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“朝ドラ”『まんぷく』安藤サクラさん「崖へ飛び込む覚悟でこの冒険に挑んでみたら、そこはすごく気持ちのいい草原だった」

10月1日から始まるNHK連続ドラマ小説『まんぷく』でヒロインを演じる安藤サクラさん。昨年6月に第1子を出産したばかりの彼女だが、実はNHKから最初にオファーが届いたのは産後約4カ月のときのこと。長い朝ドラの歴史の中で、子育てをしている母親でありながら、ヒロインを務めたものは誰もいない。本当に自分で務まるのか…。悩みに悩んだ揚げ句、彼女はこの大役を引き受けることを決めたが、その決断の裏には母として役者としての葛藤と覚悟があった。

撮影/米山典子 取材・文/船橋麻貴

出産直後、大役のオファーへの不安と葛藤

カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した『万引き家族』で世界中から称賛の声を集め、10月からはNHKの連続ドラマ小説『まんぷく』でヒロインを務めるなど、今もっとも注目すべき役者のひとり、安藤サクラさん。その素顔は、快活でまっすぐ。初めて会ったものでも、一瞬にして魅了されるような不思議な力がある。

“朝ドラ”『まんぷく』安藤サクラさん「崖へ飛び込む覚悟でこの冒険に挑んでみたら、そこはすごく気持ちのいい草原だった」

『まんぷく』の撮影が始まってから数カ月たった今、「幸せな時間がずっと続いている」と話す安藤さん。ところが昨年10月にヒロインのオファーが届いた時、引き受けることは考えもしなかったという。なにせ同年6月に出産したばかりだったのだ。

「嫁いだからには、夫を支えることを一番に考えなきゃいけない、出産をしたら家庭を優先すべき、という考えが元々あったんです。だから子どもを産んでからは子育てに専念しなきゃって思うのは、私にとっては、ごく自然なことでした。そんな中で、今回のオファー……正直、『このタイミングでできるわけがない』って思いましたよ。(引き受ける)可能性はゼロでした。ただ、役者として考えれば、このお仕事を受けられないことがひたすらに悔しかった。どうやったらこの悔しさやネガティブな気持ちを、ハッピーに変えられるかを、そのあとしばらくずっと考えていました。『この子がいなければできた』とだけは絶対に思いたくないし、子どもにも将来、『本当はお母さんやりたかったんじゃないか』『自分のせいで夢をあきらめたのかな』と思われるのもイヤだったので」(安藤さん)

出産前から仕事復帰の明確なプランは思い描いておらず、出産後もただただ未知なる“母親業”と向き合っていた。そこにやってきたのが、これまでに何度もオーディションを受けてきた“朝ドラのヒロイン”という大役。それがゆえ、役者としての魂が大きく揺さぶられていく。

「本当はやりたい気持ちがたくさんあったんです。体中からオファーのうれしさがあふれて、しびれて。それなのに頭ではできないってストップをかけちゃう。そんな不思議な状況でした。でも、素直な気持ちをふと夫(俳優・柄本佑)に伝えてみたんです。いつもは照れくさくてそんな気持ちを言ったことなかったけど、この先、モヤモヤした思いを抱えて生きていくのが嫌で……。そうしたら『やれると思って、考えてみたら?』とサラッと返ってきたんです。ちょっと拍子抜けした気もしたのですが、ただ、こうやって軽く背中を押してくれたことが、一歩を踏み出す勇気につながりました」

女性の“勇気ある決断”は、どれも素晴らしい

“朝ドラ”『まんぷく』安藤サクラさん「崖へ飛び込む覚悟でこの冒険に挑んでみたら、そこはすごく気持ちのいい草原だった」

夫も実父も義理父も義理母もみんな役者。そんな役者一家の中でも、3人の子どもを育てながら女優を続けている義理の母・角替和枝さんからのある言葉が、安藤さんの決意を揺るぎないものへと変えていく。

「最終的にこのお仕事を受ける勇気を持てたのは、家族みんなの支えと助言があったから。それに尽きますね。私よりもNHKのスタジオに詳しくて、あそこのロビーがどうたらとか具体的なアドバイスをくれたり(笑)。なかでもお義母さんには、『この役をやらないなら、事務所もお仕事もやめちゃいなさい』と言われて。この言葉が朝ドラのヒロインをやろうという覚悟を決める大きなきっかけになりました」

家族や周囲の人間の支えもあり、母として、さらに役者として、前へ突き進むことができたという安藤さん。出産を乗り越え、育児をしながら、働く女性は少なくない。最後に、そんな“仲間”たちへのメッセージを聞いた。

「仕事と母親業のどちらを選択しても、その時を全力で過ごせたらいいんじゃないかと思います。出産・育児を理由に、仕事を選べない悔しさをどうにかポジティブに持っていこうとしても、結局その方法が私にはわからなかった。私は、最終的に“この役をやる”という選択をしたけれど、もしやらずに悔しい気持ちを抱えながら生きていく選択をしたとしても、それはすごく勇気のある決断だし、素晴らしいこと。その選択は決して間違いではないし、そうした決断の上で一生懸命に生きているのであれば、後悔することでもないと思うんです。

ただ、私から今言えることは、崖へ飛び込む覚悟でこの冒険に挑んでみたら、そこはすごく気持ちのいい草原だったということ。朝ドラのヒロインを演じることが、こんなにも生き心地のいい場所だなんて思ってなかったんです。たまにはその草原に崖が現れるかもしれないけれど、ひとりなんかじゃなくて、みんなで楽しく乗り越えていける気がしていて。そんな風に思いながら過ごしているこの時間が、とても幸せでいとおしい。だからこの役を演じられる喜びをかみしめながら、1分1秒を大切に過ごさなきゃって思っています」

“朝ドラ”『まんぷく』安藤サクラさん「崖へ飛び込む覚悟でこの冒険に挑んでみたら、そこはすごく気持ちのいい草原だった」

スタイリング/椎名直子(Tiber Garden) ヘアメイク/星野加奈子

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連続テレビ小説『まんぷく』(NHK総合 8:00~8:15ほか)

[放送予定]2018年10月1日(月)~12月28日(金)、2019年1月4日(金)~3月30日(土)<全151回>
[出演]安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平/桐谷健太、瀬戸康史、片岡愛之助、橋爪功、松坂慶子ほか
[作]福田靖

[あらすじ]インスタントラーメンを生み出した夫婦の物語を描く。戦前の大阪で誕生したヒロイン福子(安藤サクラ)は、貧しいながらもおおらかに育つ。ホテルの電話交換手として働く福子の前に現れたのが、バイタリティあふれる青年実業家の萬平(長谷川博己)だった。
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