花のない花屋

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

〈依頼人プロフィール〉
黒河優里さん(仮名) 45歳 女性
東京都在住
コンビニエンスストア従業員

私の両親は父が26年前に脳梗塞(のうこうそく)を発症するまでは、ごくごく普通の夫婦でした。しかし、父が脳梗塞で倒れたあとは、母が仕事を掛け持ちして家計を支え、父の介護をするように。さらにその後、認知症と腎臓病を発症した父を、母は26年間面倒をみてきました。

母自身も5年前に子宮がんが発覚し、手術を受けています。それまでは老人ホームなどで食事を作る仕事をしていましたが、手術を機に仕事を辞め、絵手紙のカルチャースクールへ通い始めました。

もともと絵が好きだった母の腕はめきめきと上達し、当時父が入っていた認知症の施設から「みんなに教えてほしい」と声がかかり、いつの間にか先生をやるようにまでなりました。

この5年間、母は絵手紙の先生として活躍しながら、老人ホームで過ごす父や生まれたばかりの孫に会いに行ったり、同窓会に参加したり……。がんだったのを忘れるほど元気に過ごしていました。

ところが今年1月、がんが全身に転移しているのが発覚。でも、母は父を残して先に逝けないと、あらゆる手を尽くし、自身の病を抱えながら父の面倒をみてきました。

そんな矢先、今年7月に父が息を引き取り、母にも少しゆっくりしてもらえると思っていたのですが、今度は葬儀の翌日に母が下血、緊急入院に。

「次に下血したら最後」と言われていましたが、先日運良く下血が治まり、一時的に家に帰ることまでできました。そして、タクシーで病院へ向かっているときのこと。上野公園のわきを通ると母がぽつりと言いました。「公園に蓮(はす)の花がきれいに咲いているのよね。でも、入院していたら見に行けないわね。蓮の花を絵手紙に描きたかったわ……」。

その言葉が今も頭に残り、気になっています。そこで、入院している母へ、絵手紙に描けるようなお花を使って花束を作っていただけないでしょうか。蓮の花は無理でしょうが、蓮の花のようなお花があれば、入れていただけたらうれしいです。和紙に絵を描いているので、和のお花がいいかもしれません。母はとにかく人に優しく穏やかで、世話好きな性格。ピンクなどやわらかい感じの色が好きです。よろしくお願いします。

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

花束を作った東さんのコメント

今回のオーダーは身が引きしまる思いでした。ぜひお母様に蓮(はす)の花を見てもらいたくて、蓮の花と葉をメーンにアレンジしました。

中心に置いた蓮のまわりには、八重咲きのコスモスやシュウメイギク、パープルのリンドウなど、秋の花をさしました。さらにベルテッセンやクルクマソウ、小花のワックスフラワーなどを加え、全体をグリーンとパープルでまとめています。

つぼみの蓮は花を咲かせるのが難しいかもしれませんが、花の中にそっと手を入れ、少し広げてあげてみてください。開花を手伝ってあげることで、花が咲きやすくなります。

どうか元気になってくれますように……。この花束を見て、びっくりして起き上がってくれるくらいのことがあったら……と、祈りのような気持ちを込めて花を束ねました。

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

「蓮の花を絵手紙に描きたかった……」子宮がんを患った母へ花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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