パリの外国ごはん

何しろパンがおいしくて。旅先気分のあたたかいクルド料理「Menekse」

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は2人が最近気に入っている「いつも通らない小道に入る」探検で見つけた、クルド料理レストランです。クルド料理って、どんな料理なんでしょう……?
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イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里


  

イラスト・室田万央里

前回ご紹介したチベット料理店を下見に行った際、他にもいくつか見て回りたかった店があり、界隈(かいわい)を歩きまわった。いつも通らない小道にも、何の気なしに足を踏み入れたら…… そこだけ突然メルヘンチックな雰囲気の一角に出くわした。看板にはクルド料理レストランとある。ほかにはなかなかないチベット料理店の様相に興奮したばかりだったのに、クルド料理店まで見つけてしまった。

中を開いても植物の挿絵のあるメニュー


中を開いても植物の挿絵のあるメニュー

外に掲示されたメニューを見ると、これはじっくり見なくては!と即座に写真を撮ったほど品数豊富だ。これまでに食べたことのあるクルドのサンドイッチやグリル料理ではなく、試したことのない一品料理が並んでいる。

店は、車の通れる幅の無い歩行者専用の抜け道とT字路に交差している、行き止まりの道の正面にあった。それゆえに往来も少なくて、コート・ダジュールのどこかイタリアに近い街の路地にでも迷い込んだかに思える外装が、辺りの景色からより際立ったものになっている。

店内のランプシェードはトルコとモロッコから


店内のランプシェードはトルコとモロッコから

店の中に入れば、もうどこにいるのだかわからないオリエンタルな空気で、夏の日差しが強い日に訪れたことも手伝ってか、光の成すコントラストの強い陰影にいきなり旅先気分だ。

優しさを感じる植物の描かれたメニューを開くと、外で見た以上にたくさん料理がある気がした。初心者なので、ランチ限定でお得なセットとしてセレクトしてある料理から選ぶことにする

メインには、本日の料理のほかに、ベジタリアン、グリル料理、ソース料理があった。ソース料理に惹(ひ)かれた。具にはやはり豚肉はなくて、チキンをマリネしたものか、牛と仔羊のひき肉か。牛と仔羊肉を合わせた味を試してみたいと思い、2種のひき肉を詰めたナスのファルシKarniyarikに決めた。万央里ちゃんはベジタリアン版のナスのファルシImam Bayildiにするという。

ほどなくして、まずピクルスの盛り合わせが出された。オリーブにキャベツ、トマトそれぞれに塩気と酸味がばっちり効いて、なかなかにパンチがある。ひとつ、ピクルスにする小さなきゅうりの表面をつるっとさせて硬くし、さらに小粒にしたような正体不明の実があった。ぎゅっとしまった身はすっぱくて、インパクトでいったら昔ながらの梅干しのような、目の覚める味だった。

特注しているらしいパン


特注しているらしいパン

パンをつまむと、とてもおいしい。ふわっとしながら、噛(か)むと食感はしっかり。そして小麦の味がする。自家製か聞いてみると、店で作っているわけではないけれど、店のためにある人に作ってもらっているから自家製と同じ、と言われた。なんだか旅先で聞くことがあるような答えだなぁと少しおかしかった。

手前がホウレン草のフロマージュ・ブランあえ


手前がホウレン草のフロマージュ・ブランあえ

前菜に頼んだのは、ホウレン草のフロマージュ・ブラン(熟成させていないフレッシュチーズ)あえIsmanak taratorと、揚げナスと揚げピーマンのヨーグルトあえニンニク風味Kizartma。2品ともパンにぴったりの味だ。ホウレン草は、本当にフロマージュ・ブランとあえただけのシンプルな味ながら、意外にもニンニクが効いている。

揚げナスと揚げピーマンの前菜Kizartma


揚げナスと揚げピーマンの前菜Kizartma

揚げピーマンは皮をむいて揚げてあり、さらに酢でマリネしてあるようだ。対してナスは素揚げしたまま。ニンニク風味とあるけれど、それほど味はしない。ヨーグルトと合わせてあることでさらっとしていて、食欲が増した。

2人ともナスのファルシを注文したのは確か。でも、運ばれてきたふた皿は、思っていた以上に全く同じ様相をしていた。どちらもつややかで、見るからに優しそうな味わいに思えた。食べようとして、あれ? と付け合わせに目が止まる。メインにはblé concassé =ひき割り小麦がついてくる、と注文をとってくれたムッシュは言っていた。「ブルガー小麦(boulghour)?」と聞くと、「そう!ブルガー小麦!」と。が、お皿に盛られていたのは、どう見てもブルガー小麦じゃなさそうだ。

ブルガー小麦とは、硬質小麦をゆでてから乾燥させそれを砕いたもの。中近東では主食のひとつとされる全粒穀物だ。「これブルガー小麦じゃないよねぇ」「なさそうだねぇ」「おじちゃん、boulghourって言ったよねぇ」「言ってたねぇ」と2人で添えられたものを見ながら観察する。

「大麦だと思うんだけどなぁ、これ」とつぶやいて一口食べてみた。味も食感もやっぱり大麦に思えた。あと別の麦も入っている。大半が砕かれていない。こういうブルガー小麦もあるのだろうか。うーむ……でも、このゆるい感じがやっぱり旅先のようでまたしてもおかしかった。実際のところは置いておいて、いずれにしても、真っ先に食べたそれはバターの香りがして家庭的なふっくらとしたおいしさをまとっていた。

牛と仔羊のひき肉入りナスのファルシKarniyarik


牛と仔羊のひき肉入りナスのファルシKarniyarik

主役のナスは、分厚い輪切りが揚げてある。それに牛と仔羊のひき肉、赤・緑ピーマンとタマネギにトマトソースが詰められ、チーズがかかっていた。ピーマンは嫌いだけどナスのファルシにしたら子どもたちも食べるのよねぇ、とどこかのお母さんが言いそうな味だった。どんなだろう? と思っていた牛と仔羊を合わせたひき肉は、それぞれの肉特有の臭みがどこにもない。それどころか軽やかででも同時にコクもあった。そして少し甘みがした。これはいい! 今度、牛と仔羊を合わせてミートソースを作ってみよう。

こちらがベジタリアン版 ナスのファルシ


こちらがベジタリアン版 ナスのファルシ

万央里ちゃんのベジタリアン版はお肉の代わりにマッシュルームが入っていた。お肉がなくてもやっぱり子どもたちが好きそうな味だった。

皮がむかれてる焼きリンゴ


皮がむかれてる焼きリンゴ

メインを食べ終えても少しおなかに余裕があったので、デザートに焼きリンゴを取ることにした。すると意表をついた焼きリンゴが登場した。皮がない。これは皮をむいてから焼いているのだろうか。外側がちょっとぐじゅっとしている。クローブが入ってほんのりスパイシー、あとはハチミツを入れているのかな。

愛らしい器で出された紅茶


愛らしい器で出された紅茶

最後に紅茶を頼むと、愛らしい器に淹(い)れられたそれは、ものすごく安心する味だった。「これ、すんごいよく知ってる味だよ。たぶんリプトン。そしてティーバッグ」とまたおかしさがこみ上げてきて万央里ちゃんに言うと「うん、たぶんそうだよ、リプトン。ティーバッグだね」と彼女も繰り返した。

またしても、あたたか~い気持ちになる外国ごはんの食堂だった。

にぎやかな通りから横に入った歩行者専用の小道


にぎやかな通りから横に入った歩行者専用の小道にある

Menekse(メネクシェ)
7, passage de la Main d’Or 75011 Paris
01 40 21 84 81
12時~14時30分、19時~23時
日休み

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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