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<100>東京&新潟、”ダブルローカル”の利点を生かす自由空間 「gift_lab GARAGE」

 東京メトロ・都営大江戸線の清澄白河駅前に降り立つと、どこの駅にもありそうな、チェーン展開の店が皆無であることに気づく。3年前に「ブルーボトルコーヒー」日本1号店がオープン。周囲にも個性的なコーヒーショップや雑貨店などが点在するようになり、それに伴い、こうした店の散策を楽しむ人が増えていった。

 清洲橋通り沿いでひときわ存在感を放つ、築80年超えの集合住宅「清洲寮」1階に「gift_lab GARAGE」がオープンしたのは、「ブルーボトルコーヒー」が登場する約3カ月前の2014年11月のこと。店名の通り、かつてガレージだった約100平方メートルのスペースをリノベーションし、ガラス張りのカフェとして新しい命を吹き込んだ。

 運営するのは、デザインユニット「gift_」の空間デザイナー・後藤寿和さん(49)と、イベントなどの企画立案を行う池田史子さん。2人はかつて、ライフスタイルショップ「IDÉE」に在籍し、商品の企画や新規事業、店舗の立ち上げなど、幅広い仕事を担っていた。独立後にオフィスを構えたのは恵比寿だった。

「ただのオフィスじゃつまらない。常に人が出入りして、そこから新しい何かが始まるという状況にしておきたかったので、仕事場以外にもフレキシブルに使える空間にしたんです」(後藤さん、以下同)

 雑居ビルの2階という隠れ家的な場所に、自分たちが気に入っている本やCD、雑貨を置いたり、実験的な音楽やアートのイベントをやったりするうちに、さまざまな人たちが出入りするようになった。その半面、次第に「これだけでいいのか?」という閉塞(へいそく)感も募っていった。オフィスを構えてから6年後、東日本大震災が起こった。

「東京の真ん中でこのまま過ごしていいのか? ということを強く考えさせられました」

 そんな時、人づてに新潟県十日町市で3年ごとに開催される「大地の芸術祭 越後妻有アート トリエンナーレ」のある土地で、一軒の空き家の空間デザインの依頼を受ける。現地に行った後藤さんはそこで、新しい可能性を感じた。

「味のある古民家じゃなくて、築40年以上の普通の一軒家でした。でも、逆にやりがいがあると思いました。空間デザインだけでなく、運営までやってほしいと言われてはじめは悩んだものの、“非日常”の芸術祭の期間以外の、“日常”の部分で何ができるかを試してみたくなったんです」

 とはいえ、東京も重要な拠点であり、移住は現実的ではない。そこで、東京と新潟の双方を地元ととらえる“ダブルローカル”というスタイルを選択。数週間ごとに東京と新潟を行き来し、地元の協力者と連携してカフェ&ドミトリー「山ノ家」を運営することになった。

「十日町市の人たちがいい距離感を保ってくれているおかげで、このスタイルを確立できました。でも、地元総出で行う草むしりには参加するなど、地元のつとめには顔を出すようにしています。新潟という拠点ができたことで、東京だけでなく、複数の視点が持てるようになったのは大きな収穫でした」

 そんな中、東京での生活にも変化が訪れる。人づてに「清澄白河にこんな場所があるよ」という話が舞い込んだ。それが清洲寮1階のこの場所だった。

「以前なら東京の東側に拠点を移すなんて考えたこともなかったのですが、新潟での経験もあり、“東京のローカル”で新しいことをやってみたいという気持ちが芽生えたのです」

 高い天井に広々とした空間、近くに川が流れる街の“抜け”のよさも気に入った。

「恵比寿ではどこか、街のブランドを背負っていたようなところがあるのですが、それにあまり魅力を感じなくなっていたのも事実。清澄白河という場所に、伸びしろのある面白さを感じたんです」

 広々とした空間はギャラリーやイベントスペースとしても使うことができ、ここでも同じように自分たちが気に入っているアート系の本や雑貨を並べた。店の奥には「gift_lab」のオフィススペースも確保しているが、カフェで仕事や打ち合わせをすることもしばしば。店で提供するランチの食材は、魚沼産コシヒカリや、「越後妻有ポーク」といった新潟の食材を使用。“ダブルローカル”の強みも生かしている。

「単なる自由なスペースではなく、文化的なことや知見に触れられる場所でありたいと思っています。なので、本を置くのもその一つ。店の奥に『小屋』と呼んでいるスペースがあるのですが、ここに近所に住む本好きのtsugubooksさんの選書による“小屋ブンコ”を作りました」

 後藤さんが「フラットでニュートラルでありたい」というように、どう過ごしてもいいし、何をやってもいい自由な空間がここにはある。

「いまだに『何屋さん?』と聞かれることがあるのですが、人それぞれの使い方があっていいと思っていますし、これからどうなっていくかも明確に決めずにいるんです」

おすすめの3冊


おすすめの3冊

■おすすめの3冊
『RETHINK』(著/Tom Dixon、写真/Ashley Cameron)
照明や家具などで人気のプロダクトデザイナー、トム・ディクソンの作品集。「革新的なデザインで注目を集めたデザイナーなのですが、とても実験的なアイデアに満ちていて、自分たちの考え方の刺激になっている一冊です」

『優雅な生活が最高の復讐である』(著/カルヴィン・トムキンズ、訳/青山南)
1920年代のフランスで多彩な文化人と交友を結び、フィッツジェラルドの小説のモデルにもなった米国人富豪夫妻の生活を描いた傑作ノンフィクションの傑作。「タイトルがすごく気に入っていて、生きる上でのスタンスを教えてくれます」

『John Cage』(著/John Cage)
作曲家、詩人、アーティストとして幅広く活躍したジョン・ケージの生き方を描いたノンフィクション。「彼の作品に、一切の音を奏でない『4分33秒』という曲があるのですが、その間に聞こえる音を感じ取ったり、見えないものを感じたりしようという意図があり、面白さを感じています」

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gift_lab GARAGE
東京都江東区白河1-3-13 清洲寮102
http://www.giftlab.jp/garage/

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写真 山本倫子

PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。

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