パリの外国ごはん

初めてなのに懐かしい。ポルトガル料理「Les Comptoirs de Lisbonne」

  

相方(室田万央里さん)が産休に入りまして、しばらくは私ひとりでこの連載を続けることになりました。お母さん業が板に付いたらまた、臨場感あふれるイラストとコメントとともに2人の異なる視点で描く「パリの外国ごはん」をお届けしたいと思います。それまでは、「パリのひとり外国ごはん」を文章と写真でお楽しみください。
今回ご紹介するのは、彼女の出産前に2人で訪れたポルトガルビストロです。

前々回のチベット料理前回のクルド料理を見つけた11区のアリーグル市場近辺にはおいしい店がいくつもある。ある日イタリア料理店でランチをしてその帰り、レストランからバス通りに向かうと、正面にカフェがあった。これまでに何度も目にしているその店のファサードをふと見上げたらLes Comptoirs de Lisbonneと店名が記されている。カフェだと思い込んでいたその店に“リスボン”と付いていることに驚いて、メニューを見るために通りを渡った。

  

店外に貼られた黒板メニューにはポルトガル料理が書かれていた。各料理ともフランス語の下に少し小さな字でポルトガル語での料理名が併記されている。去年あたりから、パステル・デ・ナタを筆頭にポルトガルのお菓子を売る店が数軒オープンしているけれど、このカフェビストロはいつからあっただろう?

さっそく万央里ちゃんに、ポルトガル料理のビストロを見つけたと連絡。二つ返事で“次はそこにしよう”と決まる。

ポルトガル料理は、まずメインから決めないと

約束の日は、かなり暑かった。日陰を求めて店内に入ると、暑さに負けないくらいビビッドな壁で南国の雰囲気だ。それに合わせてか黒板メニューも、文字に縁取りがついてにぎやか。楽しげだなぁと思ったが、料理に色が反射してしまいそうだったから、結局テラス席に座ることにした。

改めてメニューをじっくり見ると、前菜にはキャベツのスープがあった。ポルトガルのちょっと気の抜けた、輪郭があいまいな味のスープを思い出す。バカリャウ(塩漬け干しダラ)のサラダにも惹(ひ)かれるが、ポルトガル料理はなんにせよメインがボリューム満点だ。そう思い、まずはメインから決めることにした。

アサリのコリアンダー風味、タコのグリル、鶏肉の蒸し煮ポルトガル風、とどれも気になったけれど、いちばん下に豚肉のアレンテージョ風carne de alentejanaを見つけそれに決める。パプリカのペーストで味付けした豚肉とアサリを炒めた料理で、ジャガイモのソテーが付け合わせ。万央里ちゃんはエビの米料理にするらしい。ポルトガル料理ならば、ひとつは干しダラも食べたいところ。前菜に干しダラのコロッケbolinhos de bacalhauがあったので、それをシェアすることにした。

  

リスボンを旅行したときには、一度しか干しダラの料理を食べなかった。食べている途中で飽きてしまうことを懸念して、味見はしたいのだけれど敬遠したのだ。でもコロッケだったらきっと大丈夫。その期待に応えるかのような、見るからにカラッと揚がっていることがわかるコロッケが運ばれてきた。

  

アジアっぽい皿とチリソースにお箸が欲しくなりながら、ひと口。私の心配をよそに、しょっぱさはなく、粗く戻してあるのかタラには時おり硬いところがあった。でもその粗さが、手作りならではのおいしさを生んでいた。揚げ油はオリーブオイルだろうか、ものすごく香ばしく、見た目に違わずカラッと軽やかに揚がっている。揚げ衣も、小麦粉じゃないのかなと思うほどの軽さだ。こんなにも塩気の控えめな干しダラ料理があるのだなぁと驚いた。

これは、メインの豚肉も塩味控えめかもしれない。おいしい組み合わせなはずなのに、豚肉のしょっぱさに食べ続けられないお皿に何度か出合っていた。楽しみに待っていると、目を奪ったのは万央里ちゃんの頼んだエビの米料理だった。

  

「あれ? これ、スープ?」2人して器をのぞき込むようにして問いかけると、「下にお米が入ってるよ。スープがたっぷり入ってないとお米が汁を吸い込めないから」とスタッフが教えてくれた。

  

言われたように下からスプーンですくうようにすると、お米が現れた。群れをなす魚が描かれたラーメン鉢のような器は結構な大きさで、殻入れに出してくれた小鉢に、万央里ちゃんが私の分をよそってくれる。真っ赤なスープは、その濃い色に反して優しい味だった。これぞポルトガル! と思えるぼやけた味だ。

塩漬けのものはしょっぱいけれど、そうでないものは“これってこれでいいのかな?”と確かめたくなるようなぼんやりした味で、初めて食べてもなんだか懐かしさを感じる。それがポルトガルごはんの印象で、このトマトスープも、言ってみれば既定路線の味だった。

  

豚肉料理も、塩漬けだろうけれど、これまでに食べたどのアレンテジャーナよりも塩っぱくなかった。アサリがたくさん入っていて、味付けのバランスがちょうど良くおいしい。これと、エビ入りトマト雑炊と交互に食べたら、とても良い感じだ。面白いと思うのは、豚肉が塊でなく小さな角切りにしてあること。ポテトも同じ大きさ。リスボンでも不思議だなぁと思っていた。

ポルトガルの人はあまりナイフを使いたがらないのだろうか? それとも、アサリの殻を取るのには左手でつまんでフォークで実を外す方が早いと右手にフォークをつかんだままだから食べやすいようにあらかじめお肉も切ってあるの? いやいやこれにはいわれがあって、昔アレンテージョの漁師たちはうんぬんかんぬん……なんてストーリーが何かあったら楽しいなぁ。いつかそんな話を探りに現地へ赴きたい。

  

Les Comptoirs de Lisbonne
レ・コントワール・ド・リスボンヌ
14, rue Faidherbe 75011 Paris
01 43 71 47 42
12時~15時、19時~23時
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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