきなコラムやエッセーに結実しているのだ。

この『優雅な読書が最高の復讐である』には、2004年以降に書かれた読書エッセーと書評、そして読書日記がつづられているが、当然話題は本だけにとどまらず、文字通り古今東西の映画やカルチャーにまで触手は広がり、気づけばページいっぱいにたくさんのタイトルが並べられていて、楽しくてワクワクが止まらなくなる。

ナボコフの『ロリータ』から幕が開いたかと思ったら、少女の靴下考からフランク・シナトラ、ティーンの文化分析を経て1940年代の映画にまで言は及ぶ。

そのあとも、村上春樹とB・J・ノヴァクが並べられ、乙女のためにモンゴメリがひもとかれ、アジズ・アンサリの恋愛社会学から、アイリーン・ベッカーマン、ダン・ローズ、トマス・ピンチョンを経て獅子文六に至るという離れ業をこなしてみせる。後半の、川上未映子、本谷有希子絶賛からのレベッカ・ブラウン、ノーラ・エフロンという流れを締めるのが久世光彦とジョーン・ディディオンという心憎さ。これはいったいどんなコース料理に例えたらいいのだろう!

柔らかいピンク、ブルー、イエローの紙でページだてされている読書日記のコーナーは、著者の生活をのぞき見るようでこれもまたワクワクする。それはつまり、ワクワクの共鳴なのである。

書店に寄って、海外文学の棚を見ているとそれだけでワクワクしてくる。昔から好きだった英米文学のおなじみの作家の新作が出ている。フレッシュな風を運んでくる新しい作家たちの作品がある。アジアの、ヨーロッパの、南米の名前も聞いたことのない作家の、何だか面白そうな小説が翻訳されている。広がる水平線を港から眺めているような気持ちだ。(本書内「いつでも始められる世界文学入門」から)

この本は、そんな「広がる水平線」へこぎ出すための最良のガイドブック。カルヴィン・トムキンズの一冊からとったタイトル通り、読書という優雅でこの上ない贅沢な時間が、「世間の流れから外れて自由」で、「本当のところ誰とも分かち合えない」ものながら、「喜び」をもたらす「自分勝手な楽しみ」として、各人にとって何かに「最高の復讐」を果たすための、最強のガイドブックでもある。

(文・八木寧子)


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    芥川賞作家ら17人、異彩放つアンソロジー。『kaze no tanbun 特別ではない一日』ほか
       

       

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