猫と暮らすニューヨーク

ずっしりとふわり。2匹の重みが恋しくなる

外出から戻ると、ありったけのおもちゃに囲まれているコンチータ、なぜかいつも床の同じ一点をじっと見つめるミスター……。「これまで猫を飼ったことがない私たちにとって、猫のユニークな性格や行動を知ることが、こんなにも素晴らしいことだとは知りませんでした」


外出から戻ると、ありったけのおもちゃに囲まれているコンチータ、なぜかいつも床の同じ一点をじっと見つめるミスター……。これまで猫を飼ったことがないふたり。「猫のユニークな性格や行動を知ることが、こんなにも素晴らしいことだとは知りませんでした」

[猫&飼い主のプロフィール]
猫・Mister(ミスター)12歳 オス メインクーン、Conchita(コンチータ)10歳 メス ペルシャ
飼い主・弁護士の傍らアーティストとして彫刻を手がけるBerenice Mariscal(ベレニーセ・マリスカル)さんと、テックデザイナーでありDJでもあるJustin Baum(ジャスティン・バーム)さんカップル。マンハッタンのチャイナタウンにあるロフトアパートメントに暮らす。

「ミスターは、“家を護(まも)ろう”という意識が強い猫。例えば来客があると、いちいちチェックしなければ気が済まないんです」とは飼い主のベレニーセさん。
案の定、取材チームが部屋にあがると、早速私のバッグに歩み寄り、くんくん匂いを嗅いで徹底検査。それからプイッと顔をそむけ、のしのしと去っていきました……。「You’re done(君のチェックは完了)ってことですね」と笑うのは、それを見ていたベレニーセさん。「以前、やかましいゲイの友だちが家に遊びにきて、きゃーとか、ワーとか叫ぶように喋(しゃべ)っていたら、ミスターが“ミャーーー!”って大声で鳴いて訴えたこともあるんです。黙れ、静かにしろ!ってね(笑)」。

ベレニーセさんに抱かれるミスターの、顔……。お見事な仏頂面。私たち取材チームの存在が、よほど鬱陶(うっとう)しいのでしょうね……


ベレニーセさんに抱かれるミスターの、顔……。お見事な仏頂面。私たち取材チームの存在が、よほど鬱陶(うっとう)しいのでしょうね……

それにしても、ミスターは、笑い話の尽きない猫である。根っからの食いしん坊ゆえ、そのエピソードのほとんどが食べものにまつわること。
例えば、自宅に友人たちを招いて、ピザパーティーを開いたときのこと。「テーブルの上に置かれていたチキンウィングス(鳥の手羽元)を、下からにょきっと現れた猫の手が、すばやくかっさらっていったのを、誰かが目撃していたんです。ミスターに違いないと思って探したら、リビングの観葉植物の後ろ側で、こそこそとチキンを隠そうとしていたんです」(ベレニーセさん)。

「ちょっと、早くちょうだいってば」。我慢できずにジャスティンさんの腕をトントン


「ちょっと、早くちょうだいってば」。我慢できずにジャスティンさんの腕をトントン

またある時は、自宅で友だちのためにベイビーシャワー(妊婦さんと生まれてくる赤ちゃんを祝う会)を開催。用意していたケーキを、みんなで食べようといざ箱から取り出したところ、表面に大きな猫の足跡がくっきり……。無論、ミスターの仕業である。
ターゲットは、人間の食べ物だけに限られていないらしい。
「旅行でNYにきた友だちが我が家に泊まっていたときのこと。自分たちの飼い犬へのおみやげに犬用のおやつを買って、それをスーツケースに入れ、部屋に置いたまま外に出かけたんです。部屋に戻ったら、どうやったのかスーツケースが開けられていて……」(ベレニーセさん)。もうおわかりですね、犯人はもちろんミスターです。他人の荷物を勝手に物色し、どうにかして犬用おやつを見つけ出したミスター。たいして好みではなかったようで、適当に荒らした後、雑に放ったらかしにしてあったとか。そして当の本人は、スーツケースの上でのびのび体を広げ、悪びれる風もなく、ぐーすか寝ていたという……。

ミスターに比べて体が小さく、体重も3分の1。でもミスターと共同生活を送るというタフさを秘めているコンチータ。名前のコンチータは、スペイン語で小さな貝殻という意味です


ミスターに比べて体が小さく、体重も3分の1。でもミスターと共同生活を送るというタフさを秘めているコンチータ。名前のコンチータは、スペイン語で小さな貝殻という意味です

さて、一方のペルシャ猫、コンチータはミスターとは正反対の性格。フレンドリーで平和主義。ちょっとまぬけな半面、勇敢なところもあって、時にはミスターに立ち向かい、素早い往復ビンタを繰り出すのだとか。さすがのミスターも訳が分からないといった感じで、啞然(あぜん)とした顔で立ちすくんでしまうという……。
そういうちょっとしたケンカはあっても、なんとかうまく折り合いをつけながら暮らしている2匹。それよりもミスターは、「コンチータを家族に迎えた私たちのことを許していないんです」とベレニーセさん。
例えば、ミスターの後ろをベレニーセさんが歩くだけで、振りかえり怒ってくるようになったという。「後ろを歩くな!っていう感じで“フガガガガガッ!”って。私も腹が立って、Stop it!(やめなさい)って言うと、また“フガガガガガッ!”(笑)」。
そうした飼い主に対する問題行動が増えたため、猫専門のbehavior psychiatrist(行動精神科医)に相談。アドバイス通り、ミスターとベレニーセさんが部屋の扉をしめ、1匹と1人の時間を持つようにしたところ、徐々に改善したのだという。

爪とぎは、1つずつ。コンチータは自分のおもちゃを爪とぎの上に確保しています。いくら爪とぎがあっても、ソファを引っ掻(か)く2匹。「定期的にソファカバーを取り換えています」と2人


爪とぎは、1つずつ。コンチータは自分のおもちゃを爪とぎの上に確保しています。いくら爪とぎがあっても、ソファを引っ掻(か)く2匹。「定期的にソファカバーを取り換えています」と2人

ところで、猫の一番好きなところは?という私の質問に、「ふわふわのテクスチャー」とジャスティンさん。ベレニーセさんは「重み」との答え。ずっしりヘヴィ級のミスター(体重9キロ)と、その3分の1の体重で、ふわっと軽いコンチータ。旅行や仕事で家を数日離れると、それぞれの猫を抱きかかえた時の重さが、恋しくなるという。
ああ、すごくよくわかる。と深くうなずく私。なぜって猫の重みには、その愛(いと)おしいいのちを感じずにはいられないから。猫のほうも、人間に抱きあげられるのを恋しく思ったりするのだろうか……。そうだとしたら、とても嬉(うれ)しいのだけれど。

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連載「猫と暮らすニューヨーク」では、ニューヨークで猫と生活するさまざまな人を訪ね、その暮らしぶりから、ユニークなエピソード、インテリアや飼い方のアイデアまでを紹介します。

ジャスティンさんのウェブサイト http://www.justinbaum.com/

写真・前田直子

PROFILE

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
http://www.bestofbrooklynbook.com

前田直子(まえだ・なおこ)

写真家

24歳で渡米。サンフランシスコのAcademy of Art Universityで写真を学んだ後、日本へ帰国し、フォトグラファーの前田晃氏に師事。2010年に独立し、雑誌や写真集、ウェブなどで幅広く活動。2013年に再び渡米、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に、日本&アメリカの雑誌や広告、ウェブなどで撮影を手がける。猫アレルギーでありながら、子どもの頃から無類の猫好き。10代の頃、実家で飼っていた猫の名前はチノ。
http://www.naokomaeda.net

ずっしりとふわり。2匹の重みが恋しくなる

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猫を観察することは、海を眺めることに似ている

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