花のない花屋

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

〈依頼人プロフィール〉
有馬純子さん 36歳 女性
福岡県在住
主婦

当時60代半ばだった母は、数年前からめまいがする、おなかが張るなどと体調が悪く、あちこちの病院に行ったものの原因がわかりませんでした。私たち家族は、「ストレスかな? 疲れたのかな?」などと話していました。

私には3人の子どもがいて、ちょうどその頃は長女の小学校のお受験で忙しかった時期。実家から車で15分の距離に住んでいながらも、なかなか会いにはいけませんでした。

そんな矢先、実家に行く予定だった日に母から突然連絡がきました。「今日来るって言っていたけど、お母さん救急車で運ばれちゃって。いま家には誰もいないのよ」。そう申し訳なさそうに言います。大丈夫よ、と繰り返す母に、どこかおかしいなと思い、夜姉に電話をしました。すると、「近くに住んでいるのに知らないのはつらすぎるから……」と、その日病院で告げられた病名を教えてくれました。大腸がんでした。しかも余命半年。私は初めて泣き崩れました。これほど泣くことは後にも先にもありませんでした。

その日から母の闘病生活が始まりました。病院の待合室にいる母を眺めながら、いつの間にこんなにやせてしまったのかと、毎回胸をえぐられる思いでした。でも、私の子どもたちが会いに行くと、ほんとうにうれしそうにしてくれました。子どもたちもおばあちゃんが大好き。長女は学校の宿題の音読を母に読み聞かせたり、だんだん意識が薄れていく母に話しかけたり……。子どもたちはいつも母の側に寄り添っていました。今思えば、その頃が意思疎通できた最後の日々だったかもしれません。

そして、宣告された半年が過ぎ、お別れが近づいてきたある日のこと。自宅で寝ながら、「うん」「ううん」くらいしか言えなかった母が、突然ぱっと目を覚まし、「お花屋さんに連れて行って」とはっきりと言いました。今にも起き上がろうとする母にびっくりして聞き返すと、「お花を買いたいの」と言います。

急なことだったので、あたふたしながら隣の部屋にいた父に言うと、父は庭から育てていた小さなヒマワリの花を持ってきました。「お母さん、見える? ヒマワリだよ」と差し出すと、目をつぶったまま「うん、うん」とうなずいてくれました。それから3日後、母は静かに息を引き取りました。

私たち家族にとっては最愛の母でした。たくさん苦労をしてきて、ようやく大好きな孫たちとこれから楽しい日々を過ごせる……というときの病。何かを恨みたくなった時期もありましたが、母が残した短い手紙には、「お母さんは幸せでした」という言葉が。今も思い出すだけでつらいですが、母の娘でよかったという思いでいっぱいです。

そこで、3年前に亡くなった母に向けて花束を作っていただけないでしょうか。母の趣味はお裁縫にお菓子づくり。料理がとても上手でした。そして淡い色合いの優しい雰囲気のお花が大好きで、庭にはたくさんの花を植えていました。母が亡くなる前に見た風景は、ヒマワリと、そして色とりどりのふんわりとしたお花畑だったのかな?と思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

花束を作った東さんのコメント

有馬さんのエピソードを読んで、こういう方のために花屋さんは存在するんだ、と改めて思いました。もし自分がこのときにオーダーを受けたらどう作るだろう?
このときお母様はどんな花束が欲しかったんだろう? そんなことをいろいろと想像しながら、心を込めてアレンジしました。

テーマはお母様が最期に見たというヒマワリです。ヒマワリとヒメヒマワリを2種使い、さらにアスターやへレニウム、カイガラソウなどイエローの花をちりばめました。

グリーンは、イエローに合うサンキライの実、涼しげなスモークグラス、そしてアセボです。かわいらしく、そしてさわやかな夏らしい花束になりました。

今回は、お母様へ向けて僕からの花束でもあります。気に入っていただけたらうれしいです。

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

「お花屋さんに連れていって」 別れが近づく大腸がんの母が突然話した言葉

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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