花のない花屋

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

〈依頼人プロフィール〉
今村杏子さん(仮名) 22歳 女性
東京都在住
大学生

2016年7月、11歳年上の姉が亡くなりました。まだ31歳という若さでした。

あの日は土曜日。私はテスト前だったので家で勉強をしていると、夕方、母が突然出かけていきました。そして帰ってくるなり泣きながら「お姉ちゃん、沖縄でダイビング中に事故で亡くなったって……」と言いました。

私たちはその日のうちに沖縄に出発し、海上保安庁に姉を迎えに行きました。溺死(できし)でした。海水を浴びているので、髪はライオンのようにパサパサ。顔には引きあげるときについた生々しい傷がありました。

お姉ちゃんが亡くなった日の夏のにおい、火葬をするときに押すボタンの音や火葬の音、その日あった沖縄のスコール、街中でふと香る姉と同じ匂い……。すべての記憶が苦しく、命日から3カ月くらいは電車の中だろうと、大学だろうと、ところかまわず涙があふれてきました。

私はその3年前、17歳のときに父を病気で亡くしています。15歳年上の兄もいますが、もしいつか母が亡くなってしまったら、私はお姉ちゃんと二人で助け合って生きていくのだと思っていました。こうやって文章を書いていると、しばらく落ち着いていた涙が、またあふれてきて止まりません。

お姉ちゃんが小学校6年のときに私が生まれてきたので、お姉ちゃんにとっては母を取られたような寂しい気持ちもあったかもしれません。でも、お姉ちゃんはいつも私のことを考え、よろこばせようといろいろなものを買ってきてくれたり、たくさん遊びに連れ出したりしてくれました。

母に怒られた後にグチを言うのも、バカな話でゲラゲラ笑い合うのも、暑い夏の日にスーパーにアイスを一緒に買いに行くのも、何でもない日に私の好きなお菓子を買ってきてくれるのも、誕生日やクリスマスに「何か欲しいものある?」と聞いて必ずお祝いしてくれるのも、いつもお姉ちゃんでした。

お姉ちゃんは私や家族のことを考えていろいろなことをしてくれたのに、私はいったい何を返せたのだろう。大学に入ったら少しずつ与えてもらったものを返していこうと思っていたのに……返せなくなる日がくるなんて本当に苦しいです。

お姉ちゃんはお花が大好きで、何でもない日に花を買ってきては、うれしそうに花を飾る人でした。だから、月命日になると、私もお姉ちゃんにお花を買って帰ります。でも、いまいち自分の理想の花束が見つかりません。そこで、東さんに花束を作ってもらえないでしょうか。兄に子どもができて、私もお姉ちゃんもおばさんになること。バイトを始めたこと……話したいことがたくさんあります。近況報告をかねて、天国にいるお姉ちゃんにささやかなプレゼントをしたいです。

お姉ちゃんは東京の証券会社の本店で働いていました。趣味は社会人になって始めたダイビング。よく水中で撮った魚や沈没船の写真を私にも見せてくれました。とてもやさしい性格で、いつも一歩身を引いて他人に譲るタイプの人間でした。私にとって彼女のイメージカラーはオレンジなどの暖色系です。お姉ちゃんの名前に“蘭”という漢字が入っているので、母はよくランの花を買うようになりました。もしできたら、ランも入れていただけるとうれしいです。

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

花束を作った東さんのコメント

今回はランの花束です。南国、暖色、ランというキーワードで全体をまとめていきました。

まず、真ん中にあるのは大きな白いキングプロテア。そのまわりをオレンジ色のストレチアや、アンスリウム、ピンクッション、そしてエピデンドラムやアランダ、コチョウラン、シンビジューム、オンシジュームといったランの花々で取り囲んでいきました。

最初は真ん中のキングプロテアが目立ちませんが、まわりが枯れてくると徐々に存在感が増してくるはず。

ランも花持ちがいいお花なので、3、4回にわけて違う表情が楽しめると思います。お姉様への気持ちがつまったお花なので、できるだけ長く楽しんでほしいと思い、長く持つお花を選びました。

若くしてお姉様を失ってしまった悲しみははかり知れません。でも、お姉様のお名前にもあるランのお花を束ねると、こんなにもエネルギーに満ちた、生き生きとした花束になります。どうか、前向きに、お姉さんの分まで生きていってください。

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

「話したいことがたくさんある……」 22歳の私から31歳で亡くなった姉へ

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

帝王切開、出ない母乳、発疹……出産育児でうつに。見守ってくれた母へ花束を

一覧へ戻る

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

RECOMMENDおすすめの記事