猫と暮らすニューヨーク

感覚のするどい保護猫、深夜の危機一髪を救う。

「動物は良きセラピスト」とサラさん。フォレストを亡くして傷ついた心を、ピーチが癒やしてくれています


「動物は良きセラピスト」とサラさん。フォレストを亡くして傷ついた心を、ピーチが癒やしてくれています

[猫&飼い主のプロフィール]
猫・Peach(ピーチ)6歳半 メス グレーのトラ柄
飼い主・保育園でアートを教えているSarah Frohn(サラ・フロン)さん、テレビや映画のサウンドエディターをしているAlex Loew(アレックス・ロー)さんカップル。ブルックリンのワンベッドルームアパートメントに暮らす。

幼少の頃から犬と育ったサラさんとアレックスさん。2人の人生初の飼い猫は、急きょNYを去ることになった友人の友人から譲り受けた、オレンジ色の猫Forrest(フォレスト)だった。

「ちょうど彼(アレックス)と暮らし始める一カ月前のことでした。だから猫のフォレストは、私たちの新たな冒険の一員みたいな存在でした」とサラさん。くるりとしたブルーの瞳が美しいオス猫。すでに11歳の成猫ではあったけれど、よく食べよく遊ぶ健康体。家にやってくるやいなや2人になつき、毎晩ベッドで一緒に寝た。

フォレストが突然、腎臓病を発症したのは、それからたった6カ月後のこと。日に日に体重が減りながらも元気に遊ぶ姿を見て、かすかな希望を抱いていた2人に、獣医師が示した現実は酷なものだった。

「毎日のように治療が必要であること。治療には莫大(ばくだい)な費用がかかること。そうした治療にもかかわらず、あとわずかに生きられるかどうかということ」(サラさん)。

6カ月の短い共同生活でも、フォレストと2人の間には深い絆が育まれていた。「だからあまりにも悲しい現実でした」(サラさん)。11歳を超えているフォレストにとって、治療という選択は正しいことなのか、治療はお互いを幸せにするものなのか……。悩みに悩んだ2人は、安楽死という結論に至った。サラさんは当時を振り返り、こう表現する。「それは、これまでの人生で経験したことのないつらい決断でした」。

お別れの日、2人の心をうつすかのような、どんよりとした曇り空。「フォレストにお別れをして外に出たとき、一筋の光が空から差し込んだんです。それを見たとき、“ああ、正しい選択だったのかな”と、少しだけ救われた気持ちになりました」(サラさん)。短くも濃密な時を過ごした、初めての飼い猫フォレスト。その思い出にいつでも触れられるよう、部屋の壁にはサラさんが描いたフォレストの絵が大切に掛けられている。

アパートの地下で保護されたピーチ。6年間、地下で暮らしていたのか、誰かがゴハンをあげていたのか、あるいは別の場所からやってきたのか…。その半生は謎に包まれています


アパートの地下で保護されたピーチ。6年間、地下で暮らしていたのか、誰かがゴハンをあげていたのか、あるいは別の場所からやってきたのか…。その半生は謎に包まれています

それからしばらく悲嘆にくれていた2人は、犬猫の保護施設を訪れることにした。ほかの猫を受け入れる心の準備ができているかを、確かめるためでもあったという。そこで偶然出会ったのがグレーのトラ柄猫、ピーチだった。

「保護施設という慣れない環境で、きっとストレスもあったはずなのに、ピーチはとってもリラックスした様子でした。初めて会った私たちに肉球を触らせてくれたんです」(サラさん)。2人を怖がらない猫に、息の合いそうな予感がした2人は、ピーチを2匹目の猫として迎えることにした。

とあるアパートメントの地下にいたところを保護されたピーチ。かなりやせ細っていたけれど、サラさんとアレックスさんと暮らすようになって、その面影はどこへやら。今ではふくよかな体を横たえ、ぐうぐう昼寝をし、気まぐれにねずみのオモチャを追いかけ遊び、思うがままの平和な毎日を送っている。

二足立ち姿になって、夢中になるピーチの姿を激写! ヴィンテージアイテムを配し、棚はDIYで取り付けたというアパートメントの部屋は、2人の個性が存分に発揮されています


二足立ち姿になって、夢中になるピーチの姿を激写! ヴィンテージアイテムを配し、棚はDIYで取り付けたというアパートメントの部屋は、2人の個性が存分に発揮されています

ピーチの類いまれなる才能といえば、鋭い聴覚。「私たちの部屋があるのは3階なのに、1階の玄関ドアが開く音がわかるみたい。ピーチのおかげで、誰かが階段を上がってくるのがすぐにわかります。帰宅するといつもドアの前で私たちを出迎えてくれるのも、たぶんそのせいですね」(サラさん)。その聴覚のおかげかどうかはわからないけれど、ある夜中に、こんな出来事もあった。

アレックスさんがヘッドホンをつけ、寝室のデスクで仕事をしていたところ、「ピーチがそろりと近づいてきて、両前脚で僕の腿(もも)をぽんぽんと叩(たた)いて、ミャオって鳴いたんです。ゴハンがほしいっていう合図とも違う。なにかおかしいな、と思ってピーチの目線の先を見たら…」(アレックスさん)。おわかりでしょうか、あの黒い忌まわしい虫が壁にべったり張り付いていたのだとか。「それはもう、人生で初めて見たぐらいの大きさでしたよ(笑)」(アレックスさん)

ピーチは、やんちゃで甘えん坊。「ティーンエージャーみたいに、生意気なところもあります」(サラさん)


ピーチは、やんちゃで甘えん坊。「ティーンエージャーみたいに、生意気なところもあります」(サラさん)

さあ、そこから深夜の捕物劇。靴棚の下に逃げ隠れたソレを人間が追い出し、バスルームへ走り逃げたソレを猫が追いかけ、再び廊下に姿を見せたソレに人間が靴を投げつける。2人&1匹で大格闘の末、見事捕獲!

「ピーチが番犬ならぬ番猫であることが証明された出来事でした」と笑うサラさんに、「そういえば古代エジプトでは、猫は悪いパワーを跳ね返す生きものだって思われていたらしい」とアレックスさん。今も昔も、人間は猫に守られ助けられながら、暮らしを営んでいるというわけですね。

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連載「猫と暮らすニューヨーク」では、ニューヨークで猫と生活するさまざまな人を訪ね、その暮らしぶりから、ユニークなエピソード、インテリアや飼い方のアイデアまでを紹介します。

サラさんのインスタグラム
https://www.instagram.com/sarahhkraut

アレックスさんのウェブサイト
https://aloew.audio/

写真・前田直子

PROFILE

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
http://www.bestofbrooklynbook.com

前田直子(まえだ・なおこ)

写真家

24歳で渡米。サンフランシスコのAcademy of Art Universityで写真を学んだ後、日本へ帰国し、フォトグラファーの前田晃氏に師事。2010年に独立し、雑誌や写真集、ウェブなどで幅広く活動。2013年に再び渡米、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に、日本&アメリカの雑誌や広告、ウェブなどで撮影を手がける。猫アレルギーでありながら、子どもの頃から無類の猫好き。10代の頃、実家で飼っていた猫の名前はチノ。
http://www.naokomaeda.net

感覚のするどい保護猫、深夜の危機一髪を救う。

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プエルトリコからの保護猫、レディー・ガガが嫌い!?

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