上間常正 @モード

写真集「世界の美しい女性たち」が示す、多様で個性的なファッション

『世界の美しい女性たち-THE ATLAS OF BEAUTY-』(著者:ミハエラ・ノロック/パイ インターナショナル)


『世界の美しい女性たち-THE ATLAS OF BEAUTY-』(著者:ミハエラ・ノロック/パイ インターナショナル)

ファッションはいま、新しい形を生み出す力を失い、新鮮なビッグトレンドすらも無くなって均質化してきているとの指摘がある。来年春夏の新作発表の速報を見ても、まあその通りなのかとの印象も受ける。しかし、本当にそうなのだろうか? 先月に出版された写真集「THE ATLAS OF BEAUTY―世界の美しい女性たち―」(パイ インターナショナル)を見ると、実際には全く違うのではと思わされる。

この本はいわゆるファッション写真集ではなく、世界各地の普段着の女性たちのポートレートとその女性の生き方を語る言葉を簡潔に紹介している。撮影とインタビューは、ルーマニア・ブカレスト在住の写真家ミハエラ・ノロックさん。彼女は2013年から5年間かけて60カ国以上の国々を低予算のバックパッカーとして訪れ、さまざまな状況の中で生きている女性たちをソーシャルメディアで紹介するプロジェクトを続けた。

反響が大きかったため、2017年にアメリカで写真集として出版され、今回は日本限定版として刊行された。日本版は新たに撮影した日本の女性を加えた約550人の写真が収録されている。ノロックさんはこう書いている。「その女性たちのほとんどが、懸命に働き、奮闘していました。彼女たちは、時に女性としての差別に直面することもありましたが、そのような厳しい状況下でも、星のように輝いていたのです――品位と、強さと、美しさを兼ね備えながら」

ベルリン、ドイツ


ベルリン、ドイツ

ベルリンで出会った、大きなリュックを背に旅行から帰ってきた若いリサは、子供のころに路面電車にはねられてできた大きな傷痕や、すぐ赤く染まる頰のせいで自信がもてなかった。しかし長い月日をかけて、それが自分らしくて、自然で、偽りがない生き方と思えるようになったという。「何カ所も骨折して、そのせいで損傷した臓器もありました――だけど、同時にわたしの側にはたくさんの天使もいたみたい」

ワーラーナシー、ネパール


ワーラーナシー、ネパール

インドのガンジス川での雄大な朝の光の中で、お供えしていた若い巡礼者は、まるで別世界からやってきた女性のような落ち着いた表情を浮かべていた。「わたしたちが過ごした時間はほんの数秒でした。にもかかわらず、彼女の瞳、姿勢、服装、しぐさからは、言葉では決して伝わらなかったであろう神秘的なストーリーが伝わってきました」とノロックさん。

(写真左)ネパール、ポカラ、(右)ハイファ、イスラエル (イラン人)


(写真左)ポカラ、ネパール(右)ハイファ、イスラエル (イラン人)

ニューヨーク、アメリカ合衆国


ニューヨーク、アメリカ合衆国

ネパールの日曜日の午後に、川でボートに乗って遊ぶ女性の姿は、何か魅惑的な瞬間を感じさせた。イスラエルにいたバハーイー教徒のイラン人の女性は、信仰を捨てるか死ぬかを迫られ死を選んだ夫の処刑に立ち会わされた。ニューヨークに住む、エチオピア人の母とナイジェリア人の父を持つ姉妹は、学校を卒業後はアフリカに移住して役に立つ仕事をする予定だという。トルコのイスタンブールで進学のために移り住んだシリア人の女性は、ダマスカスに戻った両親の住む家が爆破されたが奇跡的に助かったという。「家族が無事だったと聞いた時の心情……どうやったら説明できるかな」

クルディスタン地域、イラク (クルド人)


クルディスタン地域、イラク (クルド人)

イラク北部の山間部を基点にクルド人の地域を守るために過激派組織「イスラム国」(IS)と闘っている女性部隊の兵士たちは、とても親切な態度と思いやりを見せた。指揮官を務める女性は「わたしは平和を好むタイプの人間ですが、ここでは二つのことを実現するために、戦う必要があります。クルド人であること、女性であることです」。また、フセイン政権の時代にクルド人の自由を求めて戦ったがイギリスに亡命した両親の娘で、修士号も得た女性はイラクに戻って生物の教師に。

(写真左)クルディスタン地域、イラク (クルド人)、(右)イスタンブール、トルコ (シリア人)


(写真左)クルディスタン地域、イラク (クルド人)、(右)イスタンブール、トルコ (シリア人)

北朝鮮で出会った一般の女性たちからは、厳しい政治・経済状況にもかかわらずこの国に存在する美しさ、人間らしさに気づかされたという。アルゼンチンのブエノスアイレスで出会った95歳のマリアは「早く撮ってちょうだいね。美容院に行く時間に遅れているの」と語る。

新義州、北朝鮮


新義州、北朝鮮

写真を選ぶのは困難なほど、どの女性も個性的で魅力的で美しい。そして共通しているのは目の力がとても強いこと。だがノロックさんのインタビューから伝わってくるのは、その奥に温かい優しさがあることだろう。「『美しい人』からは寛容と誠実さ、優しさを学ぶことができます」という。

イドメニ難民キャンプ、ギリシャ (シリア人)


イドメニ難民キャンプ、ギリシャ (シリア人)

世界の女性たちの装い=ファッションは、こんなにも多様で個性的なのだ。男性中心のファッション産業が生み出す今のグローバルファッションがその実情に対応できていないだけなのかもしれない。

世界の美しい女性たち-THE ATLAS OF BEAUTY-
著者:ミハエラ・ノロック(パイ インターナショナル)

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PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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